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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

『幽霊』

作者: nasuo.sino
掲載日:2025/09/18

【1】


「生まれるべきじゃなかった」


 誰かさんがよく口にしていた言葉を真似て、煙草を吐き出すように溢す。いつまでこの部屋にいるのだろうか。


「風邪、引いてないかい?」


「最近、寒くなってきたからねぇ」


「あんたがいなくて寂しくよ」


 扉の向こうで、母親が言う。いい迷惑だ。話しかけるな。


「おい、お前のせいでこっちは酷いとばっちりを受けとる」


「二度と顔を見せるな」


 いつもの如く、強気な父親。言われなくても出るつもりはない。


「今日はよく眠れましたか?」


「無理に話さなくても大丈夫ですよ。少しずつでいいんです」


「最後まであなたの味方ですよ」


 聞いたことのない声の邪魔者が来た。鬱陶しい。消えてくれ。


 この部屋に籠ってからどれくらい経ったのだろう。シミのついた畳の上で、ふとそんなことを考えた。影の溜まる所には、埃が湧いている。


 唯一、暗鬱とした心を忘れられる時間がある。それは、小さな隙間から見える『月』だ。青白く輝く『月』は、見るたびにスッと心が落ち着く。


 必ず昨日とは違う形で姿を現し、僕に心の安らぎを与えてくれる。彼女も似たような安らぎを与えてくれた。月が笑っている形を彼女は一番綺麗だと言っていた。


 扉を叩く音が鳴る。


「おい、この前言ったことは嘘だ」


「早く顔を見せてくれ」


 父親だ。お前を父親だと思ったことは、一度たりともない。


 そう言ってやりたい気持ちは山々だが、そんな気力も無ければ、顔を合わせるのも面倒だ。扉越しに中指を立てる。


 また、小さな隙間に目をやる。綺麗だ。今日は全ての顔を出している。と同時に、この十センチほどの隙間から何度同じ顔を見たか、思い出してしまった。


「もうそんなに経ったか」


 十二月二十二日。深夜二時。秋が徐々に侵食され、我よ我よと食い気味に冬がやってきた。


 冷えたコンクリート壁に触れてしまい、飛び上がるように起きた。


「まだ夜か」


 目を擦りながら、まだ輝いている『月』を見上げた。


「んっ?」


 月の下に目を向けると、部屋の片隅が翳っている。もう一度、目をしっかりと擦り確認すると、


 別れたはずの彼女が立っていた。



【2】


「生まれるべきじゃなかった」


 随分と世界を恨んでいるような言い分だが、いつも通りの彼女だ。息を吐くように口にしているため、ひと月ほどで聞き慣れてしまった。


「はぁ〜、息すんの面倒くさっ」


「大分末期だね」


「溜め息で呼吸してるから、しんどいわ」


彼女にとっての日常は、まるで無数に流れる雲のようだ。


 一見、感じの良い言葉に聞こえるかもしれないが、そうではない。たまたま自然の摂理によって生まれ、形は今一つはっきりとせず、だらだらと空を泳ぐ。


 生まれてきたこの姿に仕方なく名前をつけたり、

何かに喩えたりする。それが彼女にとっての日常。


「あっ、猫だ」


「…どこ?」


「雲だよ」


「あー、ほんとだ」


「似てるね」


 ただ、その日常は緩やかばかりではなく、風が強い日もあれば、雨が降る日もある。というか、晴れた日なんか滅多にないだろう。


 消化されない不平不満は、タバコの煙と共に空へ吐き出され、灰皿に積まれた吸い殻が物語っている。それらを踏まえれば、彼女の言葉には何の違和感もない。


 その最中、僕の空も絶賛大雨警報中。新調したばかりのスマホを落とし、画面に蜘蛛の巣が住み着いてしまったのだ。


「スマホ変えないの?」


「まだ買ったばっかだし」


 悪天候な二人が隣り合わせで歩いていると目の前で大災害でも起きてしまいそうで、ヒヤヒヤとする。この彼女の何とも言えない怠惰に親しみを感じ、惹かれていった。


 そんな浮かれたことを考えながら


「僕も生まれるべきじゃなかったな」と答える。


 その後は、二人で


「早くしにてぇな」


 そう言うことまでが、僕たちのお決まり。


 最近、僕の空に気だるそうな雲一つと晴れが増えた。


【3】


「君を一から四十九まで知りたい!」


 これが告白の言葉だった。頭の中の疑問符を振り払えない僕は、思わず彼女に聞き返してしまった。


「えっと…どういう意味?」


「だから!付き合ってってこと!」


「いやいや、意味分からないよ」


「半分以上知ってしまうと、ゼロになっちゃうから」


「知らない方が幸せってやつ?」


「そういうことじゃないけど…まぁそれでいいや」


「なんだそれ」


 話を聞いていくと、どうやら数学を用いた告白だったらしい。


「それは僕も適用した方がいいのかな?」


「そうだね、そうして」


 その不可解な告白を機に、僕たちは交際を始めた。


 付き合って数ヶ月が経った頃、彼女が放った告白の意味を聞いてみた。


「一から四十九まで知りたいって、あれなんだったの?」


「照れ隠しだよ、恥ずかしかっただけ」


「なんか言えないことでもあるの?」


「ないよ!」


「とりあえずは今のままでいい!」


「そっか」


 とは言え、気になって仕方がない。ある日、夕食後に彼女が食器を洗ってる隙を見て、スマホを覗こうとした。


「ちょっと!何?」


「…いや、何でもない」


「もう、やめてよ」


「びっくりするじゃん」


 スマホ作戦は失敗に終わった。仕方なく、リビングへ戻った。意識し過ぎは良くないかと心で呟いたが、懐疑心は増幅する一方。僕はあることを決意した。外出中の彼女を尾行することにした。


