最終話 結婚式
今日は、私とアルマンディン様が結婚式を挙げる日です。
色々あって一時は諦めていたこともあるアルマンディン様との結婚ですが。
無事にこの日を迎えることができました。
どれだけこの日を心待ちにしていたことでしょう。
「お姉様、とっても綺麗ですぅ」
大聖堂の花嫁の控室で。
花嫁衣裳を纏った私をルビーは褒めてくれました。
ルビーは修道女の僧服姿です。
僧服は礼服として認められているので、ルビーは僧服での参列です。
ルビーは美少女ですので、清楚な僧服姿には妖しい魅力があります。
「ルビーが欲しがらないと、似合っていないんじゃないかって何だか不安になってしまうわ。ルビーは良いものは欲しがるもの」
「結婚式に花嫁の衣裳を欲しがるわけないじゃないですかぁ。当たり前ですよぉ」
「立派になったわね」
「これくらい普通ですぅ。それにぃ……」
ルビーは猛禽類のようにギラリと目を輝かせました。
「今、私が狙ってるのは助祭のローブですから。平凡な花嫁の衣装には興味がないんです」
ルビーは今、神学の勉強をしていて助祭の地位を目指しています。
女性が教会で地位を得るのはなかなか難しいらしいですが。
欲しがりのルビーは野心家なのです。
そう、ルビーの性質は今でも変わっていません。
修道女となったルビーは、修道院長に巧みに取り入り、最大派閥を後ろ盾にして修道院の中で権勢を誇っているようです。
やはりルビーは、家の中という狭い世界を支配することにかけては天才かもしれません。
神の家すらルビーの支配下です。
「お姉様、私そろそろ席に戻りますね」
「ええ。ルビー、今日は来てくれてありがとう」
◆
後から知ったことですが。
私の結婚式に、清楚な僧服姿で参列した美少女ルビーの妖しい魅力に、何人もの若い令息たちが心を奪われたそうです。
その中には、かつてルビーとの縁談を断わったスフェーン様や、ルビーが牢に入れられた事件の被害者カーネリアン王子もいたとか。
言い寄って来た彼らに、ルビーは「今さら後悔してももう遅いですからぁ!」と言い放ち、片っ端から振って殲滅したそうです。
◆
花嫁衣裳を纏った私は、叔父に付き添われ、式が行われる聖所へと入場しました。
小さな花少女たちが、籠に入れた花びらを撒いて、私が歩く道筋を清めてくれています。
両脇に居並ぶ参列者たちの中に僧服を纏ったルビーがいます。
ルビーはお行儀良く静かにしていて、こちらを見ています。
ガーネット伯爵家の面々もいらっしゃいます。
祭壇の前には、私の夫となるアルマンディン様が待っていました。
「サフィール嬢、とても綺麗だ」
「アルマンディン様も素敵です」
司祭が神に祈りを捧げ、私たちの結婚の儀式を取り仕切りました。
「誓います」
私とアルマンディン様は、夫婦となることを神に誓いました。
欲しがりの妹ルビーが笑顔を浮かべて、こちらを見ています。
ですが私はもう自分の大切なものや幸せをルビーから隠したりはしません。
堂々と幸せな笑顔を浮かべます。
だって今の私はコランダム女子爵ですもの。
ルビーが欲しがっても奪われることはないのです。
それにルビーが私の持ち物や婚約者を欲しがることは、もうありません。
今ルビーが欲しがっているのは、品物でも婚約者でもなく、教会で地位を築くための軍資金ですから。
「サフィ、僕たちこれで夫婦だね」
「ええ、アルマ」
夫婦として誓い合った私たちは愛称で呼び合いました。
結婚したら愛称で呼び合おうと二人で決めていたのです。
「サフィ、絶対に幸せにするよ」
「嬉しい。私もアルマと一緒に幸せになりたい」
大聖堂の鐘塔が高らかに祝福の鐘を鳴らしました。
――完――
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