第56話 RULER①
「いやはや、再び相まみえましたっスね。天理到真」
「?、面識ないぞ。お前のようなロリコン筋肉モリモリマッチョマン変態は」
奇襲を成功させ、バディスの動きから彼が歴戦の猛者かつ痛みに慣れていることを見抜いた到真だったが、面識ないはずの男が知っている口ぶりに疑問が生じる。
「...........あなたにとってはそうでしょうけどっスね。こっちからしたらとんだ狂わせをさせてくれたんっスよ。」
「???」
「..........質問を変えるっス。どうしてここにいるんっスか?」
バディス、いや異能組織からしてみれば到真は一種の爆弾なのだが本人は一切心当たりがないようなので聞き出す情報を変えた。
ここいら一帯には工作員を、トイズ達が独断専行した時以上に動員したのだが到真はそれを突破したのだ。
すると到真はどこか呆れ気味な顔になって
「お前らの所の工作員が明らかに素人でね。視線はごまかせないは、気配は消せないは、逆にあれでどうやって引っかかれと?」
(素人...........っスか............)
到真は素人というが、組織の工作員は一流の訓練を受けている。戦闘力は異能力者と比べると劣るが、それでも彼らの技術は世界レベルだ。
それを素人というなど一体どんな世界で生きてきたのか。
バディスの天理到真への過去の興味が尽きないが今は仕事が優先として、戦闘態勢は解かない。
「あいにくこっちも仕事ですのでね。意地でも『感応増幅』を引き渡してもらいますよ」
「『感応増幅』?」
聞きなれない単語が出たので一瞬眉間にしわが寄るが、引き渡すといったことからもそれが露草を示していることを察した。
実際に帰る際にいた他の二人の姿が一向に見えない。
それは
「..................声に出さないでいい。あの二人はどうした?」
そばにいた露草にかろうじて聞こえる位の微かな声での質問に露草はただ俯いて首を縦に振った。そして涙も零れた。
それが示す事実が到真の短刀を持つ手をより強く握らせた。
だが、バディスも一連の流れをただ見過ごすほどお人よしでもない。
会話の隙をついて露草を確保しようと迫る。
が
「ッッオゥ!」
短刀の横切りがバディスの顔を掠めて、薄皮を切り捨てる。
これも声と共に間一髪で後ろに下がることでこの結果に抑えた。
しかし、お返しと言わんばかりに短刀の連撃がバディスに襲い掛かる。
(............!『強化』ァ!)
強化の異能力を自身の四肢にリソースを回して刃を受け止める。
ガキィン!、ガキィン!と人体から発せられたとは思えない金属音が連続して発生する。
最後の一撃を左腕で受け止めたことでできた到真の隙を、バディスは逃さんと右ストレートを放つが到真はすぐに短刀を引いて、その刃の横流しで受け流す。
円運動の要領で、真っ向から力勝負にです逸らすことで生まれる僅かな隙を突く。
間合いが短いが、小回りの利く短刀ならではの戦術だが無論、バディスは当然このような相手との戦闘は経験している。
「.........ッ!」
先の右ストレートはブラフで、その勢いで到真の右手首を捉える。
そして合気道の要領で到真の体勢を崩す。
しかし到真だって黙っていない。
「ウラァ!」
「オワァっス!?」
受け身とともに上半身を捻ってその勢いだけでバディスを投げ飛ばして脱出したのだ。
最もバディスにダメージはないのだが想定外だった為に着地で少し体勢が崩れてしまった。
そこに得物《短刀》が飛んできたのだった。これを紙一重で躱したバディスだったが、これもブラフで到真は懐へ潜り込み、左足を踏み込んでの左正拳をバディスの胴体に食らわす。
中国拳法での発頸で威力が増幅した拳はバディスを10メートルを軽く超えて吹っ飛ばしたのである。
「ゴフッ、ガホォ!」
血反吐を吐いて転がるバディスだったが、どうにか踏ん張って立ち上がる。
さっきのダメージは軽くないはずなのだが、その眼には一切諦めの感情というものはなかった。
これには到真もバディスの評価を改めなければ行けなかった。
「ロリコンで頑丈とか、最悪の組み合わせかよ.............」
「どちらかというとフェミニストっスよ」
一連の攻防に露草は傍観しかできない中で、アキバの通り道の闘いはラウンド2へと入っていくのだった。
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「バディスと天理到真が交戦を開始したのね?なら工作範囲を狭めなさい。バディスが引き付けている間に『感応増幅』を回収、もし天理到真がそばにいたら隙を見て確保だけに徹しなさい。それ以外は決して手を出さないこと。命令違反した場合は即座に切り捨てて行動すること。いいわね?」
東京にある異能組織の仮設拠点のビルの一室で、ハクシキは自身の異能である『感知』を使いながら部下へと指示を出していた。
今回の作戦は彼女にとって決して失敗が許されない。本当の意味での命を賭けているのだ。
そして一通り指示を出し終えたハクシキはソファに座っている一人の男性へ視線を投げかけた。
「一旦これでいいのよね?」
「はい、とりあえずは邪魔が入らなければいいです」
その人物の服装はダークグリーンを基調とした生地に飾りが加わっている夜会服だが、トイズと違って彼は完璧に着こなしている。シルクハットを付けているが顔は欧米人のハンサムな青年だ。茶色い顎髭もあるがそれも彼の顔を引き立ている。
彼の雰囲気を言葉にするならフランクな印象であり、接しやすいがどこか詐欺師を見ているような感覚をハクシキは感じていた。
彼曰く、異能組織のビジネスパートナーな所から来たのだがハッキリ言ってこの上なく胡散臭い。
しかし彼を迎え入れた理由は、現在組織の目の上のたん瘤である天理到真の排除が可能であるらしく、藁にも縋る思いで迎え入れているのだ。
ちなみに名はクロウというらしい。
「それで本当に天理到真の排除が可能なの?」
クロウが出してきた提案を条件に迎えたのだが、こればかりは冗談すら許されないので全てを疑うかのようにハクシキは対応していた。
しかしクロウは、ハクシキの鋭い目線にも何にも気圧されることはなく依然として陽気な雰囲気を崩さなかった。
「最初にも言いましたがあくまで自分たちは瀕死に追い込むだけです。けど何も起きなければ彼を殺せるのは事実ですよ。それよりもこっちの条件は飲んでいただけましたか?」
「.......................................................................................................一応ね」
クロウ達が手助けに出した条件をハッキリ言ってハクシキ達は断りたかった。しかし天理到真の排除の可能性で考えた結果、渋々飲んだのだ。
「それなら結構ですよ。こっちとしても可能な限りサポートしますから」
「ならとっととこの場を離れなさい。こっちは忙しいの」
これ以上何かするなら叩き出す。そう目線で伝えるハクシキにクロウは特に何か反抗的な様子もなく、部外者は退散するとしてビルから出て行ったのであった。
「それにしても彼女、しっかり思考誘導されていますね。全て師匠の計画通りとかホントチートです。ジェーンさんとタタラさん、それと時代遅れのあの人も配置に着いた様なので最後の仕上げと行きますか」