「隣のクラスのやつか」


 彼女は、渋谷で友人と合流し、喫茶店に入った。帽子とマスクをつけて、斜め後ろの席を確保した。


 聞き耳を立てると、彼女の友人が愚痴を吐いていた。


「マジで国語のゴリ松、ムカつく!」


「…はは、厳しいよね」


「ちょっとスマホいじってただけなのに職員室でめちゃくちゃ怒鳴られたわ」


「それに彼氏とはもう無理かな」


「なんかあったの?」


「いや、三組の生簀かない女いるじゃん?」


「最近そいつとばっか話してて」


「私が声かけても無視すんだよ」


「それは酷いね」


「ところで、あんたの方はどうなの?」


「浮気したくならない?」


 意識もなく呼吸を忘れる。より一層聞き耳を立てた。


「ならないよ!」


「今の彼氏は最高です」


「んだよ、惚気じゃん」


「聞いて損したわ」


「まぁ、幸せそうで良かったよ」


 はい。僕は幸せです。彼女を疑ってしまうなんて。どうしようもない馬鹿な自分を責めた。


 それからガールズトークというものは、恐ろしく長かった。ようやく店を出たタイミングで家へ帰ることにした。


 先に帰宅し、彼女を待っていると、日を跨いだ頃に帰ってきた。


「おかえり〜」


「…ただいま」


なんだか様子がおかしい。


【4】


 もう二度と戻れない、貴方の部屋。今日でお別れだ。微かに香る優しい匂いやこの景色をしっかりと脳に焼き付けるよ。


 昨日、彼に尾行された。


「半分以上知られちゃったかもな」


「…もう彼とは終わりか」


 涙を拭いながら作業へ取り掛かる。


 君は眠っている。家事は得意では無いが、今日くらいはちゃんとやろう。


 君の好きな目玉焼きトーストを作ったよ。少し焦がしちゃったけど。陽の光が部屋に差し込む。健康的な朝だ。


 洗濯物、溜まってるね。今日は私がやろう。洗剤と柔軟剤が入り混じった香り。この匂いとも、もうお別れか。


 部屋の掃除もしよう。君が眼を覚ましてしまわないように。謝罪も込めて、丁寧にやろう。


 首が痛い。寝違えてしまったかな。掃除は、気合いが必要だ。イヤホンでショパンの「別れの曲」を流そう。


 散乱した衣類はまとめてゴミ袋に。ゴム手袋をはめ、部屋の隅々を入念に磨く。


 棚から崩れ落ちた小物は、全て元の場所に。ほんの些細なズレも許さぬよう。ただ、生活感は残して。余りにも綺麗だと気味悪がられるからね。


 家事は全て終わった。完璧。あとは、身支度を整えるだけ。彼との想い出を振り返る。いつも退屈そうにしている私を彼は優しくなだめてくれた。


「早く死にたいわ〜」


「そうだね」


「僕も死にたい」


「あの世でも君と一緒ならそれでいい」


 思わず涙が床に落ちる。すぐさま、新品の雑巾で拭う。


「楽しかったな」


「ありがとう」


