17日目
アウロラの木剣が迫る。
相変わらず凄い速度で、訓練初日のそれを俺が受けていたら一撃で気絶していただろう。
だが今の俺なら……。
──カァン!
という高い音と共に、アウロラの剣が弾かれる。
十分に重い攻撃だが、なんとかこれくらいのことは出来るようになっていた。
もちろん、これはアウロラが手加減をしているから可能なことだが、以前は出来なかったことが出来るようになってきたというのは、嬉しい話だ。
その結果、投げ込まれる場所は迷宮なので、碌でもない話でもあるのだが。
「……それなりにやるようになってきた」
訓練が終わったあと、アウロラが珍しくそう褒めてきた。
戦闘以外のことに関しては割と気軽に褒めてくれるのだが、戦闘に関してはほとんど誉めることがない彼女だ。
意外だった。
「そうですか? でも、結局今日も最後は気絶させられて終わりましたけど……」
途中までは彼女の攻撃を捌けていたが、徐々に一撃の速度は上がっていき、対応しきれなくなったところで意識を刈り取られたのだ
この終わり方はいつも同じだ。
健康に恐ろしく悪い気がするが、アウロラは治癒術が使える。
気絶から目が覚める頃にはすっかり傷ひとつない体となっていて、文句も言いづらい。
「あれはお前が死んだということだ。死ぬような攻撃だと感じたら、素直に逃げろ」
しかもそれなりに意味があってやっていることらしい。
まぁ、毎度気絶させられていたら、最後の一撃は忘れられないものとなる。
あれ以上の攻撃をもらいそうになったら逃げろ、と、
しかし……。
「逃げていいんですか?」
「何だと?」
「……いえ、どんな敵を相手にしても怯むな、逃げるなと言われるかと思っていたので」
アウロラは苛烈な女だ。
戦っている時は誰よりもそうである。
だからこそ、逃走など決して認めないかと思っていた。
でも、意外にそうではないようだ。
アウロラは俺の言葉に笑う。
「何を馬鹿なことを。必要もないのに勝てない相手に命を賭けて挑むのは愚かなことだ……もちろん、それが必要な場合もあるが、例外だな」
「必要な場合……逃げようがない時とかでしょうか?」
「そうだな。敵に囲まれているとか、誰かをどうしても逃したくてそのためには自分が殿をせざるを得ないとか」
「あぁ、なるほど」
「あとは……まぁ力試しにギリギリの相手に挑むとかはあるかもしれんな。だが、そういう場合以外は、逃げられるなら逃げるべきだ。いや、どんな場合であっても逃げられる方法は模索しておいていい。何事も命あっての物種だ」
「ご主人様らしくなく聞こえますが」
「まぁ、私は逃げないが、今日からのお前には必要な心得となる」
「……?」
「一人で迷宮に潜ってこい。目標は十層までだ。あぁ、得た素材やらなんやらは自分で冒険者組合に売却したりして構わんぞ」
「一人で? ご主人様はついて来られないのですか?」
「あぁ。少しばかり面倒な指名依頼を受けさせられてしまってな。しばらく留守にする。その間は好きに過ごせ。ただ鍛錬をサボらせるつもりはない」
「だから十層まで潜れと」
「少なくとも私が戻ってくるまでには達成しておいてほしい」
「いつ頃戻られるのですか?」
「二週間はかからないだろう。短くて一週間だな」
「一週間で……」
以前、そこまで連れて行かれたが、それはあくまでもアウロラの補助付きだったからいけただけだ。
いくらでもその場で治癒術をかけてもらえて、危なければ助けてもらえる、そういう状況だったから可能だったことだ。
それを一人でとなると……。
「ふっ。不安か?」
「正直、そうですね」
「だが、すべての冒険者はその不安と戦っている。お前もそうせねばならない」
「……ご主人様は、俺をどうしたいんですか?」
「それについては、とりあえず、いっぱしの冒険者になってからだな。ともかく、頑張るといい」
「はい……」
「達成できたら、訓練は次の段階に進む。今までは主に戦闘技術に偏って教え込んできたが、治癒術などの技術も教え始めるから、そのつもりいろ」
「わかりました」
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