第57話 RULER②
先に仕掛けたのはバディスだった。
得物の間合いでは不利と見るや否や、至近距離戦闘を仕掛けてきたのだ。
だが、到真も肉弾戦は得意分野である。
シッ!、と浅い息とともにバディが牽制の左フックを放つ。
そこに到真は身を屈めることで躱すと、その状態で回し蹴りを放つ。バディスはそれをジャンプすることでこれも躱すが追撃で放たれた蹴り上げが直撃した。
咄嗟に腕でガードしたことでダメージは減らしたが、それでも勢いを殺しきれずに距離を離された。
今度は到真が距離を詰めて仕掛け、バディスは防ぎ、又は躱して追撃を仕掛ける。
この様な攻防が結果としてお互いに続いていたのだった。
体格はバディスの方が勝っているが、地力では到真の方が遥かに勝っている。
しかし到真が依然として決定打に至れない理由は単純に手数の違いだった。
到真が身につけている格闘術は、魔族に召喚された頃に仕込まされた夜森人の暗殺術とゼルドース帝国の帝国軍式格闘術の二つに対して、バディスはこの世界のありとあらゆる格闘術に熟知している。
夜森人の暗殺術は攻撃と共に自身の魔力を、魔経絡と呼ばれる魔力の流れの要に叩き込んで破壊することを主流としているので、掌底といった技が多めである。これによって魔力がそこそこでも効率よく相手を死に至らしめることができるわけである。
一方、帝国軍式格闘術は拳闘のような技術を主体に蹴り、投げなどの様々な分野が合わさっているのが特徴だ。その為に獣人といった身体能力が高い種族に取り分け使い手が多い。
だが、こっちの世界の格闘術のレパートリー、繊細さは異世界よりも多彩である為に、バディスは到真の攻撃を無傷とはいかないが致命傷は避けてきたのだ。
だが、
「.............ッ!」
バディスが距離を自らとったのだ。
よく見ると彼の左横腹から血が滲んでいる。
(傷が開いてきたっス...............!)
序盤で貰ってしまった不意打ちによる傷がここで開いてきたのだ。
まさに絶好の機会
到真は仕留めんと追撃しようとした時だった。
「確保ー!」
「離してください!」
露草の声がしたので振り返れば工作員の一人が彼女を抑えていた。
到真とバディスの闘いの隙を突かれたのだ。
「チッィ...........!」
自身の詰めの甘さに舌打ちしつつ、到真は数本の隠し針を抑えていた工作員に向かって飛ばして、飛針は全て工作員に刺さった。
針には異世界でよく使っていた麻痺毒を仕込んでいるので、工作員は泡を吹きながら動けなくなった。
が
「捕まえたっス!」
「しまっ..............!」
僅かでも目を離した代償に到真はバディスのタックルをもらい、エビぞり体勢で頭から地面に強く叩きつけられる。
ゴガッッ!!と、地面にひび割れができるほどのジャーマンスープレックスをモロに喰らってしまい、到真の頭は血で濡れて倒れてしまった。
そしてバディスはどうにかして立ち上がり、口元の血を拭った。
「ゲホッ...........!ずいぶん手間が掛かったスね..............」
最もバディスも十分に傷だらけである。
目立った傷は脇腹以外にないが、格闘戦でもらった打撃が身体の隅々を浸透しておりぶっちゃけ倒れていいなら速攻で倒れてもおかしくない状況だ。
最も後は楽なので、露草の方へ振り向いた。
彼女は絶望で足が動かないでいたが、仕事を止めるつもりはない。
「さて、おとなしく」
「まてやコラ」
背後から声がしたので振り返れば、到真が血で頭を濡らしながら立っていたのだ。
あまりのしぶとさと強さにバディスは勘弁して、なんて心の中で涙目になった。
「いい加減倒れてくださいっス...........」
「お前が言うな、筋肉モリモリマッチョマン変態。それとこれは忠告だ。次の一手でお前は死ぬ」
「........................へぇ」
ブラフでも、強がりでもない。本気の忠告にバディスの目がより細くなる。到真との闘いの時はあくまでも自分と同じくらいの強さとみていた。しかし今ではバディスの今まで戦ってきた中で一番の脅威となっている。
「忠告ありがたいっスけどね、こっちも聞けないんっスよ」
「じゃ、遠慮なく行かせてもらうから」
何か秘策があると確信していたので、バディスは身構える。
到真も勢い良くスタートダッシュを切って向かう。
そして両者は激突ーーーーーーー
「え?」
しなかったのだ。
あろうことか到真はジャンプしてバディスの頭上を飛び越えると、そのまま露草を回収して逃走したのだ。
「................................................................................................................ちょっっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
想像の斜め上を行ってかつ、一連の無駄のない行動に呆け度られていたバディスだが現実に戻りすぐさま到真たちを追いかける。
ある意味では忠告通りになる事を知らずに------------------
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「ハッ!お前みたいなロリコン筋肉ゴリラとまともにやりあうか、バーカ!!」
アキバの通り道を疾走する到真。
後輩の露草を姫様抱っこしているその様は、まるでか弱い女性を助けている者そのものだ。(実際そうなのだが)
「あ、あの!一体何処に逃げているんですか!?」
「知らんな」(キリッ
「ええ!?」
必死にしがみつきながら質問した露草をきっぱりと到真は否定した。
「まあ、信じなって。当てはないが無策じゃないから」
「は、はぁ.................」
(この感じどこかで.................?)
詳しく知らないけど、確実に信頼できる感覚を感じ、いや思い出しつつある露草だが
後ろに必死で追いかけている大男をみて一瞬で恐怖に染まってしまった。
必死ですがるように到真の制服にしがみつく露草を見て到真は右へ曲がった。
そこは明らかに行き止まりで、露草は到真に何か言おうとしたがその言葉はその後の現象によって抑えられた。
「【星の力船・天の大海・理の舵は左舷へ】」
異世界の魔術分野における、物理や自然要素に直接作用を起こす黒系魔術に分類される魔術、【コントロール・フォース】。
それを発動した到真と一緒にいた露草の身体は重力の枷から解き放たれて、ビルを容易に飛び越えたのだ。
「いやずるいっスよそれ!」
当然バディスは怪我を負っている状態では流石に飛び越えることは無理なので回り込むしかない。
そんなバディスの苦情も一切無視して到真は進むが
「露草、ここ当たりで人が多くいる所は?」
「ふぇ!?」
唐突な質問に困惑したが、アキバはそれなりに通っているので知っている。
「ここまっすぐ行ったところです」
「よしそこに「ようやく見つけたっス~~!」はっや!都合いいけどさ。というわけでもう少し姫さまたいけんしてね」
「あ、ふわぁ!」
執念なのか、もうバディスが目視県内に入ったので到真は露草を抱えて再び走った。
最も当人はというとどこか顔が赤い。
そうして続いた逃走劇も終幕が近づいてきたのか、バディスは少しづつだが到真に近づいてきて来た。
工作範囲外に出てしまったので、何も知らない一般人が物珍しそうに到真を見る。
到真はそんな民衆の反応をみて懐から一枚のカードを取り出した。
(ここだ!【真なる理】!)




