第5話 最強の高校生スタート⑤
魔術
それは異世界エルドシアを象徴する技術である。
呼吸で外界に存在するマナと呼ばれるエネルギーを取り込んだり、自身の生命力を精錬するなどして練り上げた魔力を基にして詠唱、魔法陣、霊装、身振り手振りといった要素を組み合わせて構築した術式と呼ばれる魔力の変換式を己の魂魄の深層にある魔算核と呼ばれる領域を通すことで世界の法則へと介入、その結果として己が構築した術式に基づいた超常現象を起こす技術、それがエルドシアにおける魔術だ。
技術とある通り様々な分野の魔術が存在している。
物質を扱うことにたけた錬金術、霊魂や不死者を操ったりする死霊魔術、自然の化身である精霊と契約し行使する精霊魔術など数々多くの魔術分野が派生、発達している。
一般的にエルドシアで使われているのは近代魔術と呼ばれる特殊な魔術言語である『ルーン』と呼ばれるもので術式を構築する魔術が主流であるが、古代の魔術言語を用いた古代魔術など未だ解明されていない魔術も多いが今は割愛するとする。
今、到真が使用した魔術は近代魔術の中でも一般的な【ストレングス・ブースト】と呼ばれる身体強化の魔術である。
魔術師として適正は無い方でである《《今の状態》》の到真では2~3倍位が限界だろう。だが身体強化系の魔術は強化する前の時点でどれだけ効果性の優劣は別れる。
1を200倍にして200の効果を出すよりも100を2倍して200の効果を出すほうが遥かに効率的なように、到真に適正がなくとも元の身体能力が高い到真にとっては高い効果を発揮する。
これによって到真の身体能力は戦闘機とまでいかないもののスポーツカーを上回るくらいには強化されて...
「ぬぉぉぉぉぉぉ?!?!?!?!。思ったより早えぇぇぇぇ!!!!!」
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「い...嫌です....」
「露葉!!あんただけも先に逃げて!」
「う~ん、あまり抵抗して欲しくないんっス。こちらとしても穏便に済ませたいっス」
東京の別の住宅街の道の光景なのだがこちらも明らかに普通ではない状況であった。
到真と同じ校章が付いた制服の二人の女子高校生とヘビー級の体格はある金髪のオールバックのスーツ姿の大男が相対していたからだ。
「逃げようとしたって無駄っスよ。ここいら一帯には組織の人間が監視していますっス。《《彼》》の方もしっかり確保しますっスから」
「私たちは自由に行きたいのよ!!。《《あんなとこに》》には戻らない!!!!」
投降することを勧める大男に対して片方の女子高生が断固拒否として吠えるが大男としては問題はない。むしろどう穏便に、傷つけないようにするかを考えていたがその思考は一つの通信によって遮られた。
『バディズ様!!。何者かが尋常でない速度でこちらに向かってきます!!!』
大男であるバディスは《《組織》》屈指の実力者だが報告してきた部下の慌て具合からして向かってくるものの速さが尋常じゃないというのは本当だと察した。
二人が逃げないように注意を払いつつ察したがその答えは考える間もなく現れた。
「退けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
「え!?。ちょ!?」
バディスも見たことのない速度で鬼気迫る勢いで突っ込んでくる見知らぬ少年相手に回避の暇もなく、
「ボげえ!?!?」
「「........................................」」
咄嗟に防御したがそれでも生身の一般人が新幹線にはねられたくらいの衝撃が襲い、錐揉み上昇したあと体勢をとれずに地面へと墜落する。
「退け」という少年の叫び声が聞こえた直後に反射的に端によることで何とかよけた二人の女子高生だったが、一連の光景に少し呆気にとられた後、これまた脱兎ごとく大男から逃げ去って何とかこの場合は乗り越えることができた。
この一連の出来事は到真のさらなる面倒事の原因となるのをはねた本人である到真は知る由もなかった......。
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「ん?。なんかはねたか?」
かたや猛スピードで学校に向かいさらに急ごうと都市の建物の上をパルクールの要領で走る到真だったが途中走っていた一本道で何かをはねた気がしたが到真は今遅刻か否かの瀬戸際(本人にとっては超重大)にいるので思考の外に追いやった。
そうして間もなく到真の通う高校の校門が見え、それと同時に職員と思しき人が校門にいるのも見えた到真はスライディングでわずかにあった隙間に入ると今度は魔術で強化して走ったことででたスピードを足の力で無理矢理ブレーキをかけて、
石畳を事前に魔術で補強してある通学靴で削りながら止まる。
その光景を見ていた職員は恐る恐る到真に近寄り
「お....おい,お前」
「ゴメンナサイ!!」
自分の顔を見るなりスライディング土下座をしてきた到真にさらに戸惑う職員だったが到真の土下座は続く。
「ゴメンナサイ本当にわざとじゃないんです!本校に対して当て付けのつもりもないんでず!ただ自分の時間に気付く能力がなかっただけなんです!なので初日から退学処分は勘弁してください!!お願いしますマジでお願いいたします!!!!!」
聞き取れるギリギリな早口で弁解しさらに頭が地に埋まらん勢いで土下座する到真に対して職員は「...いやそうじゃなくて」といった後
「今七時四十分だぞ」
「.....................WHAT?」
想定と違う言葉に一瞬思考停止する到真だったが恐る恐る校庭にある時計をを見ると確かに時計は七時四十分を示しており到真は25キロはあろう道を十分で走ったことになるのだ。そんな到真のコメントはただ一つ。
「.........急ぎすぎどころじゃなかった............]