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3日目

 正直な気持ちを言うのであれば、ふざけないでほしいというのが本音だった。

 だって、よく考えてみてほしい。

 勝手に向こう側から異世界くんだりなどに呼んでおいて、人違いでした、だ?

 しかもそれだけならまだいいが、元の場所に戻す方法はないと来た。

 頭がおかしいとしか思えない。

 俺の人生をなんだと思ってるんだ。

 

 ただ、俺は日本人で、相手の立場も何となく慮ってしまうところもあった。

 あの王様の側から見れば、なんらかの理由で勇者を呼ぶ必要があり、その方法にはメリットとデメリットがあって、また失敗する可能性もそれなりにあり……。

 で、結果として俺が呼ばれてメリットゼロの儀式となってしまった、とそういうことになる。

 返す方法はないのだからもうどうしようもない。

 かといって丁重に扱うには意味のない存在だ。

 だから、しばらく生活できる程度の金銭を渡して、城からは追い出す。

  

 まぁ……俺からすれば酷い話だが、王政なんてとられてる国の最高権力者が取るやり方としては、かなりマシな方なのではないだろうか、とも思ってしまうのだ。

 だって、全てをなかったことにする方法だってあったはずだからな。

 俺を殺しておしまいにするというやり方が。

 少なくともあの王様はそこまではやらなかった。

 曲がりなりにも謝ってくれているし。

 また、この世界の身分も存在しない俺に、それでは困るからと平民身分までくれたからな。

 これ以上望むのはわがまま、とまでは言わないまでも、無茶というか、現実的にやったところで無意味なことなんだろうなとも思ってしまった。


 ただ、せめて生活していける程度の仕事くらいくれよと思ったが、この世界の職業事情は日本よりもかなり厳しいらしい。

 何かしらの定職につくには基本的に若い頃から丁稚奉公をして、一人前と認められて初めてある程度の給料なり何なりがもらえるようになる、という感じのようだ。

 俺の場合、何の技能もないわけで、どこにねじ込むにしても問題があるということのようだった。


 じゃあ俺はどうやって食い扶持を得ていけば……?


 そんな風に色々説明された俺が、王都を駆けずり回って一応とれた宿の食堂で、よっぽど途方に暮れそうな表情をしていたのを宿の主人は感じ取ってくれたらしい。

 人生相談とばかりに少し話を聞いてくれた。

 もちろん、王城であったことについては詳しくは説明できなかった。

 特に王様とかに口止めされたわけでもないのだが、下手なこと言えば容易に殺されるだろうという想像くらい俺にもつく。

 言ってもこれなら問題ないだろう、という程度にぼやかした話を宿の主人にした。

 大体こんな感じだ。


「……実は今まで雇ってくれてた場所から急に放逐されてしまって、明日からどうしたものかと……」


「へぇ、まぁ最近はこの国も不景気だからなぁ。そんなこともあらぁな。兄ちゃん真面目そうだし、うちが大店なら、見習いとして雇ってやってもよかったんだが……こんな小さな宿じゃ、それも難しくてなぁ」


「いえ、小さな宿なんて。すごく居心地いいですよ。部屋も綺麗だし、それなのに俺の所持金でもなんとか泊まれるくらいに収めてくれているし……。それに相談に乗っていただけるだけで十分ありがたいです」


「慈善事業じゃないが、駆け出しにも泊まれる気持ちのいい宿を目指してるからな。行商人の見習いとか、田舎村から出てきたやつとか、若い冒険者とか、そういうのが王都でも困らないようにな……あぁ、そうだ。兄ちゃん、本当にどうしようもないなら冒険者ギルドに登録したらどうだ?」


「冒険者、ですか?」


「あぁ。そんなに強くは勧められるもんじゃねぇけどよ。ただ、誰でも年が十四を超えてりゃなろうと思えばなれる。もちろん、魔物討伐とか護衛とか、腕っぷしが必要な仕事はなかなか難しいだろうが、雑用系の依頼なら危険もないしな。稼ぎは厳しいだろうが、それでもうちに泊まり続けることも出来るくらいはなんとかなるぞ」


「腕っぷしがいるものは、そんなに厳しいですか」


「いいスキルを持ってりゃ、とんとん拍子にランクが上がって報酬もどんどん上がるみたいだが、そんな奴は中々な。兄ちゃんはその辺は……?」


「俺のスキルですか……正直、口にしたくないほど微妙ですね……」


 王城で、俺は自分のステータスを確認した。

 その時に見た中で、スキルもあったのだが、そこにあったのは期待外れと言っていいものだった。

 宿の主人は気の毒そうな表情で言う。


「そうかぁ……ま、俺も戦闘系で人に自慢できるようなスキルなんてねぇからそんなもんだろ。あればそれこそ冒険者にでもなってたろうしな。とはいえ、スキルは鍛えれば後天的につくものもあるから何の希望もないってことはねぇぜ。冒険者になって稼ぎたいなら、その辺狙ってみてもいいしな」


「なるほど……。何にせよ、まず冒険者になってみようと思います。他に稼げる当てなんてないですし……簡単なものならなんとかなるかな」


「おう。うちもたまに雑用系の依頼を出すことはあるから、そういう時は遠慮なく受けてくれ。兄ちゃんならいつでも歓迎だからよ。そこまで報酬が高くできるわけじゃねぇが」


「いえ、色々相談に乗ってくれてありがとうございます。明日は、冒険者ギルドに行ってみようと思います」


「大通りのわかりやすい位置にある。おっと、ケンカは売られないように気をつけろよ。短気なやつも少なくないからな」


「ご忠告、ありがとうございます。気をつけます」

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