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11日目

「今日は休みだ」


 アウロラが朝食を取っている最中に急にそう言ったので、俺は面食らった。

 何せ、ひたすらに訓練と修行と迷宮探索以外にはお前にさせるものはないとでも言いたげな様子で俺を鍛え続けてきたのだから。

 なぜ、急にそんな暇を俺に与えるのだ。

 そう思った俺に、アウロラは言う。


「お前、私がお前に無茶なことばかりさせる碌でもない主人だと思っているな? ……まぁ、間違っているとは言わないが、使い潰すつもりもない。お前が使い物にならなくなるようなやり方をする気はない。私がお前に課している修練が厳しいことを、私はちゃんと認識しているよ。それなりの休養くらいは与えるさ」


 思ったよりも優しい言葉だった。

 この女のズルいのは、妙にたまに優しいところだ。

 未だにアウロラは料理は全て彼女自身が作ってくれて、サーブも普通にしてくれるし、俺が手伝うと言ってもそれは譲らない。

 迷宮探索で限界に達していれば、身を挺して助けてくれはする。

 家にいる間に、特別無理な命令をすることもない。

 ……やはり、いい主人なのではないか?

 そう思ってしまうが、訓練は鬼のように厳しいし、死ぬ可能性も普通にあるようなことを押し付けてくる。

 一体何を俺に期待してるのかよくわからない。


「あぁ、休みとはいえ、何もするなとは言わんぞ」


 まぁ、そりゃそうか、と思いながら彼女の指示を聞いた。


 *****


「……買い物と、伝言か……。まぁ、修行と迷宮探索よりは楽だな」


 日々の生活のための買い物と、ついでに色々な伝言関係をするように俺は頼まれた。

 別に、アウロラは何もしないくせに俺に色々押し付けやがってとは思わない。

 なぜって、今あいつは普通に迷宮に潜っているからな。

 しかも、俺が苦戦してた十層程度ではなく、三十層とか四十層とかに潜ってる。

 アウロラは高位冒険者で、それなりに指名依頼があるからだ。

 指名依頼というのは、冒険者組合から、指名で依頼されるもので、かなりの報酬がもらえるもの。

 別に絶対に受けなければならないというものでもないのだが、依頼主は力ある商人とか、貴族とかである場合も多々あり、受けなかった場合のマイナスを考えると受けた方がいいだろう、となるようなものが多いという。

 ただ、アウロラはそういった依頼すらも跳ね除けて問題ないくらいの名声を築いているようなのだが……。

 それでも、受けられる依頼は普通に受けているらしい。

 勤勉なのか、金が欲しいのか、名声を求めているのか………。

 冒険者を続ける理由なんてそのどれかだが、アウロラのいつも静まり返った表情を見る限り、イマイチどれが一番なのか想像がつかない。

 あの女が楽しそうにするのは、俺が予想外に一撃加えられた時とかそんなものだ。

 戦闘狂なのか、と思ったりもするが、別にそういう感じでもない。

  

 街中で彼女が他の高位冒険者から喧嘩を売られているところを見たことがあるが、その時は別に楽しそうでもなんでもなかったからな。

 まぁ、売られた喧嘩は普通に受けて、簡単に勝利していたから相手の実力不足というだけなのかもしれないが。


 わからないと言えば、なぜ俺を引き取ったか、というのもそうだ。

 色々と奴隷事情や冒険者事情を知っていくと、俺のような存在をわざわざ買う理由はどこにもないと思う。

 それなのにどうしてそんな買い方をしたんだろう。

 アウロラは色々言うが……未だによくわからない。


「すみませーん」


 とはいえ。頼まれた仕事はしっかりする。

 買い物関係は大体終わったので、次は伝言仕事だ。

 

「……《スキルについて新説を唱えている学者なので、その説について丹念に聞き取り、実証すること》?」


 俺がやることか?

 というか、この世界のスキルがどうとか魔術がどうとか俺にはよく分からない。

 そもそも、正直言って意味がわからないよな。

 なぜ、スキルなんてのものが身につくと急激に強くなったり、特別その技能に優れたりするのか。

 魔術だって使い方が本能的にわかったりするらしい。

 地球の常識からすると、それっておかしくないか?

 技能や技術というのは、一つずつコツコツと試行錯誤しながら身につけたものが、技能や技術と呼べるほどに洗練されたものという感じだと思う。

 ただ漫然と経験を積んだだけでどうにかできるものではないのだが……この世界においては、一定の経験こそがスキルというものとして発現する理由になる、というような説明が事実だとされているのだ。

 

「それは本当に正しいのですかね?」


 リュー・フランデールは、俺の疑問にそう呟いた。

 アウロラが話を聞いてこいと言った、学者の女だ。


「俺には……なんとも言えないのですけど、別に正しいとは……」


 なんの確信もない俺がそう答えると、リューは嬉しそうに言う。


「君は流石アウロラの奴隷だけあるね! そう……その疑問を少しでも抱ける、そのことがいいよ」


「疑問を……誰だって疑問くらい持つのでは。スキルに出ない技能だってある。それはコツコツ頑張ってやるしか技能に熟達する方法はないのだし……」


「それは例外・・と捉えるんだよね。基本がどっちにあるか、そういう話だよ」


 言われてみると……どっちがよく起こる出来事か、そこを基準に考えると……スキルを上げればなんとかなるというのが基本なら、それ以外のものは例外になるのか。

 でも、本来はそうではないことが基本で……ということか。

 そう考えるのは難しい?

 

「知っているかい? アウロラには何の才能もないんだ。彼女に直接そういうとブチ切れるけどね。それを今は……」


 ……バカな。

 あの暴力の化身で、魔術に熟達していて、誰に対しても傍若無人なあの女に、どんな才能もないって?

 そんなことがあり得るのか。

 俺は頭を抱えた。

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