23日目
迷宮探索を始めて5日目……いや、6日目になる。
俺が奴隷になるまでの期間よりも長くなったのはある種の感慨深さがあるが、それ以上にまともにやれていることに驚く。
アウロラの薫陶はしっかりと効いているようだった。
そのアウロラだが、彼女から意外にも手紙が来た。
館に帰ってきたら郵便配達人がやってきて、俺宛だと言って渡して行ったから間違い無いだろう
この世界にも郵便システムがあることに驚いたが、少し聞いたところによれば公営と民間のものがあり、公営のものはよほど大きな町でなければ存在せず、しかも時間がかかるようだ。
つまり、アウロラが俺に送ってきたのは民間の方だな。
しかも、飛竜便が必要なほど遠くから送ってきたらしい。
飛竜便とは、地球でいうところのエアメールになるだろう。
飛行機の代わりに飛竜という、竜に似た空飛ぶ爬虫類によって運ばれるのだ。
数ある民間通信手段のうちでも最も高価なものに分類されるようで、たかが奴隷程度に送るようなものではない。
よほどのことがなければ。
だから、それこそよほどのことがあったのかと思って恐る恐る封を切ったのだが、その内容はある意味で肩透かしだった。
アウロラは当初、俺に対して短くて一週間、長くて二週間ほどで帰ってくると言って館を出発して行ったが、その期間が伸びるというのが本題らしかった。
そんなもの、わざわざ言わずともいいだろうに、と思ったが変なところで律儀な彼女である。
そうなった時点で伝えずにはいられなかったのだろう。
俺としては彼女が帰ってくるまでに十層までを攻略すればいいとのことだったので、期限が伸びるのであればありがたい話だ。
迷宮探索は芳しくないとまでは言わないが、一週間で帰ってこられたら困ったことになっていたのは確かだ。
まぁ、冒険者組合にいる他の冒険者たちに聞く限り、迷宮探索を初めて一、二週間で十層なんてのは土台無理だ、と言われまくったのでアウロラもそこまで怒らないとは思うが……いや、怒るか。
やれと言われたことをやらなかった場合、いつも折檻が待っていた。
ちょっとアウロラと離れてその痛みの記憶が遠ざかっていたのかもしれない。
気を引き締めてやり直さなければ……。
それにしても、アウロラの手紙だが、その内容が意外と面白かった。
というのは、俺がこの世界に呼ばれた理由に関係していることが結構書いてあったからだ。
いわく、アウロラは今、魔王軍との戦いの最前線に派遣されているらしく、そこで魔王軍幹部の首を取ってくるようにと国から依頼を遂行中らしい。
そんな超極秘内容を手紙なんかに書くな、という話だが、アウロラが使った飛竜便は守秘義務についてもめちゃくちゃ厳しいところらしく、そこから漏れることはまずないと言う。
あったとしても俺以外が手紙を開封した場合にはその場で内容が可読性のないものになるよう呪術がかけられているらしい。
……あの女、呪術まで使えるのか。
多才にも程があるだろう。
魔力などの不可視の力を使った技術は、魔術以外にも色々存在する。
呪術はそのうちの一つだ。
その効果は細々としたものが多いというが……なかなかに便利そうだ。
いずれ教えてくれるのだろうか。わからん……あの女の考えていることは。
そのアウロラは、魔王軍蔓延る前線を駆け巡り、ついに目的の幹部がいる場所を特定したらしいのだが、首を取るにしてもやり方で迷っているようだ。
アウロラは真正面から行きたいようだが、臨時でパーティーを組んでいる……というか、組ませられた者たちは暗殺を推しているようだ。
その議論で時間を浪費していて、いまだに決まらないという。
それが故にいつ帰れるか微妙だという話だった。
強硬に正面突破を主張するアウロラに、他の面々がどんな表情をしているのかがありありと浮かぶ。
あの女に心底困らせられている人間が俺だけではないことに安心した。
しかし、やはりこの国は魔王軍と戦争状態にあるのは確かで、かなり激しいぶつかり合いを繰り返しているらしいことがアウロラの筆致からは伝わってくる。
意外に文章が上手いというか、描写が上手いというか、読んでいるだけで結構面白いのだ。
結局、俺は彼女からの手紙を夢中で読み進め、気づいたら結構時間が経ってしまっていた。
何度も読み返したのもある。
貴重な情報だし、十分読んだら燃やして捨てろと付記してあったから、記憶できるまで読んでおきたかったのだ。
もういいかな、と思ったところで火をつけ、完全に灰になったところを確認するといくつかに分けてバラバラに庭に埋めた。
そうしなければ復元して情報を読み取ることができる術士もいる、とアウロラに聞いていたからこそのことだ。
……これから迷宮探索か。
そう思いながら、俺は準備をして迷宮に行った。
案の定、気もそぞろになってしまって、あまり探索は進まなかった。
収入は悪くはなかったが……明日からは気合いを入れ直して頑張ろう。
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