試合開始と……初戦
~トーナメントの幕開け~
次の日。
「Ladies and Gentlemen。お集まりの皆様、長らくお待たせいたしました!」
盛り上げに定評のあるデン君がそう切り出す。予定通り、今日から前衛のトーナメントが始まる。
「本日の戦いでベスト4まで決めちゃいます!」
いきなり2回戦をするつもりらしい。ルールは、30分間で行動不能になるか、時間切れの判定で行うこと。フィールドは山、森、湖、砂漠、草原からランダムに選ばれる。
このフィールドに関しては、魔術で一定のダメージや危険攻撃と判断されると、場外に放り出され、待機している聖職者のもとに行くことになるようだ。この場所は、何十にも魔法陣を重ねた特殊な魔法陣らしい。
この学園の良いところは、こういった設備が整っていることだ。王国の部隊も訓練に使う場所で、国が魔術で生成し管理しているらしい。それに、遠距離を映し出す魔法や音を拾う魔法が使える者が立ち会ってくれるというので、客席という場所から一部始終見れるようになっているとのことで会場は盛り上がる。
(こんな魔法見たことも聞いたこともない、俺がいなくても、魔術は進化している。)
1回戦の面白い組み合わせは、【俺とジャック】だけだった。あとは俺が思う強者がきれいに別れた。逆に言えば、どんでん返しがありそうで面白い。
「それでは~、1回戦第1試合、READY~FIGHT!」
デン君の掛け声で大きなゴングが鳴る。
「いや~、始まりましたね。このトーナメントに期待することは何でしょうか、解説のメロさん。」
(解説者までつけて、本格的かっ)と突っ込んでしまう。
「そうですね。この戦いで先輩方の能力がバレるので、皆さんには出し切ってほしいと思っています。」
解説者メロはノリノリだ。
「おぉ~、そう来ますか。この戦いで得るのは、自分が相手を攻略するための情報を引き出せるということ。なかなかずるい人ですね、メロさん。」
「いえいえ、これが最後ではないですからね。追いかけて抜いていく、これも醍醐味でしょう。そのつもりの人も多いと思います。ですので、私からわかる内容に関してはバンバン解説していきたいと思っています。」
「そうですか。これは観戦している方も気が抜けない戦いになりそうです。」
「おお~っと、ここで攻めに転ずるのは~……」
実況者と解説者、そして盛り上がる会場。思っていたよりみんな楽しんでいるようだ。
(全く、こっちは強制参加なのに楽しんでやがって……)
俺はまだ乗り気ではなかった。そうこうしているうちに4試合目、俺の番が来た。
~初戦「ジャックVSルーシュ」~
「仕方ない、集中しよう。」
フィールドに入る前に、ジャックがやってきた。
「お前の情報は少ないが、研究はさせてもらっている。その新しい装備が気になるが、問題ないだろう。俺の実力を十分に思い知れ。」
(ちょっと怖い…本気だな、あいつ)
俺もジャック対策は考えてある。それに、ジャックには負ける要素はない。今言っていたこの新しい装備の試運転ってところだな。
「わぁ~~~~~~~!!!!!!」
今日一番盛り上がる会場。
「ジャック、行けー!」
ジャックはリーダーだ。それにふさわしい実力もある。好戦的で、ジャックが勝つと思っている者もいるくらいだ。
「さて、1回戦第4試合。1回戦としてはリーダー同士、一番熱い展開なんじゃないですかね?」
「はい、ジャック選手ですが、訓練中は好戦的で頭も切れ、隙を見せないことで、うまくパーティーをまとめています。対してルーシュ選手は、指示が的確で、状況判断や心理戦と言った相手が嫌がることが得意な厄介な存在です。同じパーティーでしたが、あの人はなんにもしませんでした、『そっち言ったぞ、ほれここに敵が集まるぞ、そこに罠張っといて』間違いではないでしょうが、やる気があるのか無いのかわかりませんでした。」
(あいつ、ボロクソ言いやがって)ただの愚痴を言っているメロをちらっと見る。ニコニコしていた。
「それでは準備が整いました。1回戦第4試合、『ジャックVSルーシュ』READY~FIGHT!」
フィールドは《森》。どっちかって言うと、あいつ寄りのフィールドだ。スタート地点もバラバラで、まず敵を探さないといけない。
「ふぅ、めんどくさい。歩いてたら襲ってくるだろ。あいつのことだし。」
俺はまっすぐに歩き出した。
5分くらい経った時、気配を感じた。ほんの一瞬だったが、俺は感知した。
(まだまだ甘いなぁ)
「後ろだろ?」
そう言うと、ジャックが後ろから突っ込んできた。
「くっ。」
感づかれたと思って、再び姿を消すジャック。
「早く来い。不意打ちやスピードが武器だろ?」
ちょっと面倒なのは、見えないから魔法が打ちにくい。スピードについて行ける魔術で斬る、俺の術はトラップ型に近いから、これも今の課題だ。
パチン。
急に指を鳴らした。
キィィィンと刃物同士がぶつかる音がする。
「いいねぇ。」
ジャックの武器はナイフだ。少し攻めに転じる。
パチン、パチン。
俺は動いていないが、的確にジャックのいる方向を攻撃する。
「おおっと、ジャック選手、思っていたより攻められていません。逆に押され始めている? どういったことでしょう、メロさん?」
「これはルーシュさんの感知範囲が広すぎて、ジャック選手が突っ込めない状況に陥っていますね。ちょっと警戒のしすぎと言ったところでしょう。それを逆手に攻めに転じたルーシュさんは流石ですね。」
「では勝機は少ない? ということですか?」
「そうではないですが、奥の手をもう使わざるを得ないといった状況です。それがルーシュ選手の想像を超えれば勝てるのではないでしょうか。」
「やはり強いな、ルーシュ。その理解できない斬撃を避けるので精一杯だ。」
「姿を見せろよ。当たらないだろ。」
(さて、どう対応してくる?)
