三日目
四話目です。
では、どうぞ。
今日は自由散策の日だ。つまりコスプレの日だ。
今日の大垣はいつもに増してテンションが高い。
狩衣に着替えた大垣はノリノリで、店のカメラマンも楽しそうだった。
同じ衣装の俺に話を振ってくるが、ちゃんと返せず不満らしい。
自由行動の打ち合わせを踏まえ、図書室でそういう本を借りてはみたのだが、
目が読む事を拒否した。
結局のチャンスを生かす事ができなかった。、
新撰組の二人も同様で相手にならない。
十二単の柳田が出てきて、やっといい相手ができた。
「若紫!」
「光様・・・って、そんなに私小さい?」
俺には話が見えない。
小柄な柳田は、重くて動けないと言い座りっぱなしだ。
大垣はそのそばで、あれこれと話しかけては笑っている。
傍目には、柳田を口説いているようにしか見えない。
カメラを向けられて寄り添う姿は、とても絵になった。
確かに『源氏物語』はその手の話だけどさ・・・。
宝塚って所か?
「美晴ちゃん、その格好変に似合うよね、」
俺も思っていた事を、柳田が言った。
「志帆ちゃん・・・褒めるならちゃんと誉めてくれないかな?
変にってのが気になるんだけど?」
「だって女の子なのに・・・。」
柳田の気遣いは無駄だったようだ。
「関係ない。似合うよってだけで十分じゃないか。」
腕組みをして不貞腐れる。
俺は思わず笑い出してしまった。
「似合う、似合う、見事な男装の麗人。」
「笑いながら言われても、説得力が無い。」
扇を鼻先に突きつけられた。
その時ようやく支度の済んだ安田が、店の人に付き添われて出て来た。
黒に金の内掛けに、中に覗く赤が映えて・・・かなりスゴイ。
「おーっ、葵、最高に色っぽい。」
大垣は俺の前からするりと逃げていく。
「ありがと、美晴も美少年って感じ。」
これだけの言葉で大垣の機嫌が治った。
二人の仲の良さを見せつけられ、複雑な気分になった。
安田の撮影をしながらワイワイやってたら、大垣がいなくなっていた。
「なぁ、大垣知らないか?」
みんなが首を横に振る中、カメラを向けられた一人だけが澄ましていた。
「安田は知ってんだな?」
何かやっぱり悔しい気がする。
「美晴はお色直し中。」
悪戯っぽく笑いながらそう言った。
大垣も太夫の衣装を着る事になっていたらしい。
母親の差し金で、本人も知らされていない。
連れて行かれて初めて耳にするという・・・まるでドッキリのようだ。
安田は、その事を支度の途中で聞いたと言う。
呆気に取られる俺達と余裕の安田との差は、聞いた時間の差ではなく、
こういう事態に慣れている・・・そんな気がした。
結構待たされてやっと出て来た大垣は安田に劣らず、いやそれ以上だった。
赤と紫と金、派手な色ばかりだが、それだけ見事な着物だった。
目の縁塗られた赤も、動くたびに揺れる飾りも、堂々と立つ大垣に似合っている。
でも普段とは別人のようで、どこか迫力がある。
「こうなったら、とことん楽しんでやる・・・。」
赤い唇から、開き直ったような言葉をこぼして安田の撮影に加わった。
そして俺も、カバンからデジカメを取り出した。
後で聞いた話によると、値下げの条件に大垣の太夫姿も入っていたらしい。
そうなれば、大垣に拒否権は無いも同然だ。
彼女の母親とここの店長は旧知の仲で、この二人によって企てられたのだと言う。
大垣は「またやられた」と悔しがっていたが、一体どんな親なんだろう?
読んで頂き、ありがとうございました!
メインイベントです。
参考に写真屋さんのサイトを何件か見たんですが、
やりたいなー!!
と、本気で思いました。