魔王復活・・・今の王と王子様
案内された玉座の間は、かつての面影を残しつつも、どこか余計な飾り立てが増えていた。
「あまり詮索しないでくださいね」
案内人の男が、胡散臭い笑みを浮かべて言う。一癖あるな、こいつ。
玉座の間に着くと、そこにはさっきの派手な鎧の男と、玉座の左に居並ぶのは先程のアリゾナ含む五人の実力者風の男女。あとは預言者らしき老婆とその側近たち。
王の姿はない。
「それで、話とは?」
俺が第一声を上げると、五人のうちの一人、立派な髭を蓄えた男が鼻で笑った。
「本当にこいつか? どこの馬の骨とも知れぬガキじゃないか」
「これこれ。賢者様に向かってガキとは、あなたは死にたいのですか?」
もう一人のニヤリと笑う男がクスクスと煽る。
「何だ? この時代は出来損ないが多いようだな。そんな話しかできないなら失礼する」
俺が振り返ると、老婆が静かに口を開いた。
「お待ちなされ。この者たちの非礼をお許しを」
この老婆が、魔王復活を予言したという預言者か。彼女とその側近だけは、まだ話が通じそうだ。
「非礼とは! いくら預言者様でも、こんな得体の知れないガキを賢者と呼ぶおつもりか!」
髭の男が怒鳴る。
その声を遮るように、さっきの派手な鎧の男が剣を抜いた。
「わたくしめが本性を出させてみせますよ。……ガキ、さっきの続きだ。痛い目を見せてやろう」
「よく言った、本気でいけ!」
髭が煽り、預言者は黙ってこちらを見ている。俺の実力を試すつもりか。
「さっきも言ったが、覚悟はできてるんだろうな?」
俺の能力は、転生のたびに強化され、数も増えている。
《詠唱短縮》《効果倍増》《リキャスト短縮》。
下級の風魔法一つで、こいつら十人を吹き飛ばすなど造作もない。
「王国軍騎士長の私を、貴様のようなガキがやれると思うなよ!」
騎士長を自称する男が、魔力を纏った剣で急加速して突っ込んでくる。
(何だ、さっきからブツブツと……。玉座の間に入ったときから詠唱していたくせに、これだけか?)
「一瞬だ」
俺は騎士の足元に一瞬で魔法陣を描き――**パチン。**
指を鳴らす乾いた音が響くと同時に、派手な鎧の男がその場から消失した。
「……次は?」
平然と周りを見渡すと、髭の男が腰を抜かさんばかりに叫んだ。
「な、何をした!?」
「城の西、一五〇メートルほどに綺麗な池があっただろ。まだあるなら、あいつは今頃そこで泳いでるよ」
「た、多分ですが……今はそこ、女性用の風呂になっております」
大臣らしき男が震えながら答えると、その方角から凄まじい悲鳴が響いてきた。
「悪いことしたな。後で謝っといてくれ。……被害者の女性たちにな」
俺が鼻を鳴らすと、玉座から別の声が響いた。
「もういいでしょう?」
誰だ?いつからいた? 俺が気づかなかっただと?
