3人の実力…試験失格!?
~ヴィンセント・アインシュタインの試験~
「おお、ヴィニーが一番か! 頑張ってこいよ!」
ロロが勢いよく肩を叩く。パァンと音が響き、ヴィニーがよろめく。
その瞬間、一瞬だけレオとの思い出が脳裏をよぎった。
(こいつら……似てるな)
懐かしい気持ちが込み上げ、自然と微笑んでしまった。
「でも、私、サポートタイプなんですけど……」
ヴィニーが弱々しく言う。
この試験の面白いところは、聖職者などのサポート職であっても受けなければならないことだ。この世界では魔力の大きさが重要視され、聖職者でも高い魔力を持つことが求められるからだ。
「ヴィニー」
俺が声をかけると、彼はビクッと反応する。
「は、はいっ!」
彼の頭をぽんっと軽く叩くと、軽く詠唱を始める。
「よろしくお願いいたします、ダリル様」
「本気は出せんが、なんとかしてくるよ」
そう言った瞬間、ヴィニーが一瞬で変わる。闇夜事件依頼、内に潜む**“ダリル王”**を引き出したのだ。ヴィニーはサポートタイプだが、その実、彼の真価は内に潜む王の力にある。王族の魔力は代々強力だ。俺が彼をここに連れてきたのは、ただの実力だけでなく、王との接点を増やしたかったからでもある。
「おい、あれ雰囲気が変わったぞ。本気か?」
ロロが不思議そうに呟く。
(まったく、この王子は鋭いのか鈍いのかわからない奴だ)
無言のまま、ヴィニー――いや、ダリル王は会場へと向かっていく。
王族の魔法には、特徴的な光魔法がある。彼の一族は代々、光魔法を受け継ぐ珍しい血筋だった。しかし、現在の王子―ロロが光魔法を使えないことから、彼は王族としての血筋を疑われ、長い間蔑まれてきたこともあった。
「シャイン・レイア・インディスカ」
一瞬、会場全体が眩い光に包まれる。
光が収まると、見る者すべてが息を呑んだ。
そこにあるのは、ダニマイト石に無数の穴が空いた跡。光を圧縮し、対象を貫通する――まるでレーザーのような魔法だった。
「素晴らしいな」
この時代、王族の力はあまり信じられていないが、今の一撃を見る限り、歴代の王にも遜色ない。しかも、ダリルは剣士だと言っていたはずなのに、この魔法の威力……驚くべきものだった。
「あ、あれ?」
だが、突然――ヴィニーが戻ってしまったようだ。彼が周囲をうろたえ始める。
「なぜこいつが光魔法……ヴィンセント君、もういいよ。下がってくれ」
試験官のアリゾナがそう告げると、状況を理解していないヴィニーは戸惑いながら会場から追い出される。
戻ってくるヴィニーを見た瞬間、ロロが激昂した。
「なんでお前が光魔法を使えるんだ!」
彼はヴィニーの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「え、ちょっとロロ様……」
ヴィニーは困惑するばかりで、何も答えられない。
「すまない、ロロ。説明が遅れたな」
俺はロロの手を引かせ、ヴィニーに向き直る。
「ヴィニーもすまないな。ちょっとした細工をしておいたんだ。サポート職じゃAクラスに入るのは難しいだろうと思ってな」
「光魔法の武器を持たせておいたんだ。少しレアな品だったから内緒にしてたんだが……強すぎて、記憶が飛んだんだろう」
俺は自然な笑顔で嘘をついた。考えもせずに、反射的に口をついて出た言い訳だ。
「でも……そんな都合のいい武器なんて……?」
ヴィニーは疑わしげに見つめる。そんな都合のいいアイテムがないのは前に話したのを知っているからか、少し困惑したような表情を浮かべていた。
(しーっ。気にするな)
俺はヴィニーに目配せをしてそう伝えた。
彼は俺を信頼しているからか、それ以上は何も言わなかった。
「なんだよそれ……今度からはそういうの隠すなよ」
ロロが苦笑しながら手を引き、ヴィニーに謝る。
「ヴィニー、悪かったな」
「いえ、すみません……何もわからなくて……」
