第49話 異能組織①
「ただいまー」
「うむ........って、お主何があった⁉」
いつもの主が戻った声がしたので出向いてみたら、止血しているが右腕が肘の少し後ろの部分から先がなく、口元も若干の血が付いてる。右腕も左腕で持っているが前腕部の皮膚が溶けていたという状態だったので、さすがの夜月も冷静ではなくなってしまったようだ。
「あー、ちょっとした襲撃にあっただけだ。あと夜月、お前何か隠しているだろ?」
「え、何がかのう..........」
「ちょっと二人どうし...........ええええええええええええ!?大丈夫ぅぅうぅぅぅ!?」
到真のジト目な追及に目を逸らす夜月だったが、そんな中で偶々屋敷に訪れていた鳴は到真の惨状を見て、素っ頓狂な大声をあげてしまった。
「腕!腕!腕欠けているけど!?」
「デイジョブだ。この程度は後でくっつける。」
「後でじゃないでしょうかぁぁ!最優先で治療じゃい!」
閑話休題
「お前らうろたえすぎだろ...........」
「到真君、断言するよ。腕がなくなっても落ち着いているの君だけだから」
くっついた右腕を包帯で包んで、茶を一服してため息をつく到真に鳴の目はジト目になっていた。
到真は自分で治療しようとしたが、鳴と夜月の術による治療で腕はどうにかくっついた。
溶けた皮膚については到真が異世界で手に入れていた擬人皮膚を貼り、今は包帯で保護している。(あまりにも質感が本物のソレだったが鳴は言及しないことにした)
「しかし一体お主に何があったのだ?」
「簡単に言うと、異能力者に襲われた。」
(サラリと言ってることにワタシはどうすればいいの..........?)
夜月の疑問に答える到真の感性に鳴は内心ツッコム事を辞めた。
しかし、”異能力”という単語に夜月はどこか苦々しい顔になる。
「夜月、お前をとやかく言うつもりはない。ただ正直に話してくれ。この前の泥棒は異能力者だろ。」
「...................わかっていたのか.........................」
「連中が俺のことをどういう訳か目の敵にしていた。面識は無いのに会った口ぶりから恐らく撃退したお前を俺と勘違いした、そう考えただけだ。」
夜月は沈黙する。しかし表情は正解とだけ言っていた。
「..............すまぬ、主をワシの不注意で危険にさらしたとは.....」
「別に今はいい。それよか重要な事がある。異能力とはなんだ?」
到真の許しを得た夜月は静かに知る限りを語った。
異能力
夜月曰く、陰陽術などのこの世界の能力体系とは違った力のことを言う。
術と同じく生命力を利用するのは一緒なのだが、術は多彩な現象が起こせたり、それを組み合わせられるのに対して、異能力は限定された一つの能力しか利用できないらしい。
しかし、その出力は同じような術を大きく上回る上に燃費も格段に良い。
さらに違う点は、術師が一万人のうち一人の確率でいるのに対して、異能力者は
十万人のうち一人がいれば多い方というくらい絶対数が少ないことだ。
それも資質を持ちながらその力を自覚するのはごく一部なので一般人と大差ない者が大半ということだ。
「その分ノウハウが術と比べては充実していないからというのも理由の一つだがな」
「じゃあ、到真君を襲ったのは異能組織ということですか?」
「間違いないな、工作員も保有していたことからもただの徒党とは考えにくい」
夜月の締めくくりの後の鳴の疑問に到真が補足する。
実際、襲ってきた彼らがAランク何ぞほざいていたことからも組織単位としてみるのが筋だろう。
しかしここで鳴からすれば更なる疑問が浮かぶ。
一体どこの、それも異能組織となれば知らないので全く心当たりがないのだ。
しかし到真は茶のお代わりをして告げる。
「おそらくだが連中は”オーディン”なる組織らしい」
「なぜわかる?」
全く心当たりないはずなのに組織名を言う到真に、夜月と鳴は当然疑問が向く。
その問いに到真の顔が一瞬暗くなったのを鳴は感じたが到真は続けた。
「襲撃されたとき、連中の頭の中を少し覗いた。詳細は分からんかったが”オーディン”なる単語が覗けたからだ。」
「異能組織か............。確かに奴らならばありうるかもな..........」
「知っているのですか?猫神様?」
そう告げた到真の言葉に夜月の顔が更にみるみるしわが寄っていくのを見た鳴は場の空気を変えようと質問を投げかけた。
「うむ、先程異能力はそのノウハウが充実していないといったな。しかし例外がいる。それが異能組織だ」
「オーディンっていえば北欧神話のトップの神様だろ。連中は神様気取りでもしたいのか?」
「あながち間違っていないともいえるかも知れぬ。奴らは異能力者を集めて何かの研究をしているということしか聞いた事がない。わかっているのは異能力者を集めていること、各国に技術を秘密裏に流して影響力を与えようとしていること、文字通り神へ至ろうとしていることぐらいだな」
「神って........そんなのいるんですか?」
「実際に死者の復活などの研究をしているそうだぞ。あと鳴、おぬし今さらりと儂のこと否定しておったぞ」
「あ...........」
神様扱いの妖の前でサラリと神様の実在を疑問視してしまった鳴は必死に弁解するが、流石に目の前で存在を疑問視された夜月はツーン、と拗ねてしまったようだ。
土下座して機嫌を直してもらおうと奮闘する鳴をよそに、到真は先程の”死者の蘇生”ということに心当たりで顔は依然としてしかめていた。
「まさか...........連中は”ADAM”を甦らせよとしているのか......?」




