25日目(前)
昨日は《冒険者狩り》に襲われたが、俺の今の実力的に十分対応可能な相手だったため、倒した。
……いや、オブラートに包むのはやめよう。
殺した。
自分の意思でだ。
地球に生きていた人間としてはとんでもない人でなしになったような気がしないでもないが、こちらの世界で生きていくには躊躇すべき行為ではなかったと今でも確信をもっている。
精神的にもどこかすごく変容したという感じは、今のところしない。
今のところ、と言うのは、こういうのは徐々に時間が経った後から苦しみ始めるとかありがちだからだ。
良心の呵責というのがどういった仕組みで人間の心を苛むのか、俺には経験がないから分からないが、一年後とか十年後とかに途端に苦しくなってしまうこともありうる。
ともあれ、その時はその時だ。
あの《冒険者狩り》たちは殺す以外にやりようがなかった。
気絶させて、上まで連れて行ってこの世界の官憲に突き出す、という方法も一応あるにはあるが、現実的には難しい。
三人の反抗的な成人男性を引きずって五層も迷宮を歩き続けるなんてのは無理だ。
そこで面倒を見切れずに、途中で逃してしまったら目も当てられないし、その時のことを考えるとやっぱり俺のした行動は正しかったと言えるだろう。
……一生懸命言い訳しているのかな、俺は。
自分にそんなことしても仕方がないだろうに。
まぁ、当然、人殺しの気分なんて良くはない。
アウロラいわく、いずれ慣れて、何も感じなくなると言うが、流石にそこまでにはなりたくはない気がする。
明らかな悪人を切って、苦しむような感じも避けたいが……。
それこそ、慣れていくしかないことなんだろうな。
ちなみに、昨日は五層のボス部屋まで攻略し切るつもりだったのだが、考えた末にやめた。
というのは、《冒険者狩り》に遭遇し、倒したのだからそのことを冒険者組合に報告しておくべきだろうと思ったのだ。
《冒険者狩り》のせいで迷宮に潜ることを避けている新人冒険者もいるだろうし、そんな彼らにとって《冒険者狩り》がいなくなったという情報は早いうちに得ておきたいだろう。
証拠としては襲いかかってきた奴らの冒険者証を漁っておいた。
死体を持ち帰ることは残念ながら無理だ。
一応、収納袋と呼ばれる、中に大量のものが入る魔道具があるのだが、俺はまだ持っていない。
アウロラの倉庫にいくつかあるだろうし、倉庫の中のものは好きに使えと言われてはいるが、収納袋は容量が大きなものは極めて高価だ。
俺くらいの人間がそれを使っているのを見咎められると、おそらくトラブルの種になると思うので十分にそういうものを跳ね除けられるようになるまでは、地道にやっていこうと思っている。
小さなものであればそうでもないので、そのうち手に入れるつもりだが、それだってそこそこ値が張るので、それくらいの金を自分で稼げるようになるまではやめておくべきだろう。
とはいえ、手に入る日もそう遠くないとは思う。
何せ、今日《冒険者狩り》を倒したことを報告したら、臨時報酬が出たからだ。
「特に依頼とかにはなっていなかったと記憶しているのですが」
俺が職員にそう尋ねると、彼女は答えた。
「組合では新人が無理に《冒険者狩り》を探して被害が増えるとまずいと考えていたので……。ですが、実際に倒されたなら冒険者組合に対する十分な貢献ですから。それ相応の報酬は出るというわけです」
「なるほど……どうやら得をしたようです。運が良かった」
「目をつけられて襲われた点についてはどう考えても不運としか言えないですが……」
「倒せる程度の相手でしたからね。ところで、本当に《冒険者狩り》を倒しのかと疑われないのですか?」
「シンさんはそんな嘘はつかれない方ですから! ……というのは冗談で、報告を聞いている最中、その言葉に嘘がないか、魔道具によって確認しておりますので」
「そんな魔道具が……」
「確実に分かるというほど便利ではないのですが、うまく使えば精度が上がる程度のものです。ただシンさんの報告には全く嘘がありませんでしたから、疑う必要はないと判断しました」
完全な嘘発見器というわけではないらしい。
地球のそれに近いのかな?
動揺を捉えるとか。
手に入っても扱いは難しいかもしれない。
ともあれ、昨日のこの報告で心配事は無くなり、懐も暖かくなった。
今日は五層のボス討伐に挑む。
読んでいただきありがとうございます!
ブクマ・評価などしていただけると嬉しいです。
下の方の⭐︎を5にしていただけると大変励みになります。
よろしくお願いします。




