04話 アルマンディンと奇妙な生物
※アルマンディン視点
「ルビー、アルマンディン様から離れなさい。はしたないわよ」
サフィール嬢がルビー嬢を叱ってくれた。
だがルビー嬢は僕にくっついたまま離れない。
どうすれば良いんだ……。
「お姉様はルビーに嫉妬しているんですかぁ?」
「無作法をやめなさいと言っているの!」
姉妹が言い合いを始めた。
「ルビーはアルマンディン様が気に入っちゃいましたぁ」
「ルビー、お願いだからアルマンディン様から離れて。部屋から出て行って。私はアルマンディン様に大切なお話があるの」
もう何が何やら、訳がわからない。
「ルビー、貴女はそういう無礼なことをして何度も破談になっているでしょう。スフェーン様に言われたことを忘れたの?!」
スフェーン様って公爵家のスフェーン様?
サフィール嬢の妹が、公爵家の嫡子スフェーン様とお見合いしたって話は聞いたことがあるけど……。
え?
この子が、あのスフェーン様とお見合いしたの?
スフェーン様にもこんなことしたの?!
……スフェーン様はどうやってこれを乗り切ったんだろう……。
「スフェーン様は意地悪だったんです! アルマンディン様は優しいからあんな酷いこと言いません!」
「アルマンディン様は私の婚約者よ!」
「ルビー嬢、頼むから離れてくれ!」
僕はルビー嬢に何度目かのお願いをした。
でもルビー嬢は僕の腕にがっちりしがみついて離れようとしない。
何なんだこの生物は……。
もう、どうしようもないから。
僕はルビー嬢につかまれている腕を強引に引き抜いて、彼女の手を振り払おうとした。
「きゃあ!」
僕が腕を引き抜いた勢いが強すぎたのか、ルビー嬢は転んでしまった。
男性が腕を振り払って、女性が倒れたら。
男性が悪者になるに決まってる!
「ご、ごめん! ルビー嬢、大丈夫?!」
僕は慌てて、倒れてしまったルビー嬢に手を差し伸べた。
「怪我はない?!」
「アルマンディン様ぁ」
僕が差し伸べた手を、ルビー嬢は再びがっちりと掴んだ。
また、捕まってしまった……。
誰か助けて……。
「足が痛いですぅ。歩けませぇん。ルビーのお部屋まで抱いて行ってくださぁい」
「え、ええっ?!」
未婚の男女がいて。
男性が女性を抱いて、女性の部屋まで連れて行く?
不埒だ。
不道徳だ。
そして男性が悪者になる!
醜聞だ。
僕の名誉が。
家族にも迷惑が……。
「そんな不埒なことは出来ない!」
「足が痛くて動けませぇん。アルマンディン様ぁ、ルビーを助けてくださいぃ」
ルビー嬢はぐっと力をこめて僕の手を掴んだ。
駄目だ。
ルビー嬢と一緒にいたら、命がいくつあっても足りそうにない。
どうやって逃げれば良い?
僕が絶望と対峙していると、サフィール嬢が控えているメイドたちに指示した。
「貴女たち、ルビーを自分の部屋に連れて行ってあげて」
「は、はい」
「かしこまりました」
メイドたちがルビー嬢に駆け寄る。
「触らないで! ルビーはアルマンディン様に連れて行ってもらうの!」
ルビー嬢はヒステリックにそう叫ぶと、近付こうとしたメイドたちをギロリと睨んで威嚇した。
「あんたたちは手を出さないでよね! 私の邪魔したらお父様に頼んでクビにするからね!」
え、怖い。
「ルビー、いい加減にして。邪魔しないで」
「お姉様こそ、ルビーとアルマンディン様の仲を邪魔しないでください!」
は?
僕とルビー嬢の仲?
何を言っているんだ?
「僕はサフィール嬢の婚約者だよ」
僕は念のために言った。
サフィール嬢の妹なら当然知っているはずだとは思ったけれど。
「アルマンディン様ぁ、ルビーと婚約しましょう!」
「……ごめん、意味が解らない……」
「ルビーがアルマンディン様と結婚するって意味ですぅ!」
「僕が結婚するのはサフィール嬢だよ」
「ルビーと結婚しましょう!」
駄目だ。
話が通じない。
どうすれば良いか解らない。
「ルビー嬢、僕は帰るから。手を放してくれないかな」
一度、帰ろう。
兄さんに相談しよう。
「どうして帰っちゃうんですかぁ?! ルビーとお話しましょう!」
ルビー嬢が不服そうに顔を歪めてそう言った。
「……」
サフィール嬢も不安そうな顔で眉を歪めた。
「サフィール嬢、日を改めて話をしよう」
僕はサフィール嬢に言った。
「ええ……。アルマンディン様、今日は本当にごめんなさい……」
◆
「……それで、何とかルビー嬢を振り払って帰って来た……」
僕は這々の体で帰宅すると、兄に相談した。
「サフィール嬢は話があるみたいだったけど。出直しても、またルビー嬢が出て来たら話なんて出来なくなるし……。どうすれば良いかな」
「じゃあサフィール嬢をうちに呼べば?」
「そうか! そうする!」
そして僕は、サフィール嬢を家に招待する手紙を書いた。
すぐに返事が来て、サフィール嬢が我が家を訪問することになったんだけど。
ところが……。
「アルマンディン様ぁ、こんにちはぁ!」
「ど、どうして君が!」
サフィール嬢じゃなくて、ルビー嬢が来た……。
「僕が招待したのはサフィール嬢だ。サフィール嬢はどうしたの?!」
僕が質問すると、ルビー嬢は満面の笑顔で答えた。
「お姉様は体調を崩してしまったんですぅ。だから私が代わりに来ましたぁ」
絶対、嘘だ……。
サフィール嬢が来れないなら、来れないと連絡してくるのが常識だ。
何の連絡もなく、代わりにルビー嬢が来るなんて有り得ない。
ルビー嬢が来るなら来るで、ルビー嬢が代理で来るという連絡をするのが常識だ。
何もかも非常識すぎる。
コランダム子爵家は一体どうなっているんだ。
でもその非常識は、ほんのプロローグに過ぎなかった。
◆
「コランダム子爵家から、婚約者を変更したいという連絡が来た」
その日、僕は父の書斎に呼ばれた。
そこには母もいて、そして僕はその知らせを聞かされた。
「コランダム子爵家は跡継ぎをサフィール嬢からルビー嬢に変更するとのことだ」
「え?!」
「だからアルマンディンの婚約者も、サフィール嬢からルビー嬢に変更して欲しいとのことだ。アルマンディン、どうする?」
父に問い掛けられて、僕は即答した。
「嫌です!」
婚約者をサフィール嬢から、正式な顔合わせもしていないルビー嬢にいきなり変更しろというのも非常識だけれど。
あのルビー嬢がコランダム子爵家の当主になるのは、どう考えても無理だ。
コランダム子爵は頭がおかしいんだろうか。




