*日目 独白
初めは、ただの気まぐれだった。
「……奴隷をお探しですか。あの《滅炎》のアウロラさまが」
奴隷商館のクロッカーが、珍しくも意外そうな表情で私にそう言ってきた。
顔見知りではある。
買う側ではなく、奴隷たちを運搬する際の護衛などで雇われることがよくあるからだ。
奴隷商人などに関わるべきではないと言う者もいるが、それは少し狭量な見方だ。
確かに、奴隷商人などこの世に存在しない方がいいと言う者はいる。
大きな間違いとも思わない。
何せ、奴隷になった者は悲惨だ。
場合によってはその命を弄ばれ、無為に散らすことになる。
ただ、奴隷にならななかったとて、奴隷になるしかなかった者の運命がそれほど大きく変わるものでもない。
なぜ彼らが奴隷になるのか。
それは、彼らが必要ないものとされたからだ。
例えば不作の村で、村人全員が冬を越すことはもう出来ないことが明らかになった時、それは選ばれて奴隷商人に売られる。
だから奴隷商人がいなかったとて、彼らは餓死して死ぬだけだ。
何も変わらない。
しかし、奴隷になれば、わずかながらだが生き残る道が生まれる。
それだけのことだ。
必要悪だとか、たいそうな話でもない。
ただそうあって、世の流れにそこまで大きな影響を与えもしない。
中には悪どい者もいるが……それは見抜けばいいだけの話だ。
クロッカーはそうではないから、たまに私は力を貸す。
「私が奴隷を求めるのはおかしいか?」
「いえ……ですが、今まで必要とされなかったのです。今更、というのが正直な気持ちですね。こちらとしましても……どういった奴隷をお勧めすればいいものか……」
「いずれ相棒として立てる者を探している」
「ということは、腕の立つ者がよろしいでしょうか……元ベテラン冒険者や元騎士などがおりますが」
「とりあえず見せてくれるか」
「承知しました」
それから、幾人もの奴隷が連れてこられた。
奴隷であるから、もちろん武具の類は帯びておらず、簡素な麻の服だけを着ている状態だったが、体つきや身のこなし、その視線のやり方を見ていればその実力の程は分かる。
なるほど、クロッカーが勧めるだけあって悪くない者たちではあった。
ただ……。
「目が濁っている者しかおらんな。仕方ないと言えば仕方ないのだろうが……」
「腕が立つにも関わらず、奴隷になる羽目になった者たちですから……元々の心根が良くない者が少なくありません。ただ、アウロラさまならその反抗心を完全に折り、手駒とすることも容易なのではないかと」
「確かに無理ではない。だがその場合出来上がるのはまさしく私の手駒であって、相棒ではない。また、そのような者はある程度以上は伸びない」
「……すでに試されたことが?」
「以前な。その時の奴隷はすでに解放した」
「それはそれは。さぞ喜ばれたのでは?」
「どうだったかな……もはや忘れてしまった」
「ふむ……? まぁいいでしょう。しかし、目の濁っていない者ですか。いないこともないですが……」
クロッカーには珍しく、歯にものの挟まったような言い方だった。
「何か問題が?」
「アウロラさまならばすでに聞いているかもしれませんが、王城にて最近、変わったことがございました」
「……あれのことか。《勇者召喚》とやら」
「その通り。複数人の《勇者》が召喚されたらしいのですが、どうも、その時に一人、放逐されたようで……」
「その一人を仕入れたと? 一体どんな方法を使った」
「何も。どうにも世間知らずだったようで、偶然ここに。ただ……話してみると不思議な魅力があります。高い能力があるわけでもないようですが……しばらくは手元にと思っていたもので」
「冷酷な奴隷商人らしくないが……」
「別に血も涙もないからこの商売をやっているわけではないのですよ。ですが、アウロラさまにでしたらお譲りしてもいいかもしれません」
「……気に入れば、だがな」
「では、連れて参りましょう」
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