scene2:紅茶の選択
銀のワゴンが静かに押し入れられる。
白磁のポットが三つ。
湯気はそれぞれ違う香りを帯びていた。
侍従が名を告げる。
「王都伝統の強いブレンドにございます」
「ベルニア式の柔らかい茶葉」
「東方ユンファの熟成茶」
円卓の中央に並ぶ三つの選択。
王都伝統のブレンドは色が濃い。
湯面は深い赤褐色。
立ち上る香りは鋭く、渋みを予感させる。
ベルニア式は淡い。
黄金色に近く、甘い香りがほのかに広がる。
風と共に飲む茶。
ユンファ式は落ち着いている。
色は深い琥珀。
香りは静かで、底に重みがある。
時間を抱えた茶。
侍従が問いかける。
「いかがなさいますか」
アルバートが最初に答える。
「王都のブレンドを」
迷いはない。
彼は自分の立場を曲げない。
強さと輪郭。
瞬間の明確さ。
それが彼の基準。
リリアナは少しだけ香りを確かめる。
そして微笑む。
「ベルニアを」
柔らかな香りが、彼女の感覚に合う。
共作と余白の茶。
最後にレティシア。
彼女は三つを見比べる。
そして言う。
「ユンファを」
熟成。
時間。
持続。
侍従がそれぞれに注ぐ。
湯がカップを打つ音は三つとも同じだ。
だが香りは混ざらない。
円卓の上に、三種の湯気が立ち上る。
色も、匂いも、異なる。
誰も同じものを選ばなかった。
統一されない。
だが、誰もそれを問題にしない。
アルバートは渋みを一口含み、軽く息を吐く。
リリアナは甘香に目を細める。
レティシアはゆっくりと余韻を味わう。
三人の前に置かれたカップは違う。
だが距離は同じ。
円卓は、味を揃えるためにあるのではない。
隣に置くためにある。
窓の外で風が揺れる。
香りがわずかに交差する。
完全には混ざらない。
それでも、不協和はない。
王国は統一を強制しない。
違いを、同席させる。
紅茶は三種。
思想も三種。
だが午後は、穏やかに続いている。




