scene5:判決
判決は、叫ばれなかった。
宣告は、囁くように下された。
院長グレゴワールは書状を受け取り、形式どおりに読み上げる。
「公爵令嬢レティシアは、一定期間、王都を離れ、辺境にて研鑽を積むこと」
ざわめきはない。
「理由は――焼き直す時間が必要であるため」
誰もが、その言葉の巧妙さを理解する。
追放ではない。
断絶でもない。
矯正。
焼きすぎたわけでも、生焼けでもない。
ただ、火加減を見直すための時間。
なんと優しい響きだろう。
なんと残酷な処置だろう。
王都シュクレアは、排除を包み紙で包む。
角を立てず、音も立てず、
ただ静かに、中心から遠ざける。
甘味騎士団が一歩下がる。
拘束はしない。
逃げる者ではないと分かっているからだ。
距離だけが、正式に確定した。
アルバートは何も言わない。
言えない。
彼の立場もまた、標準の内側にある。
やがて、人々がゆるやかに動き始める。
宴は終わった。
白布が片付けられる。
クッキーは、まだ皿の上で形を保っている。
そのとき、小さな声がした。
「悪気は……なかったですよね?」
リリアナだった。
両手を胸の前で組み、戸惑いと不安を隠せずにいる。
彼女にとって、世界はまだ甘い。
優しさは疑うものではない。
レティシアは振り返る。
微笑む。
責める色も、悔恨もない。
「味覚に悪気はありませんわ」
静かな声。
「あるのは、選択だけです」
リリアナの目が揺れる。
理解しきれないまま、けれど忘れられない言葉として残る。
レティシアは歩き出す。
湿度の高い午後の空気が、ドレスの裾を重くする。
辺境へ。
焼き直すために。
音を取り戻すために。
王都シュクレアは何事もなかったように、午後を再開する。
鐘は鳴らない。
だが確かに、ひとつの基準が、静かに外へ運ばれていった。




