19日目
イリーナとリック、と呼び合っていた二人組は、俺に一応の注意を口にすると、速度を落とさずにそのまま走り去っていった。
もう今は、その姿も見えない。
彼らが去ってしばらくして、魔物の気配が強くなる。
十数体の魔物が、いま、ここに来ようとしていることを俺の感知能力が捉える。
不可視の力である魔力を第六感で捉えるやり方は、アウロラにすでに学んでいた。
まだスキルとしては身についていないものの、使えないわけではない。
この辺り、面白いところで、スキルに身についているかどうかはその技術を使えるかどうかそのものとは意外に関係なかったりする。
スキルは……感覚的に言うと、一定の練度でその技術を使えるようになると得られる感じに近いな。
他にも何か要素はありそうだが、大幅に違っているということはないだろう。
ともあれ、そんな俺の知覚は魔物が迫っていることを教えている。
どうしたものか、迷わないでもなかった。
新人冒険者二人による、トレイン……つまりは、魔物の不当な擦り付け行為に対して、俺がどう対応するか、という話だからだ。
以前、冒険者組合で聞いた限りでは、トレイン行為は非常に悪質性が高いので禁止されているという話だった。
当然だろう。
故意に行なった場合には、降格、場合によっては除名までありうるという話だ。
ただ、あくまで故意に行なった場合であって、不可抗力……自分の命を守るために仕方なくした場合には、かなり減刑されるという。
せいぜいが降格とか奉仕活動かその程度の罪になるようだ。
まぁ、現実的に考えてみて、魔物に殺されかねない、と思ってしまったら逃げるしか方法はない。
そうした場合、道中にいる魔物たちを誘い、引き連れ続ける羽目になるのはまさに不可抗力だ。
あの新人冒険者二人も、どうもそんな様子ではあった。
つまり、冒険者組合にこの件を報告したとしても、あの二人はせいぜい降格程度の処罰で終わるということだ。
当事者としては全く納得がいかないが……あまりにもガチガチに縛ってしまうと死亡者が増えるのだろうな。
トレインと言っても、迷宮の通路は無数にあるし、こうして実際に他の冒険者にうまくなすりつけられるかどうかなど、そう予測できたものでもない。
そんな低い可能性より、今すぐ死ぬ確率を下げることのほうが大事だから、結果としてトレイン行為をしてしまっても許されるのだ。
「……ま、なんとか倒すかね。見る限り……第三階層の魔物が多そうだし、今の俺ならなんとかなるだろう」
俺は武器を構える。
ハイゴブリンやファイアスライムなどが主体で、この《平常の迷宮》にしては強い魔物の部類だ。
新人冒険者に過ぎない者が、即座に逃げを決めるのも納得のラインナップである。
「とはいえ、ブラックゴブリンよりは弱い、な」
武器を振るい、少しずつ数を減らしていく。
多くは一刀で首を狩れるが、中には武術系のスキルを修めている者もいるようで、《初級剣術》を最近手に入れただけの俺にとっては、厳しいところもあった。
ただ、それでも負けるつもりがなかった。
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