一日目
二話目です。
では、どうぞ。
修学旅行当日。
朝早くに駅に集合して、まずは新幹線で奈良に向かう。
車内でも大垣は楽しそうだった。外を見てはしゃいでいる。
どうしていつもあんなに元気なんだろう?
結局、途中から寝てしまったが、まあそれは大垣に限った事ではない。
最初は珍しくても長く乗っていれば飽きる。しかも朝早かった。
俺はちょっと得した気分で、通路を挟んだ隣の席を眺めていた。
「お前よく寝てたな。」
紅葉にカメラを向ける大垣に近付き声をかけた。
「あぁ田村か・・・、昨日寝て無いからな・・・まあ仕方無いだろ?」
一目俺を見て、再びカメラに向かうのが少しおもしろく無くて、
からかい気味に余計な事を言ってみた。
「何だ、期待し過ぎて寝れなかったのか?」
「違う。妹がギリギリになって課題手伝えって言うから・・・。」
「手伝ったのか?」
「いや、それじゃ意味ないだろ。終わるまで見張ってた。」
こいつは・・・旅行前に何やってんだ?
妹の課題にそこまで付き合う必要ないだろ。
どう考えてもやってない妹が悪い。
「何時までやってたんだ?」
「んー、3時は過ぎてたな。
結局、半端に寝ると起きられないからずっと起きてた。」
「じゃぁ朝まで、何してたんだ?」
「ん? 朝ご飯とお弁当の準備してた。」
何でも無い事のように、そう言った。
「女子の部屋行っていいか?」
昼食後に誰かがそう持ちかけて、ヒンシュクを買った。
しかし、他の誰かが
「じゃあ、逆に男子の行こうよ。」
と、単純に逆の提案をすると、とんとん拍子に話が進んで行った。
「大垣達も来るか?」
便乗して、そう声をかけると、安田と柳田はあっさり拒否したが。
「んじゃ、私は行こうか?」
大垣だけは乗ってくれた。
安田が止めるものの、何事も経験だと笑って聞く耳を持たない。
俺は、心の中でガッツポーズをとった。
男女に分けられた部屋割りに疑問は無い。
だから、『部屋に女子が来る』それだけでテンションが上がる。
しかも特別な女子だ!
別にカードゲームや話しをするだけなのだが、
非日常的な場所で、非日常的な出来事。
ただ規則を破るってだけでも、何となくソワソワするってのに。
あぁ、早くその時になってくれ。
消灯時間を過ぎ、最初の見回りが終わってから少しするとドアをノックする音がした。
大垣を含む三人が部屋に入ってきた。
心臓のドキドキが増した。
別にただのTシャツにジャージって格好だけど、制服と体操服以外は初めて見たとか、
珍しく髪を結んでいるとか、でもやっぱり夜に同じ部屋にいるってのが信じられない。
「お前、明日も眠いんじゃ無いのか?」
ちゃっかり隣をキープし、カードを渡すついでに声をかけた。
「そうかもね、」
ジョーカー隣のスペードの5を抜いた。
揃いのカードがあったらしく、2枚のカードを場に投げた。
「何で来る気になったんだ? 二人は即答で拒否ったろ?」
「楽しそうな事はやっとく主義だ。」
結局ジョーカーは俺の元から動かなかった。
ババ抜きが三週目にもなると、強運の持ち主はさすがに眠くなったらしい。
欠伸の数が増えた。
他の女子は元気だが、大垣は足元の布団を魅力的に感じているようだ。
だがさすがに、ここで寝かすわけにはいかない。
「大垣・・・もう戻るか?」
ひそひそと声をかけると
「うん、そうする。さすがに二日目は無理だな。」
そう言ってふわりと笑った。
・・・一瞬で顔が熱くなった。
「じゃあ田村送って行けよ。」
しっかり聞いていた三田が、ナイスなアシストをしてくれた。
恩に着る、親友!
だがそう上手くはいかないのがセオリーか、
「別に一人で戻れるからいいよ。」
遠慮して断わるが、ここで引くわけにはいかない。
「いや、そんなフラフラしてると見つかるしぞ。」
少しずるい言い方をした。こっちも必死なんだ、悪く思わないでくれ。
「そっか、じゃよろしく。」
大垣は素直に聞いてくれた。
横を歩く大垣は、何かいつもと違って、そうフワフワしてて・・・危なっかしい。
「大垣、大丈夫か?」
「何が?」
本人にはその自覚が無いようで聞き返された。
「い、いや・・・眠いんだろ?」
俺の方を向いたその顔をまともに見て、ドキドキしてしまった。
「歩いてるから、結構平気。」
そっか・・・
廊下には誰もいないし、カーペットの敷かれた床を極力足音がしないように歩く。
俺達の声以外はどこかの電気の唸る音と、自動販売機の動作音しか聞こえない。
ふと思いつき、ポケットを探った。
「じゃあ少し寄り道しないか? 飲み物おごるぞ、自販機だけど。」
そう言って、少し先の自動販売機を示した。
「用意がいいな。じゃあ借りとく。」
炭酸飲料とミルクティを買って、非常階段に出た。
「上行ってみよう。」
そう誘われるまま上がれる所まで上がった。
屋上には入れないように柵があったが、同じくらいの高さまでは行けた。
そこからは月の光を反射する池と、黒い影になった寺らしき建物が見えた。
他にはやっぱり影のような木と、別のホテルの窓が光っていた。
「おーキレイキレイ。」
大垣は空を見上げていた。
そこには満月に少し足りないのか、少し欠けたのか分からない形の月があった。
「大垣は、いつも楽しそうだよな。」
大垣はミルクティの缶をくわえたまま振り向いた。
「そりゃ、楽しんだ方がいいでしょ?」
不思議そうにそう言った。
「そうは言っても、なかなか楽しい事ばっかじゃ無いだろ?」
面倒な事や、嫌な事、つらい事だってある。そう毎日楽しくやってられない。
俺はお気楽でも、おめでたくもできてない。
いや、別に大垣がめでたいヤツだと思ってるわけじゃなくてだな・・・えーと、
楽しそうにしてるのは、見ててこっちも楽しいし・・・
「それは考え方次第で結構どうにかなるもんだよ。」
缶を手すりの上に置き、欠伸をしている。
「今だって有意義な時間だ。知らない旅先で夜風に吹かれる。
この時間は今だけだ・・・まぁ少し眠いけどさ、」
紅茶の缶を傾ける大垣は、とても前向きな考え方をする。
彼女に言わせれば、俺は毎日を無駄にして過ごしているのかもしれない。
そう思って聞いていたが、続いた言葉で少し違う気がした。
「人生は・・・いつ何が起こるか分からないんだ。
だから、できるだけ楽しくなるようにしてる。」
かなり重い事を言う。
そこには見た事の無い大垣がいた。
読んで頂き、ありがとうございました!
私は男子の部屋に行きました。
その途中で、先生が来て慌てて布団に隠れ、
息を殺してやり過ごし・・・
今となってはいい思い出ですねー。
北海道でしたが。