年下の男
ベッドから起き上がると、また現実に向き合わなくてはならない。
そうやって、毎日ジェットコースターのような感情とともに生きてきた。
だから、今は、何が起きても怯まないし、男に感情移入しないし、こちらから好きにならないと決めている。
だって、いつも結末は同じって知ってるから。
◇
「松村、今日からよろしくな。」
「松村絵里花です。今日からよろしくお願いします。」
4月のあたたかい陽が降り注ぐ日、私は部署異動後の初日を迎えた。
会社が力を入れている関西の新規事業部へ主任として異動した。キャリアは順調だ。
一か月が経ち、仕事にも慣れてきた。
窓を見ると、青葉が街頭に照らされ、艶めく緑が風に揺られている。
もう20時か…。
部下たちとの面談、業務整理を終え、PCをシャットダウンし、エレベーターを待つ。
「絵里さん!お帰りですか?」
(隣の課の山本悠太くんだ)
「うん、今日もこんな時間になっちゃった」
「駅まで一緒に帰りましょう!」
「うん、そうしよっか」
「お腹空きましたね、飯サクッと行きません?」
(たしかに私は今日は朝から何も食べていない…)
「いいね!行こう!」
居酒屋に入り、話が盛り上がり仕事やプライベートの話を3時間近く話した。
異動後気を張っていたこともあり、緊急が解れたのか、私は久々にお酒が回ってしまった。
「絵里さん?大丈夫ですか?僕、タクシーで送ります。」
山本くんは玄関まで送ってくれた。
「ありがとう。じゃあまた明日…」
と言いかけた。
山本くんに抱きしめられ、キスをされた。
そして、甘く深い関係へと落ちて行った。
翌朝、ベッドから起き上がり、何もなかったように会話をし一緒に会社へ向かった。
(やってしまった…一度限りにしよう。)
それから1週間が経った。
夜、20時。今日はまだ帰れないな…
LINEが鳴る。
「絵里さん、何時に今日終わります?」
山本くんだ。
「あと30分くらいかな。」
「僕もそのくらいなんで、飯行きましょう!」
胸がざわつく。同時に、
「うん、行こうか。」
と返信をしていた。
話は盛り上がり、彼はまたうちに来た。
こんな日々を繰り返し、気づいたら彼は週3日以上うちに泊まりにくるようになった。
家でも飲みながら、色々な話をした。
もう側から見ればカップル同様だった。
ある日、私の行きつけのお店に山本くんを連れて行った。
常連さんたちに「絵里ちゃん、彼氏?」
と聞かれ「違います」と言おうとした瞬間、
「はい、彼氏です!」と山本くんは言った。
あ、付き合ってるんだ。嬉しい!
その後も、
「絵里さん、何て呼ばれたい?」
「なんだろう、先輩たちは絵里花ってみんな呼ぶよ?」
「じゃあ、僕も絵里花って呼ぶね!
僕のことは悠太って呼んでほしいな。」
毎日、バラ色で久々に恋愛ソングなんかを聴いて口ずさんでいた。
1つの事実以外は、全部、全部が幸せだ。
悠太には、彼女がいる
でも、週の大半を家で過ごし、私のことを彼女というのだから、きっと別れたのだろう。
怖くて、彼女と別れたの?と聞けなかった。
四季は変わり夏が来た。
一緒に博多へ旅行へ行った。