13日目
「大体、おかしいと思わないかい? 経験を積み、熟達しただけでスキルが身につくというのなら、なぜある日突然、そのスキルによって強くなったり、そのスキルについての能力が極端に上達するんだ?」
リューが言っている内容は、少しばかり理解し難かった。
スキルというのは……身につけたら、その技能についての能力がかなり上昇する。
そういうものだ、という説明はこの世界に来てさまざまな人間から散々受けてきたからだ。
なるほど、そうなのか、としか俺は思っていなかった。
剣を振り続けて、初級剣術を身につければ、それが身についてない時と比べてかなり、剣術が上手くなる、という現象のことだ。
ただ、地球でのことを考えるとこれは確かにおかしいのだ。
剣道を十年やってて、十年目に突然覚醒して強くなる、なんてことがありうるだろうか。
いや、そう表現せざるを得ないくらい、何かを掴む人というのはいないではない。
ただ、それはあくまでも今まで身につけてきたものが、カチッとうまくハマって、その結果として腕がかなり上がった、という程度の話だろう。
この世界におけるスキルは、スキルを身につけさえすればその能力上昇が全員に起こるのだ。
そして、その能力上昇というのは、もうたまたま今までの経験がうまくハマった、なんてものとはまるで違う。
明らかに格が変わるのだ。
考えても見てほしい。
昨日まで素振りくらいしかできなかったやつが、スキルが身についた途端、間合いの取り方、視線の配り方、重心の持ち方、刃筋の立て方について、一定の技能を唐突に、誰にも説明されていないのに理解する様子を。
これはどう考えてもおかしい。
おかしいが、これはこの世界にとっては普通のことだと俺は思ってきた。
だが……リューにとってはこの仕組みは疑問らしかった.
この世界の人間が、なかなか持てない視点のように思う。
ただ……。
「どう、おかしいって言うんだ? そしてそれがおかしいからって何だって言うんだ」
そういう話になる。
「私はね、思っているんだよ。スキルを身につけるというのは、ただ経験を積んだから、努力をしたから、それだけでなく、もう一つ、何かしらの要素が関わっているのではないか、ってね」
「何かしらの要素……」
「あぁ。それは、意志の力だ」
「意志の力ですか?」
「私は多くのスキル習得者のやり方や考えを観察してきた。その中で、どんなスキルを習得するかは、その人がどういうスキルを習得したいと考えるか、に大きく影響を受けているという結果を得た」
「じゃあ、アウロラは《釣り》が大好きってことですか?」
あの威圧感の塊のような女が釣りしかスキルをとれないほどに大好きとかだったら面白い。
しかしそうではないようで、リューは首を横に振る。
「そこもまぁ、面白いというか不思議なところでね。生来、何の努力もなく獲得しているスキルについては、本人の嗜好は関係なさそうなんだ。私は、非常に心優しく、虫も殺せなさそうなご婦人のスキルに《暗殺》があるのを聞いたことがあるよ」
「……先天的なスキルは、本人の思考と関係ない、か」
「そうさ。いい言い方だね。先天的スキルか。では、それ以外は後天的スキルと呼ぼうか」
「今までは?」
「スキルはスキル、という感じでね。呼び方はかなり分かれているが……ここは統一した方がいいかなとは思っているよ」
「分かりました。ではリュー殿は後天的スキルについて力を入れて詳しく調べている方ということですか」
「なぜ? 先天的スキルについてはそうでもないと?」
「そこまではっきり言うつもりはないですが、先天的スキルは話を聞くに、何かこう、天に与えられたもの、という感じがしますから……後天的スキルの方が、研究対象としやすそうだなと」
それに、彼女と親しいらしいアウロラが、釣りしかないのに大成してるのだ。
リューに何らかの助言を受けてあそこまでなったのではないか、と思うのだ.
「なるほどね、ここまで話して思ったけど、君は学者に向いてそうだね。考え方が論理的だ。発想力はどうかは分からないが、情報整理は得意そうだし……助手にならないかい?」
「俺はアウロラの奴隷ですよ……それより、後天的スキルについてお聞きしたいのですが、俺みたいなのでも、強くなれますか?」
話を聞いてて、思ったのはそれだ。
実際問題、俺にとって理論や理屈なんてものはどうでもいい。
それより、果たして俺は強くなれるのか、ということだ。
アウロラの地獄のしごきによって、《耐える》と《癇癪》がそこそこ使えるスキルだったと言うのは明らかになっている。
だが、それだけだと限界がある。
ひたすらにダメージを受けて、死ぬ直前にそのダメージを相手に叩き込む、それだけでやっていってもいずれ行き止まりに行き着くだろう。
でも、リューがいうように、後天的スキルを身につけるのに意志の力が影響するのなら……。
頑張って修行すれば、それなりのものが身につく、という話になるのではないか。
「そう、そこなんだ。それをはっきりと実証できたものは少ない。私は君に、そこについての研究に協力してほしいと思っているんだ。アウロラもそのつもりで君をよこしたはずだよ」
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