21日目
今日はもうこれ以上はやれない。
トレインされた魔物たちを全て倒したところで、俺はそう思った。
アウロラに体力の限界まで追い込まれた時ほどではないが、全身に疲労が広がっている。
魔物の解体は……全てやるのは難しいかもしれないな。
迷宮の魔物は、一定時間経ったら消えてしまうからだ。
その原理ははっきりとはしていないが、迷宮に吸収されるのだと言われている。
実際、魔物の死体が消える時の光は、迷宮に吸い込まれるようにして消えていくのだ。
どうしてそんな風になっているのかも、仮説はいくつかあるが、どれも想像に過ぎない。
俺たち冒険者にとって重要なのは、長く倒した魔物を放置しておくと消えてしまうということだけだ。
冒険者の収入は魔物を倒して得られる素材にある。
それは、ドロップ品と、魔物それ自体の解体素材、それに魔石だ。
魔石については、解体素材に含まれるが、どの魔物からも取れるものなので一応別カテゴリとしている。
この中で、ドロップ品については魔物を倒すとランダムに得られるが、解体素材は自ら魔物を解体して得るしかない。
魔石は特殊で、魔物の死体が消滅しても、そこに魔石が残される。
その魔石もしばらく放っておくと死体と同様に迷宮に吸収されてしまうのだけどな。
今日は……ドロップ品と魔石については全てを拾えるだろうが、解体素材は厳しそうだった。
それでも、取れるものは取って、売却して金を得て、アイテムや武具を購入しないとならないので無駄にはできない。
苦労して取れるものを全て取ると、俺は帰路についた。
ここからは、歩きで戻るしかない。
十層を攻略すると、そこまで直通の通路が開くとアウロラに聞いたが、まだまだ先だな。
一緒に進んでも、実力が離れ過ぎている相手とだとその通路は開かないらしい。
アウロラと一緒に十層に行ったのは、そういう意味では無駄だったということだ。
まぁ、それでも一度、経験しているというのはいいことだ。
あそこにどんな魔物がどんな風に息づいているのかを俺はすでに知っている。
もう一度あそこに辿り着いた時、その経験はきっと役に立つことだろう。
「……本当にこれをシンさんが?」
冒険者組合に久しぶりに来て、素材を売却するために窓口に来たら、そう言われた。
よく見てみると、俺が冒険者登録をした時の職員だった。
名前は……なんだったかな。
濃密すぎる日々の前に、あの頃の記憶は希薄だ。
ただ感じが良かったことだけは覚えている。
「ええ、そうですが……何か問題が?」
俺がそう尋ねると、職員は少し考えてから答える。
「いえ、問題はないのですが、それほどの実力をお持ちではなかったと記憶しているので……。久しぶりにいらっしゃいましたが、主にどぶさらいなどの雑務系を受けられていたのでは?」
あぁ、そういうことかと思った。
確かに雑務系しかやってなかった、やれなかった駆け出しが、急に魔物の素材を大量に持ってくるというのはいかにも怪しい。
ただ、事実であるため、どう説明していいか迷う。
だが、受付はその辺りも察してか先んじて言った。
「あぁ、何か問い詰めようととか怪しんでいるとかではないのです」
「そうなのですか?」
「ええ。これほどの素材を、自分で得る以外の方法で持ってくるのは難しいので……利益度外視するのでしたら方法はありますが、それをする意味もさほどありません」
「たとえば?」
「最も分かりやすいのは、購入することですね。それをそのまま納める」
「あぁ……購入代金の方が高くつくと」
「その通りです。他には高位冒険者に貰うというのもありますが……シンさんが最近、懇意にされているのはアウロラ様ですよね? あの方はそのようなことをされるような人物ではありませんし」
なるほど。
俺の細かい事情も把握しているらしい。
懇意にしている、とぼやかしてくれているが、奴隷になったことも分かっているのだろう。
冒険者組合の登録は、奴隷になったところで失われるようなものではなく、問題ないから、気にしないのかもしれない。
「そういうことでしたか。ええ、俺は……アウロラに鍛えられて、ある程度戦えるようになったんです。それで……」
「アウロラ様に……耐えられる方がいらしたんですね。でしたら、納得というものです。いずれの素材も状態がよく見えますので、査定してからにはなりますが、売却金額も色をつけさせてもらえたらと思います。少々お待ちください」
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