第八章 ティータイムは続く scene1:王城の午後
王城の小円卓室は、午後の光を静かに受け止めていた。
高い天井は声を吸い込み、響きを丸くする。
壁は淡い乳白色。
大きな窓の向こうには、整えられた庭園が広がっている。
低木の曲線、噴水のきらめき、風に揺れる白い花。
光は強くない。
王都の光は本来、輪郭を鋭く切り出す。
だがこの部屋では、柔らかい。
学院の講堂とは違う。
あそこは判断の場所。
ここは、呼吸の場所。
円卓がひとつ。
席は三つ。
先に入っていたのはアルバートだった。
窓辺に立ち、庭園を一瞥する。
彼の視線は理論家のものだが、今日は緊張を帯びていない。
やがてリリアナが入室する。
足音は軽く、無駄がない。
彼女は椅子の背に触れ、木材の質を確かめるように一瞬だけ指を滑らせる。
最後にレティシア。
石床を打つ靴音は乾いている。
王都の音。
だがここでは、その音すら少しやわらぐ。
三人は向かい合う。
誰も中央に立たない。
円は上下を持たない。
今日は公式会議ではない。
議題も、判決も、採決もない。
ただ三人が招かれている。
王国の意図は明白だった。
調停ではない。
和解の儀式でもない。
勝者を定める場でもない。
――安定の確認。
思想が争いを生まないこと。
理論が誇りを傷つけないこと。
技術が分断を広げないこと。
王国にとって重要なのは、誰が正しかったかではない。
国が、壊れないこと。
扉の向こうで侍従が静かに紅茶を用意する。
湯気が立ちのぼる。
三人はまだ何も語らない。
だが沈黙は重くない。
かつての講堂の沈黙とは違う。
ここには敵意がない。
それぞれの立場は消えていない。
アルバートは理論を失っていない。
リリアナは感覚を曲げていない。
レティシアは構造を手放していない。
それでも、同じ円卓に座っている。
窓の外で、風が庭を渡る。
花弁がひとひら、舞い上がる。
王都は今日も乾いている。
だがこの部屋には、わずかな湿りがある。
思想が、争わずに並ぶこと。
それだけで、王国は安定する。
そして午後は、静かに始まる。