ヴィニーはまだ戸惑っていたが、ようやくその場の緊張は解けた。
~ロロ・オレットの試練~
「次は《ロロ・オレット》4番会場へ」
アナウンスが響くと、ロロが勢いよく立ち上がる。
「オッシャー、いってくるぜ! てか、オレットってダサいぞ!」
文句を言いながら、走って会場に向かう。
「まぁ適当に付けたからな」
俺が軽く言い返すと、横でヴィニーが不安げに顔を曇らせた。
「ロロ様、大丈夫でしょうか……?」
ヴィニーが心配するのも無理はない。彼は、ロロが使っている腕輪が偽物だと知っているからだ。
「これをクリアしない限り、あいつはどうしようもないよ」
俺は少しきつめの口調で答えたが、本心ではロロのことを案じていた。
とはいえ、下級魔法で十分だ。小規模な炎特性のあるロロならダニマイト石に穴が空く程度の威力はでるだろう。昨日の訓練で調整もできているから、反動の心配は少ないはずだ……と、思っていた。
「フレイマ・ルルア・イルマイザ……」
遠くから、ロロの詠唱が聞こえてきた瞬間――
「……やられた! あのバカッ!!」
「えっ、どうしたんですか、ルーシュ様?」
ヴィニーが驚いて尋ねる。
「俺は下級魔法で十分だと思っていた。けど……今あいつ、中級魔法を詠唱してる!」
どうやらロロは、テンションが上がりすぎて中級魔法に手を出してしまったらしい。スザクやヴィニーの活躍を見て、魔法の威力を試したくなったのだろう――気弱なくせに、こういうところだけは妙に威勢がいい。
「……これ、本気でヤバいな。入院だわ、こりゃ」
ヴィニーと目を合わせると、彼も焦った顔を見せた。
「ダメですって! 助けに行きましょう!」
急いで駆けつけるが、詠唱はもう止まらない。
「フレイマ・オブ・サンズ!」
会場全体が轟音とともに一気に炎に包まれる。その威力に周囲の観客たちも息を呑んだ。
炎はすぐに消えたものの、粉塵が舞い上がり、視界が曇る。
「……こいつ、こんなにすげぇのか」
思わず口をついて出た言葉だった。
ダニマイト石の様子を確認すると――半分が溶けている。
(スザクですら粉砕だったのに……。この高温火力……こいつは、化けるかもしれない)
粉塵が晴れるや否や、俺はロロの元へ駆け寄った。
「救護班!」
会場の髭の試験官が即座に叫ぶ。その判断力に感心する。さすがはマスターだ。
「意識は失っている。……少し火傷も負っているが、命に別状はない」
ホッと胸をなで下ろした。思ったより重傷ではなかったのだ。
ロロが心配そうにこちらを見上げるヴィニーに、俺は軽く頷いた。
「……大丈夫。こいつ、一気に成長しやがったな」
俺たちは救護班に付き添い、ロロとともに医務室へ向かった。
約1時間後――
「……う、ぅ……」
ロロが目を覚ました。
「ロロ様、大丈夫ですか?」
ヴィニーが優しく声をかける。
「お前……罰金だからな……」
まだ苦しそうだが、冗談を言う余裕はあるらしい。
「問題なさそうだな」
俺は立ち上がり、手短に言った。
「俺はまだ試験が終わってないから戻るぞ」
~苛立ちと謎の終了~
会場に急いで戻ると――試験は既に終わっていた。
「……おい、髭。どういうことだ?」
俺は苛立ちを抑えられず、アリゾナに詰め寄った。
「ひ、ひげぇ? ルーシュくん、あまりにも言葉使いが悪くありませんか? 試験時に呼ばれて、いなかったら失格に決まってるでしょ?」
髭はおどおどしながら反論してきた。
こいつ、俺が医務室にいるのを知っていながら……
「本気で言ってるのか、お前……その態度、後で後悔するぞ」
俺は髭を睨みつける。
すると更に気に入らなかったのか、髭は続けた。
「土下座でもして頼むこともできないんですか? 頼んでも許可しませんけどね」
その時、横から声が聞こえた。
「おい、訳あって抜けていたのは知っていると思っていたが? 状況がわからんほどのアホではなかろう?」
まさかのスザクが横入りしてきた。
