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12話 ルビーの暗黒

「どうして?!」


 ルビーが親を怨む気持ちは解らないでもないです。


 ルビーが婚約できなかったのも、王宮で取り返しのつかないことをしたのも、元はといえば両親がルビーを甘やかして育てたせいです。


 ルビーの非常識や傍若無人は、ルビーの悪い部分を悪いと、無作法を無作法と教えなかった両親のせいです。


 ですが……。

 どうしてルビーは両親を監禁することが出来たのでしょう。

 ルビーが一人で出来るわけがないのに。


「どうしてって、お姉様、私さっき言いましたよね。お父様とお母様は牢屋に入るべきだから、って。お姉様だってそう思ってるでしょう?」

「私は……そんなことは……」


「お姉様の嘘吐き!」


 ルビーは吐き捨てるように言いました。


「お姉様だって、お父様とお母様のことが憎いくせに!」

「……だからって閉じ込めるなんて……」


「良い子ぶるんですかぁ? お姉様はいつもそう。自分はそんなこと思ってませーんって良い子ぶっちゃって。でもルビーは知ってますから」


 ルビーは綺麗な笑顔を浮かべました。


「お姉様は、お父様とお母様のこと嫌いだったでしょう? 酷い目に遭わせてやりたいって思ってたでしょう? もっと素直に喜んだらどうですかぁ?」


 ルビーは賢し気な瞳で、私の顔を覗き込みました。

 まるで私の心の闇を覗き込むかのように。


「お父様とお母様は、物置部屋に閉じ込めてます。お食事はパンとお水だけです」


「……ほ、本当に、そんな酷いことをしているの……?」

「してますよ。お姉様、今、すっとしたでしょう?」

「……」

「お父様とお母様がルビーに酷い目にあわされてるって聞いて、お姉様は今、嬉しかったでしょう? いい気味って、ざまあみろって思ったでしょう? お姉様は良い子ぶってるけどぉ、本当はルビーと同じことしたいんでしょう?」


「そ、そんなこと、私は……」


 私は、そこまで酷いことを両親にしたいなんて……。

 思っていない……。


 ……本当に?


「お姉様は、本当は、仕返ししたいんでしょ。知ってますから」


 ルビーは暗い瞳で、勝ち誇るような笑顔を浮かべました。


「お姉様は私のことも嫌いでしょう? お姉様が、私を……、お父様とお母様と一緒に、私をあの館に住ませたのは、私が不幸になれば良いって思ったからでしょう? 私を不幸にするために、お父様とお母様と一緒に住ませたんでしょう?」


 ルビーは悪魔のように笑いました。


「お姉様は、お父様とお母様が、私を甘やかして駄目にするって知ってるくせに。お姉様は、私がもっと駄目になれば良いって思ったんでしょう?」


 そんなことは、私は……。

 思っていない……。


 ……本当に?


 両親もルビーも、コランダム家の醜聞だから。

 三人まとめて領地に押し込めておけと、親族たちがそう言ったから。

 ガーネット伯爵もそれに特に反対しなかったから。


 私のせいじゃないから。


 最低限の生活の面倒は見ていて、私は義理は果たしているから。

 私に非はないから。

 私は悪くないから。

 私は間違った対応はしていないから。


 私は、両親が毒だと知っていて、家出を考えたこともあるのに。

 ルビーを両親と一緒に住ませたのは……何故?


 何故?


「だからお姉様は意地悪で、ずるい人なんです」


 ルビーは容赦なく私の闇を暴きました。


「そのくらいのことルビーにだって解るんですからね。その手には乗りませんよ?」


 そう、ルビーは、馬鹿ではないのです。

 世間のことには無知でも、頭の悪い子ではありません。


 コランダム子爵家という狭い世界の中では、ルビーは何でも思い通りでした。

 私を悪者にしたり、自分を可哀想に見せたり、両親の機嫌を取ったりする頭はあったのです。

 ルビーには両親に溺愛されているという優位性(アドバンテージ)がありましたが、ルビーはそれを最大限に有効活用していました。

 両親の毒を受けて歪な思考でしたが、馬鹿ではありませんでした。


「お姉様だって仕返しがしたいくせに。心の中では、私とお父様とお母様を見下して、良い気味って笑ってるくせに」

「……」

「ルビーもお父様とお母様に仕返ししたいけどぉ。なんでルビーだけがやるの? お姉様はなんで手を汚さないのぉ? お姉様の手は綺麗なまま。ルビーは汚れ役。こんなの不公平です。ルビーにばかりやらせてお姉様はずるい!」


 ルビーは悪魔の形相でそう叫ぶと、にっこりと、天使のように微笑みました。


「だからこれからはお姉様が自分で、お父様とお母様にお仕置きしてあげてくださいね」

「……そうね……」


 私は闇と対峙しながら、答えました。


「ルビーをお父様とお母様と一緒に住ませたのは、良くなかったわ。私が間違っていた。ルビーが穏やかに暮らせる場所を探すわ」


「それはもう考えてます」


 ルビーはあっけらかんとして言いました。


「お姉様、私、修道院に行きたいです。だから寄付金を用意してください」

「え?!」


 ルビーが修道院?


 悪魔みたいなルビーが?


 神の家に?


「ルビー、修道院の生活は厳しいのよ?」

「知ってますよーだ。厳しいから行きたいんです。私はもう甘やかされたくないんですからぁ。厳しい所へ行きたいんですぅ」


 ルビーはしかつめらしい顔をして説明を始めました。


「ルビーはお行儀が悪いはしたない子って醜聞が立ってしまいましたからぁ。ルビーが名誉挽回するには修道院しかないんです。それにルビーが立派な修道女になったら、国王陛下だってルビーの悪口言えなくなるでしょう?」


 それは、そうです。

 聖職者の悪口は言えません。


「修道院へ行くのはたしかに良い案だわ。でも修道院では清貧が尊ばれるから、ルビーが好きなお菓子も肉料理も食べられなくなるのよ? 修道服しか着れないし、アクセサリーだって付けられないのよ?」


「そのくらい知ってますからぁ。馬鹿にしないでください!」


 ルビーは軽く憤慨すると、おねだりを始めました。


「お姉様、ルビーに修道院の寄付金ちょうだい!」


 貴族の娘が修道院に入る場合、大抵は寄付金を収めます。


「お姉様は爵位も財産も全部貰ってずるいです! 婚約者もいてずるいです! 寄付金くらいルビーにください!」


「ええ、ルビーが本当に修道院へ行くなら寄付金くらい喜んで出すわ」


 私がそう言うと、ルビーはぱっと明るい笑顔を浮かべました。


「やったぁ!」

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