HR
葵・聡太、美晴・芳彰の話の(そろそろシリーズ名を付けた方がいいかもしれない。)
現在の時点で(2011.01.11)時系列で、一番古いお話です。
話は、高校2年の修学旅行。
コースは奈良→京都→大阪です。
別に、前の話は一切関係ないので、
この話だけで読んで頂けると思います。
今日は修学旅行の班決めがある。俺は絶対大垣と同じ班になりたい。
男女3人ずつの6人一組が基本だ。大垣は絶対、安田と柳田と組むはずだ。
「なぁ三田、片山、班一緒にしないか?」
「いいけど・・・いや待て、田村。お前絶対大垣のとこって言うよな?」
賛成しかけた三田が、思い直して嫌そうな顔を見せる。
「当然だ。」
この二人は俺の気持ちを知っている。
だからこそ話を持ちかけたのだが、向こうはだからOKを出さない。
「どうせ大垣は安田と一緒だろ?あの二人性格がキツイんだよな・・・。」
「だよな・・・。あと一人はたぶん柳田で、あいつはおとなしくていいんだけどな。」
こいつらの予想も俺と同じだ。
安田と大垣。あの二人を知らないやつはこの学校にはきっといない。
それほどに目立つやつらだ。
美人と評判の安田。
彼女はこれまでにどれだけのラブレターをもらっているんだろうか?
だが、それは彼女の性格を知らないか、Mの気があるヤツくらいだと俺は思う。
大垣は安田ほどじゃないが、それでもなかなかの美人だ。
彼女の奇をてらった発想と、行動力は凄まじい。
予想もつかない事を言い出し、おもしろい事をやらかす。
そして、公然の秘密なのだが・・・陰で人気のあるヤツの写真を売りさばいている。
どれだけのヤツが彼女から写真を買った事があるのか・・・。
ちなみに俺は買った事は無い。
本人の写真が売られるわけじゃないから必要が無い。
いや、自分で自分の写真を売るヤツってのも、どうかと思うな・・・。
えーと、どちらもはっきりした性格で、キツいと言えば・・・まぁそうだろうな・・・。
「だけど大垣だぞ?きっと面白い自由行動になるぞ?」
俺の言葉に二人は顔を見合わせ、それから首を縦に振った。
やはりそれは現実になった。
「自由行動の案なんだけどさ・・・
普通に寺社巡りしても、移動ばっかで時間潰しちゃうから、
コスプレしない?」
ほらきた。
「コスプレ?」
「大垣、何言い出すんだ?」
彼女は唖然として疑問を返す片山を片手で制してニッと笑うと、パンフレットを広げた。
「どれでも好きなの選べてさ、衣装によっては散策も可。
時間があるかどうかまでは保障できないけど。」
そこには奈良や平安時代、幕末の衣装を着た人の写真が並んでいた。
「マジか?」
「普通は結構するんだけど、母の伝ともう一個の条件飲めば破格でできるんだけど、
・・・どうだ?」
「条件ってなあに?」
真剣にパンスレットに覗き込む柳田が、みんなの疑問を代弁する。
すると大垣は一つの写真を指差した。
「これ、太夫でモデルやる事。だから葵はそれでヨロシク。」
最後の辺は、安田一人に向けての言葉だった。
花魁・・・と、思っていたが京都では太夫というのか・・・ちょっと勉強になった気がする。
「ちょっと、私選べないの?」
安田は不満の声を上げるが、やるかやらないかではなく、
着る衣装が既に決まっている事についてのように聞こえるんだが、間違ってないよな?
「いいじゃん、きっと似合うよ~?」
今度は封筒から写真を出して広げた。
「ほら、こんなに種類あるんだよ? ここから好きに選んでくれたらいいから。」
赤に白に黒に金、派手な柄の着物や帯。そして何種類もの髪飾り。
目の前にこれだけ色鮮やかに並ぶと、心が揺らいできたらしい。
「えっと・・・、じゃあ美晴も一緒にやろうよ。」
安田よく言った! 大垣の太夫姿は是非見たい。
「えーっ、嫌だよ。私は狩衣着るんだから。」
何だそれ?
「かりぎぬって・・・何だ?」
耳慣れない言葉に俺は聞き返す。
「ん? 平安時代の貴族の普段着って感じかな。束帯はきっちりし過ぎだし。」
それも知らねーよ。
パンスレットを眺めると、それらしい字を見つけた。
「・・・男装かよ?」
一瞬がっかりし、いや・・・そうでも無いかと思い直す。
男装の麗人と言う言葉もあるし、見てみたい気になってきた。
「そ、いーでしょ? 誰か一緒に狩衣着ない? 頭中将やってよ。」
「じゃあ美晴ちゃんが光の君?」
「もちろん。」
なっ、大垣と柳田では会話が成立している。とうのちゅうじょうって誰だよ?
ひかるのきみってのは・・・あぁ、光源氏か、じゃぁ源氏物語の事言ってんだな。
題名しか知らねーっての。
「つーか、これいいのか?
決めるだけ決めて後で先生に反対されたら、もう一回案考えるの嫌だぞ?」
片山がもっともな意見を言った。
「大丈夫、先生には先言ってあるから。
ある意味これもいい体験授業じゃないかってさ。」
・・・手回しが早い。
結局、誰も反対せずに大垣の案が採用された。
読んで頂き、ありがとうございました!
例によって、朝10時の予約更新です。
全5話となります。
続きも読んでいただけると、うれしく思います。