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異世界に飛ばされたのでたまに日記を書くことにした。  作者: 丘/丘野 優


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16日目

 召喚術によって異世界にやってきたはいいが、即座に召喚主と思しき王様から放逐されて、色々あって奴隷になってしまった俺にとって、この世界で親しい人間なんて数えるほどしかいない。


 一人目が奴隷商人のクロッカー。

 人間を売買の対象にすることになんの痛痒も感じることのない、見事なまでのひとでなしだ。

 その割に、商品に対する気遣いというものはあるので一見、優しげに見えたりはするが……勘違いしてはいけない。

 売値に影響するから優しく扱っているのであって、人として大切にしようとしているわけではない。

 やつはそういう人間だ。


 二人目は高位冒険者であるらしいアウロラ。

 なぜか俺を気に入って即決で購入してくれた酔狂を通り越して気が狂っているかと思しきご機嫌なご主人様だ。

 実際、かなり頭がおかしく、買った奴隷である俺に対して毎日折檻と見紛うような過酷な訓練を課してくる。

 先日まで椅子に座ってひたすらに受験勉強に精を出していたような人間に、剣を持て、殺す覚悟を持て、気を抜いたら死ぬぞ、息が切れても精神が崩れても剣だけは手放すな、こう来た。

 実際その通りにしなければその時点で強く木剣で叩かれる。

 真剣ではないんだろ、大した痛みではないんじゃないか?

 そう思うかもしれないが、実際に角材とかで頭をぶった叩かれてから言ってほしいものだ。

 中途半端に素材が柔らかいから死ぬこともできない苦しみが理解できるか。

 死にたいわけじゃないが、いっそ死んだほうが楽なんじゃないかと何度思ったことか。

 しかも、そこそこ死にかけくらいの状態ならば、地球には存在しなかった回復魔術、治癒術という謎技術で完治させてくる。

 地球ではまず起こることのない、瀕死と健康体の行き来を時間がくるまで何度となく味わうことができるという最悪なアトラクションがここに存在する。

 とはいえ、アウロラが作る飯は美味い。

 飯時は決して訓練時のような厳しさを見せることはなく、むしろ穏やかで優しい。

 調味料をとってほしいと控えめに言えば、ちゃんととってくれるし、おすすめのかけ方やら味変の方向性やらも教えてくれる。

 アウロラはそうやっていれば文句などどこからも出ないほどの美女で、そんな女が穏やかに微笑みながら話しかけてくるのだ。

 頭がおかしくなる。

 俺はどういう気持ちを抱けばいいのだろうか?


 三人目は、気狂い研究者のリューだ。

 こいつはある意味、三人のうち最も頭が変なのかもしれない。

 彼女もまた、アウロラと同じく見た目だけは知的な美人である。

 ただ、その中身は悪魔も裸足で逃げ出すほど、全てを実験台としてしか見ていない節がある。

 事実、俺のことはそういう扱いをする。

 初めて彼女に出会った時、俺は弱毒を盛られたが、それは本当に彼女にとっては挨拶に過ぎないことだったらしい。

 彼女は俺が強くなるための方法を探ってくれるということで、それならばと通うことにしたのだが、通うたびにされたことはあまりにも悍ましくて口にしたくなくなってくる。

 ある意味、彼女にはもう何を見せても恥ずかしいとすら思わなくなった。

 彼女もまた、俺の何を見たとしても羞恥とか見せることなどあり得ないと断言できるからだ。

 羞恥というより、好奇心とかそういうワクワクを感じるのだろうな……その様がありありと想像できるようになった時点でもう、まともな女だとは思えなくなっている。

 ただ、そうであるとしても、様々な実験を行ったあと、彼女は俺に対して優しい。

 実験台に容易に使えなくなって欲しくないという感情からであるのは想像できるが、それでも、美女にそのように扱われればなんだか気分がよくなってきてしまうのが男のどうしようもない性だった。

  

 俺って、こっちの世界に来てから相当に精神的に強くなっているのではないだろうか?

 アウロラの訓練も、リューの実験も、今の俺にとっては当初ほど厳しいとは感じなくなってきている。

 周りから見れば凄惨なものにしか見えないだろうが……あの悪魔たちの俺に対する扱いを自分にもと望む者はいないだろう。


 ただ、それが日課となってきて、悲しいことに、というべきか必然というべきか、俺は自身の能力というか、実力というか、そういうものが上がってきているのを着実に感じていた。


 元々俺が持っていたスキル《耐える》と《癇癪》。

 それ以外のスキルも増えてきたのだ。

 どうも覚えられない、と思っていた《初級剣術》もついに身についた。

 なぜ今まで身に付かなかったのか、アウロラやリューに尋ねてみれば、おそらくはそもそもの基礎能力が足りなかったのではないか、ということだった。

 噛み砕いて俺が理解したのは、この世界の人間と地球の人間とでは基本的な能力が異なっているということだ。

 俺の世界の人間は当然、貧弱で、この世界の人間は魔物と対応しなければならない以上、村人だってそれなりに強靭で、その基礎の上に鍛えないと身に付かないものだったのだろうと、そういう話だ。

 もちろん、アウロラにしろリューにしろ、俺が異世界の人間だなんて知らないだろうが……。


 まぁつまり、俺はついに、新しいスキルを身につけていける土台を手に入れた。

 そういう話だ。

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