第1話「地味子、鏡の中のあかりちゃん」
灯子は、今日も大学に行かなかった。
代わりに、ベッドの上でファッション誌をめくる。
ページの中では、モデルたちがキラキラしていた。
髪が光を受けて揺れ、まつげが羽のように長い。
その世界に、自分は――いない。
部屋の隅には、通販で買った化粧品が並んでいる。
ファンデーション、リップ、アイシャドウ、ビューラー。
どれもレビューを何度も読んで選んだ宝物。
でも、箱を開ける勇気が出なかった。
その夜、灯子はカーテンを閉め切った。
机の前に鏡を置いて、小さくつぶやく。
「……今日こそ、やってみよう」
指先にファンデーションを取って、頬にのばす。
肌の色が、ほんの少しだけ整う。
でも、鏡の中の自分はまだ“地味子”のまま。
アイラインを引こうとして、手が震えた。
左右が違って、目がきつく見える。
「ああ、やっぱり無理かも……」
小さなため息。
けれど、動画の女の子が言っていた。
――最初はみんな、うまくいかないよ。
灯子はもう一度メイクを落として、やり直した。
三度目の挑戦で、目元が少しだけ自然になった。
その瞬間、鏡の中の自分が、知らない誰かに見えた。
顔ばかり派手すぎるかな……。
ベリーショートの短髪、地味すぎて男の子のような髪型だから、
メイクばかりが主張していた。
長いウィッグをかぶり、淡いピンクのリップを塗る。
ふわりと微笑んだ顔は、
まるで別人――
明るくて、ちょっと自信ありげな女の子。
「こんにちは、"あかり"ちゃん」
灯子はそっとつぶやいた。
地味でダサい自分にぽっと明かりがともったようだ。
それは、誰にも見せたことのない、
彼女自身の“初めての笑顔”だった。




