変わったやつ……王族問題
~不可解なラスト試合とイリュウの謎~
「なんか変わった戦いでしたね」
と、デン君が振り返る。
「そうですね、いつもの茶番劇を派手にしていただけですね」
と、彼の隣でメロが同意する。
その会話を聞きながら、俺は思った。自分の戦いもあったし、今のこの光景を見て、みんな疲れ切っている。試合は予定より30分遅れて進行している。
しかし、次に控えるのは《クシィVSイリュウ》の2回戦第4試合。学園の順位は開示されていないが、俺だけは髭の協力でその情報を手に入れてある。
次に戦うイリュウは学園2位、リリスPTのメンバーだ。噂では、学園1位のスザクと肩を並べる実力を持つと言われているが、実際のところは誰も真相を知らない。そんなイリュウが今の今まで寝ているのを見ると、彼の落ち着きが不気味に思える。俺の戦いが気にならないのだろうか?
それに対してクシィは学園12位の前衛。俺を除けば、前衛組の中では4番目に位置している。彼もまた、実力があるタイプの一人だ。しかし、あがり症のため、いつも隅っこでボソボソと話している印象が強い。かつて訓練で1対1で出会った際、彼のオーラが他とは異なることを感じた。人を狩るタイプの人間だ。そして、彼らは同じギルドパーティーらしい。クシィは対人が苦手で実力はもっと上なのかもしれない。
2人は仲がいいのかどうかはわからないが、お互いに顔見知りであることは間違いない。俺はワクワクしていたが、周囲の人々は興味を失っている様子だ。なぜなら、寝ている奴と隅っこにいる奴の戦いだからだ。
やがて、二人がフィールドに向かう。
「そろそろ時間だぁ! 本日のラスト試合! お前ら準備はいいかぁ!」
元気なのはデン君だけだった。
「それでは………」
その瞬間、物音が消えた。
「ん? どうしたデン君?」
俺が周りを見渡すと、衝撃の光景が広がっていた。なんと、場にいた全員が寝ていたのだ。
「あれ~? ルーシュくん? なんで寝てないの?」
隣に立っていたのは、ニコニコしたイリュウだった。彼の口調は落ち着き、マイペースに淡々としゃべりかけてくる。
「どういうことだ? お前何した?」
俺は驚き、警戒する。
「何って、僕の能力がバレたくないから全員に寝てもらうつもりだったんだよ~。1人起きてるのは謎だけどねぇ」
と、イリュウは無邪気に笑った。
「ちょっと待て、ならお前なんでこの戦いに参加した? 戦う意味がないじゃないか」
と、俺は眉をひそめる。
「そうじゃないよ、君にバレたくないってことね。決勝は僕が行く。クシィはよく知っている、あいつも勝てないのはわかっているみたいだけど、腕試しだと言って本気で来るらしいから、ちょっと本気出さないといけないし。戦い自体はちゃんとするよ、けどねぇ……君は見ちゃだめだ」
と、彼は少し威圧感を持って言った。
「だから今日はずっと寝て俺の観戦をしなかったわけか。お互いの能力を知らないまま戦いたいわけだ。本当は真面目な人なんですね」
と、俺は理解し、少し感心した。
「あはは、どう思ってもらっても構わないよぉ。でも見るのは許さない」
と、イリュウは明るく返した。
「そういう理由ならおれは見ません。後でこの状況を説明する時は、俺が立ち会ったとも言っておいてあげますね」
と、俺は微笑んだ。
「ありがとぉ」
と、イリュウは言い、フィールドに向かって歩き出した。
「明日は? リリスとの戦いはどうするんですか?」
俺は彼に尋ねた。
「大丈夫、あの子はクシィより弱いよ。多少魔法使うけど、何の影響もないと思ってる」
と、イリュウは自信満々に答える。
「でも知ってしまったし、明日も見ないでおきますね」
と、俺は宣言した。
「君も変わった人だなぁ。後悔しないように……あとその変な敬語やめていいよ」
と、彼はニコニコしながら言い、フィールドに入って行った。
(あまり話さない人には敬語のつもりだったけど、少し動揺しちゃったかなぁ)
そう考えながら、俺はその場から離れていった。
(にしても、大胆なやつだな。全員眠らせればいいって、そんな風に思うか? 記憶改ざんとかじゃなくてよかったが、そんな大掛かりなことできないか。なら、俺に魔法が効くのか試したとか……余り考えるのも辞めとこう)
そう自分に言い聞かせつつ、イリュウの動機や急にやる気になった理由が気にかかる。
「おい、起きろ」
と、先輩だが軽く叩いた。
「ん……ぴ、ピザ! って、おれは何の夢見てんだ?」
目を開けたデン君は、まるで夢の中にいたかのように混乱している。
「おおっと、どういうことだ? おれは寝てしまっていたのかぁ?」
元気を取り戻すデン君。彼のすぐに元気になる様子は、逆にすごい能力だ。
その声で、続々と周りの人たちも目を覚ましていく。誰も状況がつかめていないようだが、デン君だけは気づく。
「何ということだぁ! おれの知らない内に勝負が終わっているぅ。解説者のメロ氏も見ていないのですか?」
と、デン君が話を振る。
「え……」
メロは何が起こったのか考え込んでいる様子だ。何かを察知したのか、こちらを見てきたが、俺は知らんぷりをする。
「ちょっと、おれ試合の行方聞いてきます」
