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幽閉 -祐塀-

作者: 雛子

私はあるアパートの一室に住んでいる。部屋は、六畳の和室が一つと、狭い台所とトイレ、風呂も付いている。あとは小さいながらも押入れがある。狭いながらも生活に不便ではない快適な部屋だった。

電気を消して雨戸を閉めて窓を閉めてカーテンを閉めて。私は大抵、というより常にそこに居る。

動かないので空腹にはまるでならないし、座った大勢のまま寝てしまう事が殆どなので丸一日動かないで生活する事は可能だ。


その明かりは時間の感覚を狂わせる。

「祐??」

ずっと夜ならそのままで。只それだけでいいのに。

「来るなって言ってるのに。」

私の声に急かされてドアが閉まる音と共に光がまた遮断され抹消された。暗い中で、何かが動く音と気配がした。私の前に何か座った。

「じゃあ訊くけど。」

今日は珍しくこの話相手は会話を持ちかけてきた。珍しいのは私か。いつもならこの話し相手が部屋に入って時点で悪態をつくことすらまずないのに今日はどうした。

目を逸らさないで私を覗くのはやめて。今すぐにでも私は自身のリストをカットしてやろうかと思ったが手ごろな包丁は私の手の届かない所にあった。いや、在ったと思う。最近私は文明の利器アレルギーのごとく何者にも触れていないのでよく判らない。

「ずっと昼ってのだとどうして嫌なの。」

全く君はそんなに暗闇が落ち着かないのかいどうかしてるんじゃないか。少し高い位置から聞き手になるだけで私は圧倒的自信を身につける。

「...眩しいよ。眩しくないの?」

「なにそれ。」

何と云われても。明るいのが嫌なのに理由はそれほどない。これ以上の理由を言った所でこの話し相手の理解に値するとは到底思えない。

「溶けそう。」

私はうっすら目を明けて、前にいる話し相手を見た。見たと云うよりかは、存在を確認したと言う方が最もだ。それでも私の目はすっかり猫目になれていて、簡単に輪郭を見てとれた。もういっそ猫になりたい気分だ。

「そんな事言ってると。」

目の前の話相手は少し拗ねた様だった。ようやっと自分が私の話の対称になっていないことに気付いたのか。

「本当に溶けるよ?」

なに言ってくれるんだ。とうとう暗闇に拒絶反応を示し始めたのか。

「どんな風に溶けよう。水か、スライム状か、はたまた砂か。いっそ存在自体この世界からいなくなる事を溶けると定義して欲しいよね。」

「よね、じゃないよ。」

本当に拗ねている様で私は腹が立った。私は自分勝手なわけじゃない。人に迷惑をかけないように、こうして籠もっているだけ。

自分勝手に心配して自分勝手に他人の家に押し掛けて来ているくせになんで、なんで私がキレられている。

「昨日か今日か判らないように終わりと始まりをつなげてるだけ。」

静かでそれでいて少しキレている私の物言いに相手は黙った。

「それだけでこの空間は、永遠性を持つの。時間の超越、生の絶対的肯定。」

私は続ける。この意見が理不尽とは思わない。砂の城くらい脆いものだとも思わない。思ったら負けだ。

「それを崩してるのは、貴方じゃない。」

真っ暗なこの空間は沈黙した。まくしたてた後の沈黙ほど生温かいものは無い。こんなの、暗闇以上に気持ち悪い。

「...貴方が悪い。」

私がそういうのとほぼ同時に、何かが動く気配がした。そしてその後一筋の光が私の猫目を附いた。とにかく静かになった。


次の日も当然、話し相手はやってきた。いつもどおりためらいつつもドアを開けた。

光が部屋に僅かに差し込みそして消えた。早くドアを閉めたのは昨日の反省心の現われかと思われる。

「祐??」

台詞自体は昨日とまるで同じ。ただそれには不安が混入されていた。

昨日が特別だったのだ。私は返事を返さない。これがいつもどおり。

瞬間、光が射したが消えた。出て行く人の影も見えた。おそらくあれがいつもの話し相手。まもなく再び永遠性が到来した。

私はまだ溶けていない。存在がこうしてここに在る。存在が在るというと言葉が被っているが、叩き過ぎた頭にはほかにいい表現が思いつかなかった。

存在が消えることを《溶ける》と定理したのは私だ。証明するために私はもうしばらくこの空間で生きる。

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