「お前、なんでここにいるんだ?」
俺が聞くと、スザクは無視して喋りだす。
「最高顧問が呼んだ救護班と医務室に行ったんじゃないのか? それで失格って何か意図があるのか?」
他の生徒たちも、会場に残っている約20人が色々と抗議してくれた。
「最初の試験を見て、お前の実力を知りたいものが少なくともここにいるってことだ。これを無駄にしたら承知せんぞ」
スザクが毅然とした口調で言う。
「最高顧問様、試験は受けさせていただけますか?」
俺は振り返り、丁寧に言った。
「ぬぅ、生意気な奴らですね。仕方ない、特別に受けさせましょう。試験の評価はちゃんとしてあげます。しかし、今私に生意気な口を聞いたものは後で顧問室に来なさい。態度が悪いのは別の話です」
これで向こうが意図的に俺を失格にすることもできなくなった。なんだかんだで、スザクに助けられたな。
「良いやつじゃん、サンキュー」
俺はスザクに感謝の言葉を述べる。
前衛者不足。これを補えるのは前衛の魅力と必要性。前衛の全てをこの時代の奴等に理解してもらわないといけない。
そうやって前衛の人数を増やさないと、この先の戦いが厳しいとわかっているからだ。
そのため、俺は**《剣士》**としてこの学園に入学することを決めた。俺が見本となり、前衛希望者を増やすことが第一目標。
その代償に、高威力魔法や詠唱の長いものは一旦捨てることとなったが、この3日間、一番いいものを考えてきた。それが今、腰にぶら下がっている刀だ。
以前、勇者レオが言っていた。
『強力な一撃も大切だが、それを使いこなすにはスピードが最も必要なんだぜ』
俺の最高威力、スピード、剣士。これを考えた時に思いついたのは居合だった。
剣を抜いた一瞬で斬るという動作の剣技だ。さらに、これが高威力だったら……。
このダニマイト石で試したことはないが、成功すれば大きな一歩になる。
前衛にこんなにワクワクするのも、あいつのおかげだな。
そして髭は、賢者の俺が前衛職《剣士》で入学することに違和感を持っているはずだ。
余裕の面をしてやがる。
「じゃ、遠慮せずに」
左足を引き、左手を鞘にかけてカチャッと少し剣を親指で押し出す。
剣を構える格好と同時に、右手を前に出し、いつものように指を構えた。
剣を抜き差しする動作を行い
**パチンッ!**指を鳴らす。
きれいな音が、広い会場に響き渡り、静まり返る。
「ふぅ」
キンッ。
と一息つき左親指で、押・し・出・し・た・だ・け・の刀を戻す。
一瞬の出来事だ。
が、ダニマイト石の板はなんにも変化がなかった。
髭が近づいてきて、
「なんですか、今のは威勢だけでしたか?」
コンコンと板を叩くが、試験前と同じだった。
「あれ?」
俺は少し戸惑った。
「なんだそれは? 剣を抜く動作すら見えなかったが、抜いてすら無いのか貴様?」
スザクが呆れて言う。
そう、俺は指を鳴らす以外には微動だにしていないように見えているはずだ。早すぎて見えないそう思わせることが大切。見学に来ていた何名かも呆れたのか、色々文句を言ってきた。
「アリゾナ最高顧問様、ダニマイト石に傷つけたらちゃんと評価してくれるんでしたよね?」
野次の中、俺が話し出す。
「ええ、そう言ってますが、これじゃ0点です」
髭を触ってニヤつく。
「すいません、斬るやつ間違えました」
と指をさす。
会場の全員がその先を見ると、髭、アリゾナ最高顧問の5mにもなるダニマイト石像があった。
「まさか……」
髭が声を漏らすと、
ガラスが割れたかのように、パラパラと髭の石像が崩れていった。
あの最高硬度を誇る石が砂利のように崩れていく。
「貴様!何をした!?」
髭が叫んできた。
「試験内容通り、ダ・ニ・マ・イ・ト・石・を斬っただけですよ」
おお~、っと会場が沸いた。笑い声も混じっていた。
髭は顔が真っ赤だ。
「気に入らん」
スザクはそう言ってまた消えていった。
これで全ての試験が終わった。




