25日目(後)
とはいえ、赤肌であるとしてもゴブリンが何するほどぞ。
そんなことを思いながらボス部屋に足を踏み入れると同時に、そいつは襲いかかってきた。
ものすごい速度で、
「え、ちょっ……」
流石にそこまで急に来るとは思っておらず、少し慌てる。
一応、アウロラには常在戦場を叩き込まれてはいたが、まだ切り替えがアウロラには全く及ばない程度でしかない俺だ。
それはそうなる。
そもそも、ボス部屋の魔物は、少なくとも五層くらいの低層においては、ある程度の距離にまで近づかない限りその場で停止していることが多い。
これは、彼らにはそれ以上近づいてきた場合には敵とみなすようなナワバリが存在しているからだ、というような説明がなされる。
俺はそれを前提に心の準備をしていたわけだ。
しかしそれが思い切り裏目に出た。
赤肌のゴブリンナイト……一般的に呼ばれている、レッドゴブリンナイトと呼ぼうか。
そいつは手に両手剣を持っているタイプだった。
鎧は金属製だが、そこまで厚みのないもの……動きやすさ重視かな。
ゴブリンナイト系は、身につけている武具の質でも強さを測ることが出来る。
場合によっては、グリーンゴブリンナイトの方が強力な武具を身につけていて強い、なんてこともあるらしい。
生まれついた種族の限界に縛られずに強くなれるということなのだろうか。
その辺りの研究はいろいろらしいが、ゴブリンの生態については謎が多い。
迷宮外であれば、人類に友好的なゴブリンの集落すらもあるらしい。
この辺りは、オークやオーガとは異なる。
オークやオーガは、知性はあっても人とは完全に敵対的というか、魔物らしい振る舞いしかしない。
ゴブリンはそうとは限らないというわけだ。
それだけに、ゴブリンの方が知能という部分では人間に近いか、匹敵するものもあるのかもしれないな……。
まぁ、それはいいか。
それより目の前の相手だ。
俺はレッドゴブリンナイトの振るってきた両手剣を受ける。
俺は片手剣であるため、かなりの衝撃に少し下がる羽目になる。
片手が空いているのは魔術を使うためだ。
まだあまり多くは扱えないが、目眩し程度のものなら使える。
ただ、練度が低いために手を発射台にしないと使えないのだ。
これが慣れるとどこからでも出せるとアウロラは言うが、本当だろうか。
その辺の魔術師を見る限り、杖の先とかからしか出していないのだが……。
ともあれ、レッドゴブリンナイトの攻撃をいなしつつ、隙を探る……流石に何度もあの大きさの剣を振るっていると、徐々に疲労は蓄積するようだ。
少し剣筋が鈍った、その瞬間を狙って、俺は光の玉をレッドゴブリンナイトの目の前に発生させる。
生活魔術と言われる低級魔術だが、その光量は悪くなく、怯ませることに成功する。
そのまま俺はレッドゴブリンナイトに近づき、剣を振るった。
目眩しをした時点で、レッドゴブリンナイトも俺が追撃してくるだろうことは予想していたのか、すでに後退していたが、俺の方が早かった。
胸元にざっくりとした傷を刻んでやった。
首を狙っても良かったが、一撃で確実にやれる時以外は狙い目の大きい胴を狙えとはアウロラの指導だ。
確かに、今回首を狙っていたら外していたか、少し浅めの傷をつけるくらいに止まっていただろう。
「ぐがぁぁ!!」
俺に大きな傷を負わせられたことにレッドゴブリンナイトはそのプライドが許せないのか、大声をあげてこちらに向かってくる。
すでに視界は戻っているようで、その血走った視線は確かに俺を捉えていた。
しかし、両手剣を振りかぶろうとして痛みに少し顔を歪める。
それがレッドゴブリンナイトの最後の隙となった。
俺は今度こそ、確実にやれると踏んでその首を狙う。
片手剣は確かにレッドゴブリンナイトの首に食い込み、そのまま切り落とした。
「……はぁ、はぁ……」
どうやら、勝てたらしい。
短時間の戦いだったが……楽な戦いとは言えなかった。
まだまだ精進しなければ。
そう思って気持ちを改めていると、ボス部屋の中央に宝箱が出現した。
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