「さよなら」


 別れの言葉を残し、家を出た。


【5】


 彼女の日記を見つけた。どうやら過去の恋愛が綴られている。見るべきかと頭を悩ませながらも、無意識に次のページを捲ってしまう。


「まったく…」


 あらゆる事にルーズな彼女は、少々だらしない。飲み会から帰ってくると、鞄や服を適当に放り、下着姿で寝てしまう。


 今日は朝からバイトが入っていると、大慌てで支度をし、結果、この有り様だ。


 この日は休日で、なんの予定も無い僕は、三ヶ月前に終えたはずの大掃除へ取り掛かる。


 散乱した服を全て洗濯機へ放り、床に散らかったメイク道具を片す。クイックルワイパーとウタマロを駆使して、床を磨く。


 よくある話だが、一度掃除を始めると普段気にしない部分も掃除したくなる。Switchのソフトを五十音順に並び替え、ついでに衣替えも行う。


 そうすると、大体懐かしい物が出てくる。


「あっ、ここにあったんだ」


 テレビ台の後ろに、彼女が散々探していたコスメのリップが落ちていた。


 ソファの隙間は四次元ポケットのようにお宝で溢れている。


 クローゼットの中身を整理していると、


「うわ〜、懐かしい」


 付き合って一ヶ月くらいで撮ったプリクラが出てきた。


「帰ってきたら見せよ」


 さらに奥の方まで探っていくと、蓋付きの缶箱を見つけた。


「なんだこれ?」


 中を開けると、彼女の日記が入っていた。


「あらあら、日記ね」


 掃除してあげていることを免罪符に少しだけ覗いてみた。


 見なきゃ良かった。綴られている文章には、過去の恋愛らしきものがあった。


「やっぱ日記は見ちゃいかんな」


 日記を閉じようとすると、ある事に気がついた。どの日付、どのページも『別れ話』のような書き方だった。


「え〜…意外とやり手だったのか」


 最初はそう思ったが、なんだか文章に違和感を感じる。スマホで彼女の日記に記された日付を調べてみることにした。


 すると、違和感の正体を見つけた。


「いや、まさかね――」



【6】


 彼女と付き合ってから一年が経った。世間は相も変わらず、不倫や不祥事のネタで賑わっている。そんな中、連続殺人事件のニュースも注目を浴びている。


 学食の片隅で、誰かの会話が耳に入った。


「最近、この手の事件多いよな」


「困ったもんだよ」


「この前、事件があった近くで飲んでたよ」


「怖え〜」


「もしかしてお前犯人?」


「あのさ…実は…」


「俺じゃありませ〜ん!」


「やめろよ!」


 被害者は決まって刃物で腹部を刺され、×印のような切られ方をしている。事件で殺された被害者は、四十代の大手会社員、二十代の風俗店員、七十代の老婦人。同じような犯行が相次いでるため、連続殺人として予測されている。


