9日目
訓練をひたすら続ける中で、俺はアウロラからプレゼントを貰った。
当たり前だかまだ何かしら幸せになれるものでは決してない。
そうではなく、ただ、これは必要なものだと言われて渡された。
それはつまり、日記だ。
日々感じたこと、喜んだこと、悲しんだこと、楽しんだこと、怒ったことを、コツコツ丁寧に記録するがいい、とそのために文字を描けるペンと白紙の冊子を渡されたのだ。
他に使い用などほぼないだろう。
せいぜいが、絵を描くくらいだ。
それならば俺は文章を書くことを選ぶ。
どうせなら、この世界に来てから最初からのことを書こうかなと思った。
まだそれほど時間は経過していない。
ただ、日にちの間隔は正直、曖昧になってきてる。
最初の方はともかく、奴隷商館での生活など、まともに記憶する気が失せていたからな。
アウロラに捕まってからも同じだ。
苦しい訓練の中で、日にちを数えるのも嫌になってきている。
だから、日にちについては適当に書く。
とりあえず覚えている日について、印象深い日について、定期的に書こう、くらいのものだ。
3日目と書いてあるから3日目なわけではなく、5日目かもしれないし一月目かもしれない。
ただ俺が覚えていて印象深い日の、3日目、というだけだ。
まぁ俺しか見ない日記だしどうでもいいかもしれないけどな。
さて、その感覚で言うなら、今日は9日目だ。
9日目なんて言われるとこの世界で受けた9日以上の苦しみを思い出すのでもっと経ったような気がするが、正確な日数は思い出せない。
辛すぎたからだ。
忘れようと思った日が何日もあるからだ。
特にここ数日のアウロラから受けた訓練の日々は、本当に覚えていたくない。
俺は一体、何度骨折した?
死ぬかと思った?
幸いなのか不運なのかわからないが、いまだに俺は生きているが……。
まともに数えたくない日々だ。
だから今日は9日目なんだよ。
で、その9日目、
一体俺は何をするかというと、アウロラは獰猛かつ腹が立つ笑みを浮かべて俺に言った。
「喜べ奴隷」
そんなこと言われて喜ぶやつがこの世界のどこにいるんだ、クソ女が。
そんなツッコミなんてするわけにもいかず、ただクソ女を睨め付けていると、彼女は続けた。
「お前の訓練は、とりあえずある程度の段階に至った。実戦を経験する必要がある」
そういうことらしい。
実戦だ?
一体何をするって……盗賊でも殺すのか。
そう思った俺に、アウロラは言う。
「この王都の近所に、いくつか手頃な迷宮がある。さほどランクは高くないが、今のお前にとってはちょうどいいだろう。そうだな……とりあえず、十階層に潜れるようになるまで頑張ってもらう必要がある」
「なんで俺がそんなことを……」
俺は奴隷だ。
基本的に主人の身の回りの世話をするためにいる。
戦うためではない。
……まぁ、主人の肉の盾にされることはよくあるらしいけどな。
そんな俺にアウロラは言う。
「以前にも言ってが、私は決して裏切らない仲間を求めている。その候補がお前だ」
「仲間って……奴隷だぞ」
「今はな。ただ、それなりの腕になったら解放してやるよ。その上で、どうするかはお前に選ばせてやる。別にその時、私の手元を離れると言っても恨まん」
「……それでいいのか?」
「こればかりはな。気持ちの問題だ。どうしても私が嫌いと言うのなら、無理強いはせんさ。ただ、少しでも私に協力してもいいと思ったら、その時は少しでいい。考えてみて欲しい。そのくらいだな」
「たったそれだけのために俺を買うのは……非効率過ぎないか?」
「冒険者を雇ったりしてみたのだがな。どうにも……誰も信用出来ん」
「どうして?」
「私の見目を見ればわかるのではないか?」
「美人だって? 吹かすなよ」
「私もそう言えたらよかったのだが、どうにも魅力的らしいぞ。大抵の奴らは夜、襲いかかってくる」
「……あー、災難だな……」
そこまで飢えた人間ばかりと言いうのは想定していなかった。
「いや、いいさ。お前はそういうタイプではなさそうだと分かったからな」
「……どうかな」
別に俺だって男ではある。
アウロラの見た目は美しい。
ただ地球の美人とは異なって、かなり筋肉のあるタイプの美しさだが。
しなやかな女性らしさは感じるが……そうそう襲いかかっってどうという気にはならない。
「仮にお前が私に襲いかかっても容易に対処できるからそう言う意味でも心配はしていないがな……ま、とりあえずお前はそんなことを気にしないで実力をつけろ。いいな」
「はいよ」
*****
王都周辺には全てで五つの迷宮があるのだという。
そのうちの最も簡単な迷宮、《平常の迷宮》に潜ると、一階層ではスライムが出現した。
スライム……強さは色々だ。
最も弱いもの、ノーマルスライムはその水状の体を叩けば簡単に四散するが、高位のものになればそう言うやり方では倒せなくなる。
《平常の迷宮》では通常、普通のスライムしか出ないが、稀に上位のスライムも出るようだった。
その条件は、パーティーに高位冒険者がいること。
俺はアウロラと一緒に潜っていたから………。
「ハイスライムではないか。なかなか珍しいが、お前ならやれるな」
後ろで腕を組みながら、俺に丸投げするアウロラ。
俺は戦うしかなかった。
普通にやっても勝てないので、とにかくスキルを活用して頑張った。
傷だらけになるまで攻撃を耐え、《癇癪》によって強力な攻撃を加える。
そのやり方で、結構なハイスライムを倒し、俺のレベルはゴリゴリ上がっていく。
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