03話 婚約者アルマンディン
※アルマンディン視点
僕はガーネット伯爵家の三男アルマンディン・ガーネット。
末っ子で甘やかされてるって言われるけど。
両親にも兄たちにも甘えているつもりはない。
最近、僕は婚約した。
僕の婚約者はコランダム子爵家の長女サフィール・コランダム嬢。
サフィール嬢はコランダム子爵家の跡継ぎなので、僕は婿養子になる。
僕は三男で実家の爵位は継げないから、普通なら将来は平民だ。
でも女子爵になるサフィール嬢の婿になれば貴族になれる。
コランダム家との縁談を受けるのは順番から言えば下の兄だった。
長男である上の兄は結婚して子供が出来たので、次男である下の兄は跡継ぎのスペアとしての役目をほぼ終えていたから。
でも下の兄は王宮に文官として就職していて将来安泰だからと言って、コランダム子爵家との縁談を僕に譲ってくれた。
もしかすると。
下の兄は女性に人気があるので、すでに付き合っている恋人がいて、それで僕に縁談を押し付けたのかもしれない。
「貴族になれる良縁だ。アルマンディン、上手くやれよ」
家族はこの縁談の価値を僕に説明して、応援してくれた。
僕の縁談の相手サフィール・コランダム嬢は、綺麗な青い瞳の令嬢だった。
僕と同い年なのに、落ち着いている大人っぽい子で、少し焦った。
どことなく寂しそうで不思議な雰囲気があって。
笑うとちょっと子供っぽい顔になるのが可愛かった。
最初の顔合わせのときは緊張してしまって、何を話せば良いか解らなかったけれど、サフィール嬢のほうから話しかけて来てくれたので何とか場が持った。
彼女は僕に気を使ってくれたのかな。
◆
「兄さん、ちょっと聞きたいんだけど」
僕は兄に質問した。
「どうすれば女の子と仲良くなれるの?」
「お! サフィール嬢のことが好きになったのか?」
「こ、婚約者だから、い、一応ちゃんと仲良くしようと……」
僕は顔が熱くなるのを感じたけれど、必死に言い訳した。
兄は僕を見て面白そうに笑いながら答えた。
「とりあえず贈り物をすれば良いんじゃないか?」
「何を贈ればいいの?」
「花とかアクセサリーとか?」
「どんな花やアクセサリーを贈ればいいの?!」
「彼女の好みに合ったものを贈ればいい。彼女の好みは聞いたのか?」
「……聞いてない……」
「好きな色と好きな花と好きな食べ物くらいはちゃんと聞いておけよ。あとは趣味とか行ってみたい場所とかな。まあ贈り物をするなら最初は花が無難じゃないか。母上に相談して季節の花を見繕ってもらうといい」
僕は母に相談してサフィール嬢に花を贈った。
お礼の手紙が来て、花は好きだと書かれていた。
それでまた母に相談して、花のモチーフのブローチを贈った。
サフィール嬢はとても喜んでくれた。
サフィール嬢が僕にやわらかい笑顔を見せてくれる回数も増えている。
好きな物を教え合って、会話も長く続くようになった。
仲良くなれているんじゃないかと思う。
でも……。
その後、信じられないことが起こった。
◆
「アルマンディン様ぁ、仲良くしてくださぁい」
その日、僕が婚約者サフィール嬢に会いにコランダム子爵家へ行くと。
いきなり、ストロベリー・ブロンドの女の子が乱入して来た。
「……!」
見た目は可愛い女の子だ。
でも何の前触れもなく現れて、いきなり話しかけてきて、色々と様子がおかしくて不穏だ。
「ごめんなさい、アルマンディン様……」
サフィール嬢は少し慌てた様子で、困ったように眉を下げて僕に謝罪すると、彼女を紹介してくれた。
「私の妹のルビーよ。ルビー、ご挨拶なさい」
「ルビーですぅ」
これがサフィール嬢の妹?
あまりにサフィール嬢と違いすぎて驚いた。
サフィール嬢と違うというか、むしろ今まで見て来た人間と違う種類というか……。
サフィール嬢に妹がいることは聞いている。
婚約前の両家の家族の顔合わせのときには会えなかったけれど。
サフィール嬢の妹は病弱らしく、両家の顔合わせの昼食会は体調を崩したとかで欠席した。
だから会うのはこれが初めてだ。
ルビー嬢は、想像していた病弱な少女とは随分と違って……。
わりと元気そうに見える。
「ガーネット伯爵の息子アルマンディン・ガーネットです。ルビー嬢、どうぞよろしく……」
僕は型通りの挨拶をしたけれど。
ルビー嬢が着けているブローチに既視感があり目が釘付けになった。
ルビー嬢が着けているブローチ、それは僕がサフィール嬢に贈ったブローチだ。
間違いない。
何故?
「……そのブローチ……」
僕が思わず疑問を口にすると、ルビー嬢は得意気に答えた。
「このブローチはお姉様に貰ったんですぅ。私のほうが似合うからって」
え?
サフィール嬢から貰った?
僕が贈ったブローチを、サフィール嬢は気に入らなくて、妹にあげた?
「違うの! ルビーに取られてしまったの!」
サフィール嬢が慌てた様子で言った。
取られた……?
不穏だ。
「お姉様が私にくれたんです!」
「ルビー、嘘を吐かないで」
「嘘じゃないもん! ルビーが貰ったんだもん!」
「誤解されるようなことを言わないで!」
サフィール嬢は顔を強張らせてルビー嬢にそう言うと、僕に言った。
「ちゃんと説明するわ。我が家のこと。あまり言いたくなかったのだけれど……」
サフィール嬢は暗い面持ちで僕にそう言うと、ルビー嬢を振り向いた。
「ルビー、席を外してちょうだい」
「お姉様、意地悪しないでくださいぃ! 私だってアルマンディン様とお話がしたいんですから!」
ルビー嬢はヒステリックに叫ぶと、素早い動きで僕の腕にさっと絡みついた。
「ちょ……っ! 君、離れて!」
まるで恋人みたいに、腕に絡みついてきたルビー嬢に僕は困惑した。
年頃の男性と女性がいて。
体を密着させていたら。
男性が悪者になるに決まってる!
僕に非があるって言われる!
「ルビー嬢、離れて! 離れて!」
未婚の女性の体に触るわけにはいかないから、僕はルビー嬢から離れようと後退りをした。
するとルビー嬢は僕の腕にぶらさがったまま、僕と一緒に移動してきた。
な、なんだこの生き物は……。
「アルマンディン様ぁ、ルビーは仲良くしたいんですぅ」
「お願いだから離れてくれ!」