 捜査は難航し、殺され方の関連性以外は証拠が掴めず、未だ捕まっていない。


「何してんだよ、警察は」


 蜘蛛の巣の画面に小さく愚痴を吐く。


 夜飯の支度に取り掛かろうと冷蔵庫を開けると、缶ビール一つしか見当たらなかった。仕方なく近所のスーパーへ向かおうとしたが、例のニュースが頭をよぎる。


 彼女はバイトで帰りが遅い。急に誰もいないはずのカーテンから視線を感じる。こんな思いをするなら、もっと早くに買い溜めをしておけば良かったと、今さらを後悔する。


 彼女は居酒屋で働いている。深夜帯に女の子が一人で歩くのは危険だ。


「物騒だし、買い物ついでに迎えに行くか」


 静寂の騒音に怯えながら家を出る。


 いつもより少し早く足を進ませ、近所のスーパーへ辿り着くと、入口は閉まっていた。どうやらこのスーパーは、深夜十二時までが営業時間となっているようだ。


 スマホで調べたところ、少し離れたスーパーなら、まだ営業していると出てきた。お腹の減りは限界を達しているため、急いで向かった。


 無事に買い物を済ませ、スマホを見ながら彼女のバイト先へ向かっていると、ふと扉が開いている一軒家が目に入った。


 住人が出入りしている様子はないが、灯りはついている。そのまま立ち去ろうとしたが、二階に人影が見えた。連続殺人のニュースを思い出す。


 検死の結果、推測される犯行時間は、深夜帯であると。呼吸が浅くなる。足は無意識と一軒家へ近づいていた。


 恐る恐る玄関を上がると、リビングの扉の近くで、服の上から×印に切り裂かれてる男性が倒れていた。思わず息を呑んだ。不思議なことに声が出ない。まるで犯人に首を絞められているかのようだ。


 すぐにその場から逃げ出そうとしたその時、階段から人が降りてくる足音が聞こえた。腰が抜けてしまい、声が漏れないよう口を塞いでいると、目の前に刃物を持った女が立っていた。


【7】


「何でいるの…?」


偶然、殺人現場に足を踏み入れてしまった。その視線の先にいたのは、


 ――彼女だった。


「えっ?」


 思考が停止した。心音が鮮明に聞こえる。茫然と座り込んでいると、


「逃げるよ」


 と手を掴まれた。


 反射的に手を振り払おうとしたが、その手はいつもの慣れ親しんだ安心感のある手だった。考える間もなく、二人は一軒家をあとにした。


 彼女は慣れた手つきで、防犯カメラの死角へ身を隠し、血のついた服からいつも通りの服へと着替えた。


 その後は何事もなかったかのように僕たちの家へ向かった。側から見れば、深夜買い出しに行ったカップルのようにしか見えないだろう。現実は違う。ここにいるのは連続殺人犯とその第一発見者。


 自宅に着き、迫りくる不安を蛇口の水で飲み込み、かき消した。お互い少し落ち着いてから、彼女は話し始めた。


「神様っていると思う?もし存在するなら、きっと酷い人だよ。人を殺したい欲望と才能を与えたりするんだから。生まれてくるなら普通の女の子が良かったな。


 連続殺人の犯人、あれ、私なんだよね。好きでやってないって言ったら嘘になるけど、これでしか生き甲斐が得られないの。何回も自首しようと思ったけど、中々勇気が出なくて…


 人を殺しといて言うことじゃないけど、ただ命を消費していくのも怖いし、何も分からない死へ向かっていくのも怖いの。


 それでも、殺してる瞬間だけは生きてる実感があるの。ごめんね、こんな彼女で。捕まるのは時間の問題だと思う。別れよ。」


 これからの人生で、二度と聞くことがないであろう別れ話だった。目の前に座っている彼女は、巷で有名な殺人犯。けど、どう見たって僕の目にはどこにでもいるような普通の女の子で、いつもの彼女なんだ。