と言って、デン君はクシィとイリュウのいる医療室の方へと向かって走り去った。
どうやらお互いにダメージがあったらしく、医療室で術を受けているようだった。デン君は二人の話を聞いて戻ってくる。
「なぁイリュウ、明日どうする?」
俺はイリュウに、今のダメージと明日も戦いがあることについて聞いてみた。
「決勝が明後日なら、ダメージはないと思うからその方が良いかなぁ」
と、イリュウは軽く答える。
どう戦ったらこんなボロボロになるのだろう……クシィは意識を戻していないし、イリュウも医務室にはいるが、ダメージがないように見えた。クシィの方は実戦なら、腕一本無くなってもおかしくない状態に見える。
「なら、お前の意見を尊重した形で話してくるから。明後日、決勝で」
と、俺は答える。
その後、俺は状況を話し終えたデン君に、決勝が明後日になることも伝えてもらった。
本日の長い一日が、ようやく終わろうとしていた。夜の静けさが、心を少しだけ安らげてくれる。明日も、何が起こるか分からない。けれど、確かなことは、次の試合に向けて準備を進めなければならないということだった。
~王族問題とアーサーの正体~
トントン
夜の21時頃だった。
「ルーシュさん、いますか?」
「開いてるよ、入って」
そう言って入ってきたのはアーサーだった。今日の夜、話そうと部屋に誘っておいたのだ。
「こんばんは、遅くにすいません」
「いいよ、開いてるとこ座って」
「ん? 誰か来たのか?」
ロロとヴィニーも気づいて、こっちにやってくる。
「こんばんは、兄さんとヴィニーさん」
「えぇ、兄さん?」
俺は驚いた。
それを聞いたロロは、
「おお、アーサーか。久しぶりじゃないか、何してたんだ? それに、この学園に入ってるって聞いてないぞ」
「いえ、僕もお忍びでしたので、兄さんたちは目立ちすぎでしたけどね」
と、アーサーは笑って答えた。
「まてまて、兄さんってなんだ? 先に説明しろ」
「すいません。改めて《アーサー・ヴァイオレット》といいます。学園では《アーサー・セルヴィン》と名乗っていますが、兄さんとは実の兄弟ではなく従兄弟です。お互い一人っ子だったもので、実の兄のように慕っておりました」
「父の弟、叔父の子だ。それにしても、1年ぶりくらいか? どうだ、強くなったのか?」
(成績はロロのほうが上だが、戦闘ではアーサーの方が強い。黙っておこう)
「それにしても、アーサー様がこの学園に入っていたなんて全然知りませんでした。やはりあの事件で、ですか?」
ヴィニーも知らなかったようだが、何か思い当たる節があるようだった。
「はい、5年前父が亡くなってから……いえ、暗殺されてから入学しました。あの時、王国内で色々問題があったので、俺が身を隠すのも兼ねてこの学園に隠れるように」
「暗殺? 何だ、この時代、問題ばかりか?」
俺は何も聞かされていないことにびっくりする。一度、歴史を真剣に学ぶ必要がありそうだ。
「私から説明しますね。5年前に王の弟君が奥様とともに何者かに暗殺されました。その時は王も疑われ、内部の人も何人かが死刑になり、王国から離れていく人も多かったのです。ここ最近は王が一人で何事も行っており、《闇夜》の事件で全く機能ができなかったのもそのせいでもあるんです。でも、前に言ったように、今はガル様がお王国に手助けしていただいているので、なんとか持っていると言った状況です」
「なるほど、王族が少ないと思っていたが、そういった事情もあったのか。でも、1年ぶりって言ってなかったか?」
「それは、儀式とか式典の日にはアーサー様は必ず出席されていたので、どこか遠い場所にでも住んでいるものと思っていましたが、こんな目と鼻の先にいらっしゃったとは」
「なら、なんですぐ声かけなかった?」
ロロが聞いてきた。
「それは、名簿を見た時に兄さんも身分を隠していたのと、見たこともない怪しい人と一緒にいたので、少し様子を見るようにと言われていました。でも国王が不在になった件とルーシュさんが賢者様と知り、接触の機会を伺っていました」
「怪しいやつって……その機会がこのトーナメントだったわけか。それなら普通に話しかけてくれても良かったのに」
「そうですが、何も知らない状況で戦ってみたくて。すぐバレちゃいましたけどね」
「内緒ですけど入学試験のとき兄さんとゴールしたんですよ」
こそっとアーサーは笑って話している。
助けてもらったっていってたのはアーサーだったのか気づけよお前ら
「そういうがおれは、光魔法がレアだなぁって思っただけなんだけどな」
「何だ、賢者様になってもアーサーのこと見抜けなかったって、大したことないな」
とロロが口を挟む。
「でも、俺の魔法は岩と風の混合という風になっています。光魔法自体は隠して戦っていたのですが、あれを見られてすぐ気づいたのは先生を含めルーシュさんだけです」
「俺は特別だからな。感知能力も人並み以上だ。それで、聞きたかったことなんだがな」
こうして、アーサーとは王国の現状の話や、学園内での協力等を話し合った。
学園を知っている奴が味方につくのはこちらとしては大きい。パーティーで動くときも、この4人なら動きやすい。思わぬ収穫で、俺はこの先の予定も早く進められると喜んだ。




