20日目
「うらぁ!!」
ハイゴブリンが振るう剣を弾いてから、空いた懐に飛び込んで切り掛かる。
そこを狙ってファイアスライムが小さな火球を五つほど放ってくるが、これに関してはアウロラが似たようなことをやってきたのを思い出して、避けられるものは避け、どうしようもないものは防具の丈夫な部分に魔力を纏って受ける。
アウロラが教えてくれた戦闘技術は多岐にわたって、その中に魔術をいかにして避けるか、防御するかというものがあった。
剣士と魔術師、どちらが強いか、というのはこの世界において酒場で相当な議論になる題材らしいが、大雑把には、距離によるらしい。
遠距離なら魔術師、近距離なら剣士、中距離ならなんともいえない。
そんなところだと。
しかし、とアウロラは言った。
しかし、剣士が魔術を全く恐れなかったら? それどころか、魔術が飛び交う中、大したダメージを負わずに突っ込んできたら?
魔術師は相当な恐怖を感じるのではないだろうか。
それに、魔術が大して効かないのであれば、そのまま近距離戦に持ちこめる距離まで近づける。
だったらそうすればいいのだ。
稀代の冒険者は、まるでバカみたいな話を大真面目な表情で俺に嘯いた。
本当に愚かな話だ。
そんなこと出来ないからこそ、剣士と魔術師のどちらが強いと議論になるのだ。
魔術は極めて強力な攻撃手段であり、剣士がそう簡単にどうにか出来るようなものではない。
魔術は魔力によってしか防げないというのが定説で、剣士は魔術師より遥かに魔力の扱いが下手だ。
あくまで身体強化という一点においてだけ、魔術師を上回るが、それ以外についてはお粗末なものだとされる。
これは仕方のないことで、武術と魔術を同時に修めるなど、正気の沙汰とは思えないほどに難易度が高い。
そんなことをすれば、どちらも中途半端に終わって大成することはしない。
それが一般的な考えだという。
だが、アウロラは言うのだ。
両立しろ、と。
どちらにも長け、どちらにも負けない、そんな戦士になれと。
なれるわけがない。
そんな顔を俺がしていたからか、アウロラはその不遜な顔の口元を歪ませて言ったのだ。
なれた人間がここにいると。
もう反論は出来なかった。
ただ……不思議なことに、やってみると意外にやれるのではないか?という気はした。
もちろん、簡単そうだとは思わない。
魔術も武術も、学ぶたび、その深さ、玄妙さを感じるのだ。
こんなところにも気を配っているのかと、先人たちが積み上げたものにある種の尊さすらを感じるほどに。
だが……やればやるほど、どちらも身についていくのだ。
俺は、地球にいた頃、自分に何かしらの才能があると思ったことは一度もなかった。
勉強にしろ、運動にしろ、芸術にしろ、果ては不良的なものすら、俺はどれも向いていないと思っていた。
だが、この異世界において、俺には何か……新たな才能が付加されているのかもしれない。
そんな気がした。
特別な……チートじみた力を得られたわけではない。
でも、努力すればしただけ、それなりに手応えを感じ続けられるような、そんな才能があるのではないか。
どこかでそう思えたから、俺はアウロラの非人道的な訓練に耐え続けることが出来た。
別に今日の訓練の辛さと、明日の訓練の辛さが変わるというわけでもなかったが。
俺が何かを身につけるたび、アウロラは普通に負荷をその分上げるからだ。
その見抜き方と言ったら的確すぎて心を読めているのではないかと思うほどだった。
まぁ、そのお陰で、今、俺は戦えているわけだが……。
実際、魔物たちは俺に対して殺気を撒き散らしながら襲いかかってくるものの、俺の弱点を的確に見抜き、そこを執念深く攻めてきたりはしない。
その攻撃の全ては、アウロラに比べて極めて雑だ。
雑な攻撃は防ぎやすい。
避けるのも容易だ。
また、恐ろしくもない。
対応を少し間違えたとて、余裕を持っていなすことができる。
アウロラの攻撃は違った。
一つ間違えれば死ぬ。
そういうものだったから……。
だから、俺にとってこの魔物たちの襲撃は、どこか流れ作業に近いものに感じた。
彼らの地力がもっと高ければそうではなかったのだろうが、このくらいの強さであれば、どれだけ数がいたとしてもなんとでもできる。
どうやら、俺はそう言い切れるくらいの実力は身につけているらしい。
魔物を屠りながら、俺はそんなことを考えていた。
読んでいただきありがとうございます!
ブクマ・評価などしていただけると嬉しいです。
下の方の⭐︎を5にしていただけると大変励みになります。
よろしくお願いします。




