22日目
「こちらが今回の素材の売却代金になります。ご確認ください」
職員がカウンターの上に並べた硬貨を数えると、結構な金額で俺は驚く。
ドブさらいなんかしていた頃とは比べ物にならない額だ。
およそ十倍はあるだろう。
あの辛い重労働の10日分が、こんなに簡単に……。
と、そこまで考えて頭の中にアウロラとの訓練の日々が過ぎる。
別に簡単ではなかったな、と。
とはいえ、一日分の労働としては確実に楽だったと言える。
掛け金は今日の方が高かったけどな。
何せ、ドブさらいはどれだけ辛くても疲れるだけだが、迷宮探索は常に死ぬ可能性が普通にある。
その分のリターンだと考えると妥当なのかもしれない。
全ての硬貨をしまい、今日のところは家に……いや、アウロラの家に戻ろうとしたところ、
「ちょっとお待ちください」
職員に止められた。
「……なんでしょうか?」
何か用事があるのだろうが、その心当たりのない俺は首をかしげて尋ねた。
すると職員は言う。
「今回は魔物の素材の売却のみでしたが、他に依頼など受けられる予定はおありですか?」
「あぁ……いえ」
言われながら、そういえばそうだな、と思った。
本来、冒険者は冒険者組合で依頼を受けて生計を立てていくものだ。
俺の場合は、それすらできずに奴隷になってしまったが、普通はそうなのだ。
そして、冒険者は依頼を一定期間に一定数受けなければ降格・除名されてしまうのだ。
そうなった場合、俺は魔物素材の売り先に困ることになる。
冒険者組合に所属するからこそ、色をつけて買い取ったりしてくれるのだ。
除名されてしまうと買い叩かれたり、そもそも買ってくれないということがありうる。
それは困るし……。
「ご存知かとは思いますが、一定期間にいくつか依頼を受けられない場合、最悪除名処分になってしまうので……」
職員もその点に言及した。
だから俺は言う。
「ええ、存じています。依頼は……ある程度落ち着いてからになりますが、受けていこうとは思っています。ただ、あまり遠出する依頼などについては、許可を取る必要があるので……」
「あぁ……いえ。あくまでも除名されない程度に受けられた方が、というだけですので、それ以上のことは自由にしていただいて大丈夫ですよ。シンさんは優秀な冒険者になっていただけそうな方ですから、規約を意図せず破ってしまってそういうことになってはと心配しただけですので」
俺が奴隷であるということを知っているからか、その辺の意図はうまく伝わったようだ。
俺は職員に、
「色々とご心配をおかけしてすみません。今後ともよろしくお願いします……では」
そう言って冒険者組合を後にしたのだった。
それにしても、奴隷の身分というのは好き勝手にするわけにはいかないから気を使うなと思う。
それくらいで済んでいることそのものが、アウロラの緩さでもあって、感謝すべきなのだろうが……。
普通は奴隷に一人で歩かせて、自由に迷宮探索させるなんてあり得ない。
自分が迷宮探索する際の盾にすることはあるだろうが、そういう使い捨てにするような存在だ。
ひどいものである。
ただ、この奴隷にも解放条件というのは一応ある。
色々なやり方があるが、いずれにしろそれは契約の時点で決まる。
よくあるのは、奴隷が自身の働きによって自らの身を買い戻す、というのだが、俺の場合は違う。
シンプルにアウロラの胸先三寸だ。
……俺が解放される日は来るのか?
疑問だ。
ただ、今のような生活なら、ずっと解放されずともそこまで悪い気はしないのだから、俺も随分と慣れたものだと思う。
明日からはまた、ひたすらに十層を目指して迷宮探索を課せられた身だけどな。
今日はとりあえず、せっかく稼いだ金を使って多少いいものでも食うかな。
回復薬の類を購入する必要があるので全て使うわけにはいかないが、それくらいの贅沢をする余裕はある。
アウロラは館にある回復薬の類をいくらでも持っていけと言っていたが、あそこにあるものは全て性能が高すぎて勿体無いのだ。
本当にやばい時のためのお守りとして一つは持っているが、通常使用するものは普通に買うことにしている。
そういうやり方の方が、冒険者として実力もつくだろうしな。
そういう教え方をしてきたのは、何よりもアウロラなので、それで文句を言うことはないだろう。
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