第七章 王都帰還 ― 甘味公聴会 scene1:帰還 ― 石畳の音
王都の石畳は、相変わらず硬質な音を返した。
馬車の車輪が通れば、乾いた反響が細く伸びる。
革靴が踏みしめれば、軽やかで澄んだ打音が連なる。
その響きは、かつて彼女が愛した音だった。
水分を拒み、曖昧さを許さない都市。
湿りを削ぎ落とし、輪郭だけを残す空気。
空は高く、雲は薄い。
風は乾いている。
甘い匂いはほとんどしない。
焼き上がった直後の菓子のような街だ、とレティシアは思う。
未練なく、潔い。
彼女は馬車から降りる。
靴底が石を打つ。
――乾いた、短い音。
かつてなら、その響きに胸が震えた。
「これこそが完成」と、疑いなく信じただろう。
だが今は違う。
音の裏に、彼女は層を感じる。
石は乾いている。
だが石の下には土がある。
土は湿りを抱え、根を支えている。
王都は硬質だ。
だが、それだけでは成り立たない。
彼女の視線は建物の縁、影、石の隙間へと向かう。
乾いた都市にも、微かな水分は潜んでいる。
以前の彼女なら見なかった部分。
彼女はもう、一点最適の信奉者ではない。
「音が正義」という単純な軸で世界を測ることはできない。
瞬間も。
持続も。
消失も。
共作も。
時間も。
それぞれが、別の層で成立する。
対立ではなく、配置。
排除ではなく、設計。
風が頬を打つ。
乾いている。
だが彼女は、乾きに飲まれない。
学院の尖塔が遠くに見える。
あの高みで、かつて彼女は断罪された。
胸は静かだ。
怒りも、悔しさも、今は設計図の奥へ整理されている。
彼女は歩き出す。
足音は変わらず乾いている。
だが、その歩幅は以前よりもわずかにゆるやかだ。
急がない。
完成は瞬間ではないと、彼女は知っている。
王都は変わっていない。
だが彼女は変わった。
彼女はもう、答えを証明しに戻ったのではない。
構造を提示しに来たのだ。
石畳の上を、設計者が歩く。
その足音は、かつてと同じ音を鳴らしながら、
まったく異なる意味を帯びていた。




