14日目
「……それで? どうして俺はこんな風にされなければならないんだ?」
単刀直入に俺は尋ねた。
俺は今、リューの家にある、ベッド……というか、むしろ台といった方がいいだろう。
そういうものの上で、両腕、両足を硬く丈夫な革ベルトで拘束されて仰向けに寝かせられている。
頭について動かないように固定されていないことが唯一の救いと言うべきか。
そもそも、お前、その状態になることを知ってその台の上に自ら寝転んだのか?
と聞きたくなるだろうが、そんなことをするわけもない。
リューが何の気無しに出してきたお茶を飲んだら、その瞬間、意識が遠くなって……気づいたらこんな状態になっていたのだ。
どう考えても眠り薬か何かの類を盛られたとしか考えられない。
地球だったらここまで容易に使うようなものでもないだろうが、この世界はこんなことくらい普通だ。
もっと用心すべきだったと心底思う。
アウロラの知り合いのようだからとちょっと警戒の念が薄れていたことが悔やまれた。
そんなことを考える俺に、リューはヘラヘラと笑いながら説明する。
「いやぁ、すでに説明したじゃないか。君には研究に協力してほしいってさ」
それは……確かに聞いた。
しかし、一体どうして後天的スキルについての研究のための協力で、こんな解剖されかねないような状態にされなければならないのか。
する意味があるのか。
そう思った俺に、リューは口元に人差し指を当てながら言う。
「スキルにも色々あるよね。代表的……というか、冒険者にとって一番身近なのはいわゆる武術系スキルだ」
「あぁ、剣術とか体術とかな。今のところ、俺には身についてないが……」
アウロラに鍛えられて、それなりの剣術体術の類は身についたように思う。
だが、特に後天的スキルとして身についたわけではないのだ。
世の中には、少しばかり剣術道場に通ったくらいで《初級剣術》が身につく人間もいるようだし、そこから考えるとこれは俺に、剣術を身につける才能がなかった、という話になる。
だが……俺は少なくとも《初級剣術》持ちくらいにであれば、負けるとは思えなかった。
もちろん、《耐える》と《癇癪》も戦う時には使うだろうが、剣術それ自体についてだって、それほど大きく技術が劣っているとは思えない。
というのも、《初級剣術》持ちくらいなら、その辺で見るから。
迷宮で少しすれ違ったりして……その剣筋を見る限り、俺とあまり変わらないのではないかと思う。
なのに、俺には《初級剣術》は身についてないわけだが。
なんでなんだろうな。
「君に《初級剣術》が身についていないことは大した問題じゃない。それより、今から君に何をするかだ」
「……何をするんだ?」
あんまりいいことではないだろうな、とゲンナリして尋ねると、リューは笑顔で言った。
「スキルの中で、受動的に身につけられるものがいくつかある。その中でも、比較的安全に身につけられると言われているものがあるんだ。それが何か、分かるかい?」
「比較的安全に……? なんだろうな」
考えてみたが、思い浮かばない。
スキルの多くは、修練の結果だ。
つまり、安全と言っても、それなりに辛い経験がなければ身につかない。
それなのに、比較的安全?
しかも俺は動く必要がないらしい、というのはこうして拘束されていることから分かる。
何だろう、と考える俺に、リューはいそいそと壁際に向かい、そこにある棚から何かを取り出した。
そして、俺の近くに戻ってきて、目の前にそれを示してくれた。
それを見て、あぁ……なるほどね、そういうことね、と俺は思う。
しかし、安全というのは冗談か?
安全ではないだろうとも思った。
それは……。
「何かの薬品……毒か何かだよな、それ」
俺の質問にリューは答える。
「おぉ、よくわかったね……というのは、馬鹿にしすぎか。見るからにそうだもんね。これはポイズンスライムの持つ弱毒だよ。大したものじゃない」
それを聞いて、ちょっとだけ俺は安心する。
バジリスクの毒だとか言われたらもうどうしようもないからな。
浴びたら、というか一滴でも触れたら石化して終わりだからだ。
「それをどうするんだ、って……聞かなくても簡単か。俺に飲ませる気か」
「飲ませるというか、色々試す感じかな。さっきも言ったけど、一番受動的に身につけられるスキルがある。それは……《耐性スキル》だよ。こればかりは、どんな人間であっても身につけ方は同じだ」
「耐性を得られるほどに、その毒なり攻撃なりを浴び続けること、か」
「そういうこと。さて、それじゃあ覚悟はいいかな?」
「よく無いんだけどな……ま、俺はアウロラの奴隷だし、アウロラはこうなるとわかってて俺を送り出したんだろうしな。どうしようもないな……」
「諦めが肝心かな? とはいえ、君に死なれたら困る。細心の注意を払うから、安心してくれ」
「安心しすぎて涙が出るよ……」
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