1日目
リハビリ作品です。
100話くらいで終わればいいなという気持ちで書いていきます。
TwitterというかXの方で、短編版というか140字版も同時に連載していくのでお暇な人はフォローしてくれると嬉しいです。
出来れば毎日更新するつもりです。
よろしくお願いします。
深夜、ぼんやりと道を歩いていた。
暗闇の中にぽつりぽつりと街灯の光が浮かぶ。
蟲の群がる心許ない光から、ジジジ、という音が静かな夜の中に少しだけ響いていた。
太陽と間違えて、ひたすらにその光に向かい、しかし人工の雷に焼き尽くされて光の底に溜まっていく蟲たちが、まるで社会の中でうまく生きていけずに自分の部屋に籠る自分のように感じられた。
一体なぜこんなふうになってしまったのだろう。
俺、雪留 真は、今日自分の身に起こったことを思い出しながらとぼとぼと道を進む。
向かうべき目的地など、ない。
かといって、家に居続けることもできなかった。
あの家の中にいると息が詰まる。
俺を視界の中に入れるといつも怒鳴りつける母親、たまに家に戻って玄関で出くわすと、成績の話しかしない父親。
二つ下の妹と、以前話をしたのは何年前だろう。
昔はよく俺の後ろをくっついて歩いていたのに、気づけば軽蔑の視線しか向けられなくなっていたように思う。
だから、俺には一緒にいることで心安らげる家族はいないのだ。
かといって、こういう時に気軽に訪ねられる友人なんてものもいない。
いつの頃からか、学校という空間そのものが苦手になってしまっていた。
中学の後半からは通うことすら難しくなり、かといって高校に行かないという選択も出来なかった。
だから受験勉強はしたし、結果としてそれなりの高校には入れた。
でも、高校デビューすれば苦手意識が消えるかというとそういうわけにもいかなかった。
俺の現実は、思ったよりも厳しいらしかった。
最初は、頑張ったのだ。
周囲に率先して話しかけたり、殊更に明るく振る舞ったり、親切にしたり、教師にも協力的に振る舞ったり……。
それは反省だった。
小中学校でしてきた自分の行動、それを振り返って何が悪かったのか自分なりに考えて。
もう繰り返さないようにしようと自分を変えようとした。
結果どうなったか。
失敗した。
これ以上ないくらいに。
客観的に見れば、多分俺の行動は悪くないものだったと思う。
ただ、なんと言ったらいいのか。
……伝わるのだ。
無理というものは。
俺が高校デビューするために無理をしてした行動の数々。
その端々から、敏感な年代の同級生たちは感じ取ってしまった。
あいつは、あいつの真実は、ただの根暗で引っ込み思案のいじめられっ子であると。
実際、俺はその通りの人間だ。
少なくとも、小中学校ではまさにそのような扱いを受けて生きてきた。
だから高校では違う自分になろうと、無理をして母校からほとんど入学者のいない難関高校を目指し、そしてその試み自体は成功したと言うのに……。
まぁつまり、いじめられたのだ。
高校でもやっぱり。
ただ、悲しいかな。
それなりに勉強が出来る人々のするそれというのは、そうではない奴らがするそれよりもある意味過酷だった。
物理的には以前より厳しくない。
明確に見える場所から血が出るような攻撃はされなかったというか。
その代わり、分かりにくいやり方をされる。
その内容を詳しくは説明したくないが……この方法の恐ろしいところは誰に訴えたところで信じてもらえないということだ。
あの素敵な子が、あの賢い子が、そんな愚かな行為に手を染めるわけがないでしょうと。
そういう目をされる。
見えない位置とはいえ、傷があるからとそれを見せても、どこかにぶつけた程度にしか見えないそれは証拠としては扱われない。
ただ、電子機器も発展している現代である。
気軽に手に入れられる有効な道具は存在するから、俺にもそれなりの対策が取れる、録音など証拠を確保しようと頑張ってはみたのだが……。
現代社会に生きているのは当たり前だが俺だけではない。
向こうだってそのリスクが常に存在していることくらいわかっている。
どういうことかというと、証拠が残りそうな場面になると、行動に出なくなるのだ。
その勘の鋭さたるや、野生動物が森の中で天敵の気配を察知する能力に相似しているようにすら思えた。
コンクリートジャングルとはよく言ったもので、別に現代の人間もそういった能力を失っているわけではなく、ただ最適化されて見えにくくなっただけなのかもしれないと場違いにも考えてしまうくらいに。
そんなわけで今の俺の状況は、八方塞がりだ。
電子機器が無理ならと、一応、裁判での証拠として日記がそれなりに信用性があると聞いたことがあるから、今日からつけようと思っているが……他にも、もっとはっきりした証拠がなければ弱いだろうな。
とはいえ。
とはいえだ。
俺は別に心の底から死にたいと思っているわけでもなかった。
学校は辛い。
家も厳しい。
夢も希望も、ないように感じる。
でも、それはおそらく今だけだ。
高校生というこの年齢だから、家を出て働く、というのが現実的に難しいだけで、成人になればその頸木はなくなる。
最低限の収入で、物凄いボロ屋しか借りれないとしても、家を出て、今まで俺を邪険に扱ってきた人間と二度と関わらずに生きていく未来というのは、数年の我慢で、かなり高い確率で手に入れる事ができる。
そのことを、俺は理解していた。
俺はこれで、それなりに前向きなのだ。
根暗ないじめられっ子ではあるけれど、それとこれとは別なのだ。
だからと言って明日からの数年は、生きていたくもなくなるような毎日になるのは明らかなのだが……。
どうにかならないものか、と思うも解決手段は早々に浮かばない。
まぁそんなに簡単にどうにか出来るなら、悩む必要なんてそもそもないんだから当然だが……。
どうにでもなれ、という気持ちで耐え抜くしかないのかな……そうなんだろうな……。
そんなことを考えながらぐるぐる同じ道を歩いていると、遠くから強い光がこちらを照らした。
……車のハイビームか。
すぐにそう理解したが、この時の俺はあまりにも呑気だったかもしれない。
別に死にたいなんて思ってなかったのに。
それなりの夢もあったのに。
「危ないっ!!」
そんな声が聞こえた時には手遅れだった。
目の前に、もう避けられない位置に、トラックが迫っていた。
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