玉座に座っていたのは、俺と同じ年頃の少年。その顔を見た瞬間、俺は心臓が止まるかと思った。
「お前……レオか?」
あの日、俺を守って死んだ勇者レオ。当時より若いが、間違いなくあいつの面影だ。
「レオじゃないか! なんでこんなところに……」
俺が駆け寄ると、さっきまで堂々としていた青年が、顔をくしゃくしゃにして叫んだ。
「やっぱ無理ぃ!! おばば様、無理だって言ったでしょー! この人めっちゃ怖いし! レオって誰!? さっきのバロン消しちゃうし、死んだんじゃないの!?」
勇者の末裔らしき王子は、半泣きで預言者にすがりついた。……期待して損した。
「すいません、賢者様……色々と訳がありまして」
預言者は苦笑いし、これまでの経緯を語り始めた。
魔王の復活。王の失踪。そして、謎の男から王が飲まされた「不死の血」という薬。一瞬の闇《闇夜》の間に、王は消えてしまったという。
「俺が賢者だと、どうして分かった?」
俺は預言者に聞く
「召喚室からあなたが出てくる予言を見ました。それだけです」
俺は賢者だと確信を持たせるため、居並ぶ者たちの素性を次々と暴いていった。
「髭の横のあんた、カロライナ家だな。一五〇〇年経っても顔が変わらん。それに・・・」
次々と出る俺の言葉に、全員が息を呑んだ。
その後、預言者と別室で話をした。
預言者の話では、俺が転生しなかった一五〇〇年の間に、魔王や賢者はおとぎ話となり、とある者によって賢者の肖像画や記録さえも消されたという。
「そして今の実質的な権力者は、グランドマスターのガルという男か……」
「警戒は不要です。ガル様は本当に民に優しい方で……」
預言者は熱く語るが、俺は内心、その完璧すぎる「正義の味方」を気に留めておくことにした。
「本題は何だ?」
預言者に向き直ると、彼女は居住まいを正した。
「賢者様、王子と一緒に学園……RVR SCHOOLに入学して、あの子を鍛えてほしいのです」
「はぁ!? 俺が今更、学校だと?」
「王子を見て分かったでしょう? 臆病で泣き虫……でも、本当は勇者の資質を秘めている。王がいない今、あの子が変わらなければならないのです」
……面倒だが、放っておくわけにもいかないか。
その後、王子の部屋を訪ねトントン、と扉を叩く。
「王子様、いますか?」
「ひぃ! い、いないって言ってくれ!」
小声のつもりだろうが、丸聞こえだ。
「す、すいません、今は王子が席を外しておりまして……」
さらにアホな側近が追い打ちをかけてくる。
「入るぞ」
「ガチャ」と無理やり扉を開けると
「「ギャー!!」」 案の定、二人揃って情けない悲鳴を上げた。
(……ん? この側近、何か引っかかるな)
違和感を覚えたが、まずは目の前の泣きべそ王子だ。
「落ち着け。別に取って食おうってわけじゃない。……俺と話そう」
「……」
王子はガタガタと震えながら、ようやく俺と視線を合わせた。
「で? 自分の置かれてる状況と経緯は分かってるな?」
「わかってる……。けど、僕には無理なんだよ」
王子は力なく俯き、絞り出すように答えた。
「何が無理だ? 父親が攫われたんだぞ。国がどうなるとか、勇者がどうとかいう前に、息子として誰が一番に助けに行くべきなのか、そのくらいの道理もわからんのか?」
「だって、俺は弱いし、何をしたらいいかも……。それに、僕が外に行くなんて言っても、周りが止めるに決まってるだろ?」
王子の言葉は、責任から逃げるための言い訳にしか聞こえなかった。 俺は一歩踏み込み、冷徹な声を叩きつける。
「本当にそう思うなら、このまま何もするな。……何もだぞ。国が滅びようが、民や家族がどれだけ苦しもうが、お前はここで震えて見ていろ。覚悟のない奴が中途半端に動くのは、ただの邪魔だ」
「……っ」
「後三日、じっくり考えてこい。四日後が入学試験らしい。……本気で親父を助けたいなら、その日、試験場に来い。それまではただのガキだ」
俺は踵を返し、扉へと向かった。 去り際、背後から消え入りそうな声が追いかけてくる。
「ま、待って……! 本当に、俺でも強くなれるのか?」
俺は立ち止まり、振り返ることもせずに短く返した。
「そんなの、お前次第だ。俺が知るか」
それだけを言い残し、俺は部屋を出た。 あいつの瞳の奥に、ほんの少しだけ残っていた「燻る火」が、消えるか燃え上がるか。それを見極めるのは、四日後だ。
突き放して部屋を出ると、背後から気配がした。
「いつまでついてくるつもりだ?」
「流石ですね、大賢者様」
王子の側近が、先ほどとは別人のような威厳を持って立っていた。
「……まさか、王か?」
「左様、国王ダリル・ヴァイオレットと申します。……誘拐される直前、精神だけをこのヴィニーの体に移しました。短時間ですが意識を変わってます。」
王の話では、王子は勇者でもありながら、魔法使いの資質を持っているという。
「分かりました。責任を持って育てます。……試験当日に来れば、の話ですが」
王の気配が消え、元の気弱な側近に戻った男が慌てふためく。
「名は?」
「ヴィンセントです。みんなからはヴィニーと……」
「試験日、王子を連れてこいよ。ヴィニー」
俺はそれだけを言い残し、一五〇〇年ぶりの自分の布団へと向かった。




