第46話 異能力⑦
「メルとトイズが、天理到真を襲撃した⁉」
「は、はい」
東京のビルに仮設した拠点で作業をしていたハクシキは部下からの報告を聞いて、頭を抱えた。
警視庁の屋上のヘリポートに放置されたフェクト、メル、トイズの三人組は警察に確保されたものの、組織の根回しで回収したがその際の労力は通常の機関に対するものよりも遥かに大きい上に、国に知られたことで活動に余裕もなくなった。
だというのに帰還したのはフェクトただ一人で、あとの二人は帰還しなかった。
あの二人はいつも勝手な行動をとりがちだったのでいつものことで寄り道でもしているのだろう、として仕事に戻ったのだが今回ばかりは自分の管理能力のミスを祟った。
「今回ばかりは私がしっかり回収すればよかったわ.........」
しかし悔やんでも事態が解決するわけではない。
「工作員を独断で動かして通学路を封鎖して襲撃しています。」
「戦闘に入ったのはいつ頃?」
「ほんの1,2分前です。」
最悪の展開は既に戦闘が終了して、かつ敗北した場合だがまだリカバリーはきく。
ハクシキは机の引き出しから一枚の地図を取り出して、自分の異能”感知”を発動する。
異能”感知”は戦闘的な効果はないがハクシキのたゆまぬ鍛錬により自身を中心に半径数キロ圏内で起きている事象なら感知できる。更に範囲を絞ればより詳しいことがわかるので、攻撃系の異能でないにもかかわらずAランクの称号を与えられている。
(見つけた!)
場所を見つけたハクシキはその地点の地図上に印を付けると部下へ放り投げた。
「印のつけた場所が例の地点だから工作員の増援を送って、民間人に知られないようにしないさい。この際Cランクの異能力者も連れていって構わないわ。けど決して、天理到真には干渉しないこと。あの二人が殺されていなければ、回収しなさい。もし彼に回収されたら諦めて撤収すること。いいわね。」
「は、はい!」
部下が慌てて部屋を出る中で、ハクシキはただ一人、窓から外をにらんでいた。
「この際、貴方の実力を見定めていもらうわよ。天理到真.........!」
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ゴドォン!ゴドォン!
「フハハハハハ!これがわが異能!”人形”!最強の異能である!フハハハハハ!!」
港区の森林公園が傍にある道路では鉄の巨人による連撃が道路を粉砕していた。
巨人の猛攻は逃げる間もなく一点を集中している中で派手な燕尾服姿の男、トイズの自信の雄たけびが響いていた。最も工作活動のせいで聞いているのは彼とターゲット以外にいないが。
「あの夜の屈辱、今ここに晴らして」
「あの夜ってなんだ?」
「⁉」
不意に聞こえた声と共に振り向くと先の巨人の攻撃で潰れているはずの少年、天理到真がトイズの背後をとっていたのだ。
服にも傷や汚れは見えないことからも巨人の攻撃を喰らっていないことを証明している。
「巨人の攻撃を躱したでアリますか!?」
「いや、躱すも何もあの速度でどうやって当たれと言うんだ?」
異世界で様々な死線をくぐってきた到真からすればあの程度の速度は何にも脅威でもない。
確かに巨人の速さはバイクが突っ込んできたぐらいの速さしかなく、あの巨体であの速さだったら当たればダメージはあったのだろうが当たるほうが到真からすれば難しいものだ。
「やはり速度に関する異能でアリますか.......!ならば!」
トイズはスピード勝負は不利と見るや否やアスファルトで無数の人形を生み出した。
巨人が迫っていることからも数で足止めして巨人で潰す気だ。
しかし
「甘いな」
到真はむしろ無数の人形へと敢えて突っ込んで破壊していく。
異世界で到真のメイン武器はこの身体能力だ。
魔族の人体実験で、異世界最強の龍である龍神ザルトレアの力を得ている到真の身体は龍そのものに匹敵する。
その影響で到真の身体能力能力は生物の限界を超えており、その力は制御術式で封印されていてもなお無類の強さを発揮する。
そこに技術が加わることでより強さが段階を上げる。
体術から繰り出される力の暴嵐が人形を蹂躙していく。
拳で、掌底で、蹴りで、突進で
無数の攻撃は人形どもをあるべき姿へと返して迫る。
そんな光景にトイズはここまでの力の差に冷や汗が全身から滲み出る。
しかしトイズもAランク候補として名をあげる実力者だ。
そのプライドが彼を今の戦場へと留まらせる。
「ッなメルなァ!」
腹のそこから声を出して奮い立たせると人形へ命令を下す。
主の命令を受け取った人形は到真へと迫る。
どれも破壊されていくがそれこそが人形の目的だった。
「ッ............!」
迫ろうとした到真だったが足に違和感を覚えて振り返るとさっき砕いた人形の土が足にまとわりつき固定していた。
最も固定といっても到真の身体能力で余裕で動けるがその一瞬の隙に巨人は迫っていた。
「ブッツブスのである!!」
主の咆哮と共に巨人が到真を潰さんとその腕を振り上げる。
間に合わないと踏んだ到真は懐から小さな玉を取り出して地面へと叩きつけた。
すると煙が周りに充満して視界を灰色に染めた。