 黙り込んで座っていると、彼女は僕の返事も聞かずに、その場から立ち去ろうとした。何の言葉も浮かんでいないまま、彼女の手を掴んだ。


「僕が君を助ける。僕が君を◯すよ」


【8】


 連続殺人犯の彼女を今日、僕が殺す。これが彼女との最後の約束。


 短かった冬を取り戻すかのように、今日はよく冷えている。空は雲ひとつない快晴だ。空気はカラッとして、手を繋ぐにはちょうどいい気温。


 朝から買い物をして、昼はお洒落なカフェでパンケーキ、UFOキャッチャーで持ち金の半分を使って、映画を観た。まさに絵に描いたような休日デート。


 今は居酒屋の個室に入って、映画の感想を語り合っている。


「やっぱアクションだね!」


「見応えある!」


「好きだね〜、アクション映画」


 一体誰が気づくと言うのだろうか。ここにいるのがあの連続殺人事件の犯人で、その目の前にいる男は、これからその犯人を殺そうとしているということに。


「僕が君を殺す」


 そう伝えた時、彼女は炭酸が吹き出したかのように笑った。


「そんなことできるの?」


 馬鹿にした声で聞いてきた。


「…やってみないと分からないよ!」


 そう言うと、また気が抜けたように笑っていた。しばらく笑った後、呼吸を整えてから彼女は喋り始めた。


「なんか、君らしくていいね。嬉しいよ。いきなり笑っちゃってごめんね。生きているのも死ぬのもずっと怖かったけど、最後に君に殺されるなら、怖くないかも」


 予想外の彼女の反応に戸惑いを隠せなかった。でも、何故か僕も笑っていた。


「場所はここら辺でいいかな」


 人気のない山の奥で彼女がそう呟いた。彼女は殺人のマスターだ。殺し方から処理まで完璧に教わった。あとは、気持ちだけだ。


 とっくのとうに固まったはずの決心が今になって揺らぎ出す。手の震えが止まらない。人を殺したことなんて一度もないし、ましてや最愛の彼女を殺すことになるなんて。


 それを察した彼女が優しく囁く。


「大丈夫。首の頸動脈を狙えばすぐに終わるから」


 震えた僕の手を彼女の手が暖かく包んだ。


「あとは私が死んだら、教えた通りにやれば何も問題ないから」


「これが私たちの最後の約束」


「じゃあ、よろしくね」


 意を決して今日を迎えたが、最後の瞬間に気持ちが揺れた。


「…やっぱりこんなことやめよう」


「殺さないで、誰もいない遠くへ行って、二人だけで生きてこうよ」


 僕の気持ちとは裏腹に、彼女は覚悟を決めていた。


「それもいいと思うけど、私はこれが最善策だと思う」


「私にとって一番の幸せな終わり方」


 涙が止まらない。


「でも、君がいない世界は耐えられない」


 すると彼女は少し笑って


「いい?」


「今から私が言うこと、ちゃんと覚えておいてね」


「これからはあんなカッコつけたこと簡単に言ったりしちゃダメだよ」


 彼女は刃物を僕の手を重ね、力を込める。


「まぁ…君のそんな所が好きなんだけどね」


 彼女が勢いよく刃物を引き、首元を切り裂いた。


 湧き水のように弾け出す。人が死ぬ瞬間は呆気ない。僕の冷えた身体を打ち消すかのように、彼女の体液が優しく包み込んでくれた。


 強く抱きしめた。抱きしめれば抱きしめるほど、温かかった。


 彼女との約束を果たすため、教えてくれた作業に取り掛かかる。僕は最後の最後で彼女を裏切ることにした。


 手に持った刃物で彼女を×印に切り裂いた。そして、血のついた服のまま、近くの交番へ向かい、自首した。


「僕が連続殺人犯です。全て僕がやりました」


 彼女のいない人生なんて考えられない。


「…最後くらい、カッコつけたっていいよね」


 僕にとっての彼女はどこにでもいる普通の女の子。だから、普通の女の子として、彼女を終わらせてあげたかったんだ。


 この日、僕の空から気だるそうな雲一つと晴れが消えた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

『幽霊』には物語の続きとして、曲が存在しています。10/1(水)にリリース予定です。「hoge」というプロジェクト名です。是非、物語の続きを確認して下さい!

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