ザァ……
姿を見せてきたジャック。
「・・・・・・・・・・」
何か呪文を唱えたようだ。
その後、急加速でこちらに突っ込んでくる。
「真正面なんて通じるわけないでしょ。」
パチン。
俺の前方に斬撃を浴びせる。ジャックを斬ったように見えたが、
「ガキィィィン。」
真後ろで音がした。
ジャックが真後ろから俺を切りつけていた。
「ほう、面白い。《分身》と《高速移動》、更にステルス《透明化》の三重か。分身が作れるとは知らなかったよ。」
ジャックは分身を囮にして後ろから狙ってきたようだ。最初の気配を少し見せたのも、俺がジャックの分身を疑わないようにするための策略だと理解できた。
俺は新しい装備でその攻撃を受け止めていた。ジャックは驚いた様子だが、再び何度も攻撃を繰り出してくる。しかし、それもまた俺の装備に防がれた。
「パチン」
少し戸惑っているジャックに向けて指を鳴らす。すると、斬撃がジャックを襲った。
「しまった!」
ジャックは各所を切られ、一発でボロボロになった。
~新しい装備「ベンテンディア」~
「気になる?」
膝をついているジャックに話しかける。
「多分、俺を倒すにはなるべく早く懐に入るしか無いだろう。訓練中も近づく前に俺は離れてたからな。君たちは思った《打ち合い》、それができないんじゃないか?もしくは、俺の斬撃は剣を抜いていたら使えないんじゃないか?まあ、外れっちゃ外れだし正解っちゃ正解、だからそのためのこ・れ・」
俺は左手に巻き付くベルトのようなものを指した。それは腰のベルトから背中を回り、左腕に巻き付いている。
一定の範囲の攻撃をオートで弾くもので、素材は《ダニマイト石》。この素材を見たときから興味があった。どの薄さでどこまで強度が出るのか、魔法をかけるとどういった反応を起こすのか、それを考えた結果が**《ベンテンディア》**だ。
刀の刃のような形状を持ち、ある程度の伸縮とムチのようにしなる性質に変化させた。これが一番安定したものだ。こいつに一定の範囲の攻撃を弾くように魔術をかけ、自動防御できるものを作った。
ジャックのスピードに付いていければ成功。そのためにジャックと戦いたかった。
実際には、もっと早い攻撃にも対応できると思っていたから心配はしていなかったが、不意打ちを食らったことは事実だ。しかし、予想通りの結果に俺は満足した。
「……わけわからんものを。」
ジャックは辛そうに言った。
「戦えてよかった?」
「パチン」
無数の斬撃がジャックを切り刻み、彼は退場していった。最後に「くそっ」と聞こえたような気がした。
「ふぅ」
っと一息ついた。
~試合終了とメロの分析~
「終了~~~~~!なんと熱い戦いが予想されたにもかかわらず、一方的!ルーシュ選手、強い、強すぎる。会場もこの圧倒劇に言葉を失っているぅ!」
会場は終わったにもかかわらず静寂に包まれていた。
「ルーシュ!!おめでと~~~!」
リリスが声を上げると、一気に会場が湧き出した。俺は手を上げて応えた。
「メロさん、これは予想にしていましたか?」
デン君が解説者メロに尋ねる。
「いえ、いくら強いと言っても、ここまで圧倒的とは……あの人、歩いて止まってただけですよ?僕は入学試験の日、最後にあの人を見ていました。その時、強大な気配が、何者も寄せ付けないようなオーラが一瞬出ていたような気がしたんです。それも攻撃するときではなく、アラバマ最高顧問を威嚇した時に……これはまだ秘めた力がありそうですね。」
(あのボケ、またいらんことを。)
「と言うことで、1回戦第4試合はルーシュ選手の勝ちで~す!」




