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10日目

 ブラックゴブリンシャーマンが、その手に抱えた杖から素早く魔術を放ってくる。

 複数の小さな火球が散弾銃のようにこちらに撃ち込まれ、俺はそれを完全には避けられず、火傷を負う。


 けれど、だからと言って泣き言を言うことも怯むことも俺には許されていない。

 そうした瞬間に死ぬだろうし、死ななかったとしても俺のことを後ろから監視しているアウロラによる折檻が待っているからだ。


 彼女は俺と魔物との戦いにもう手を出さなくなっていた。

 最初の方は違ったのだ。

 危ないところがあったら、それなりに手を出して助けてはくれた。

 もちろん、あくまでも本当にギリギリのタイミングで、必要最小限の手出しではあったが。


 しかし、今はもうそれすらない。

 相当な重傷を負った場合は助けてくれるかもしれない。

 だが俺にはそれを試す気はない。

 命懸けで調べるようなことではないからだ。


 それにあのクソ女に期待もしていない。

 あいつは結局裏切らない手駒が欲しいだけで、それ以上の感情を俺に向けているわけではないからだ。

 つまり、俺は使える駒にならなければならない。

 そうでなければ、元の奴隷商館に戻されるか、もしくは迷宮で重傷のまま放置されて、そのまま死ぬかになるだろうから。


 それにしても今はブラックゴブリンシャーマンだ。

 こいつはかなり珍しい魔物で、少なくとも、今潜っている《平常の迷宮》に出現するような存在ではないと聞いている。

 それなのにこうして普通に現れてくれたものだから、かなり苦戦していた。


 ブラックゴブリンは、ノーマルゴブリン・グリーンゴブリンと呼ばれるものの亜種であるわけだが、その強さは明らかにブラックゴブリンの方が上だ。

 ノーマルゴブリンは基本的に最弱の部類にカテゴリされる魔物で、スライムと同様に初心者向けとされることが多い存在である。


 だがブラックゴブリンはその戦闘力は中堅冒険者にとっても侮れないものらしい。

 身体能力が全然違うし、持っている魔力量もかなり大きいのだ。

 結果として、俺が今戦っているようなシャーマン系にもなりやすいのだという。


 魔物が《なる》とはどういうことかというと、彼らは経験を積んだり、特殊な場所で生きていたりすると《進化》したり《適応》したりといった変化を起こすのらしい。

 ブラックゴブリンはノーマルゴブリンが特定の環境に《適応》したもので、ブラックゴブリンシャーマンはさらにそれが《進化》したもの、ということらしい。

 この辺りの細かい分類は学者に任せるが、まぁそういうわけで、ブラックゴブリンシャーマンはブラックゴブリンよりも強いということになる。

 

 実際、放ってくる魔術はしっかりとした狙いがあるものばかりで、避けるのだけでも精一杯だ。

 避けたって当たってしまうし、少しずつこちらの戦力を削ろうとする狡猾さまで持っている。

 冒険者稼業を初めて一月も経っていない俺にとっては、強敵すぎる相手だ。

 にもかかわらず、アウロラが俺をこんなものと戦わせているのには、それなりの理由がある。


「……くそっ、いてぇ……いてぇけど、そろそろ行けるか……!」


 俺はブラックゴブリンシャーマンに、奴の放ってくる魔術の弾幕を避け、またぶつかりながら、近づいていく。

 普通ならこんな無謀なことをしても死ぬだけだが、俺の場合《耐える》の効果なのか、耐久力がかなり高い。

 火球くらいなら命中したところで、痛く感じる程度のもので、大怪我まではいかない。

 それでも何度も食らえばそのまま死ぬが……まだ行けるはずだ。

 事実、俺はブラックゴブリンシャーマンを、射程距離圏内に入れることに成功した。

 そう、射程距離圏内・・・・・・だ。


「……死にさらせ、《癇癪》ッ!!」


 俺はそして、自らのスキルを発動させる。

 アウロラにすら一撃を加えることに成功した、あのスキルを。

 発動すると、俺の手のひらから鋭い光のようなものが放たれ、ブラックゴブリンシャーマンに命中する。

 すると、ブラックゴブリンシャーマンの身体中に火傷が浮き上がってきて、苦しみ出す。

 事態を把握できずにしばらくの間、慌ててどうにかしようとしていたが、原因など分からないのだろう。

 そのまま何も出来ずにブラックゴブリンシャーマンは倒れたのだった。


 *****


「よくやったな。解体も……手際が良くなってきた」


 俺がブラックゴブリンシャーマンの胸元に短剣を突き入れて魔石を取り出していると、アウロラが近づいてきてそう言った。


「ゴブリンなんて、魔石くらいしか取れないんだ。解体って程じゃないだろ」

 

「冒険者はそういうのをコツコツ集めて金を稼ぎ、武具を集めて強くなっていくのだ。バカにしたものではない」


「バカになんて……」


「まぁそれはいいが、それにしてもなぜブラックゴブリンシャーマンなど………。いや、それを言うならお前と迷宮を潜っている間に遭遇した魔物共は珍しいものばかりだったな。ここに出るはずのないものばかりだ」


「そうなのか?」


「あぁ、お前にもここに出現する魔物の大まかな種類は説明しておいたろう。だが、そこから外れた魔物が多すぎる」


「まぁ……でもありえないことじゃないんだろ」


「それはな。迷宮のことなどわかっていることは僅かだ。昨日まで出現していた魔物が明日全く出なくなる、なんてこともあるにはあるが……そういう場合には冒険者組合の方から周知されるからな。今の所そんなことは全くない。奇妙なことだ……」

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