第39話 プロローグ
こことは違う世界、異世界”エルドシア”に存在する北ゼフォード大陸の最大国家ゼルドース帝国の首都メルバルの中心にして荘厳な城の一室の書斎の窓から一人の女性が下の帝都の景色を見渡していた。
真っ赤な炎の如き輝く赤髪をストレートにのばし、外套は付けていないものの黒を基調として要所要所をリベットや金属板を組み込んでおり、更に様々な魔術的加工を施した軍服を着用している。他にも服はあるのだが今着ているのが一番安全性が高いので着ている。
顔は端正に整っているが、彼女の佇まいは一切の隙も無く対応できる状態であり、しかも無意識でできるのであるから彼女が歴戦の猛者である事を示している。
彼女の名はアリアス=ゼルドース
帝国の現皇帝にしてかつての魔族との戦争の最前線、人魔戦線の最前線の指揮官でもあった。
しかし今の外の景色を見ている彼女の顔には曇り模様が隠せてない。
理由の一つは机の上に置かれた多くの書類の束だ。
(父上は貴族との駆け引きに加えてこんな量の業務をこなしていたのですか.................)
父にして先代皇帝でもあったギガル=ゼルドースは魔王との最終決戦で連合軍側の総指揮を執った際に負った傷が原因で亡くなっている。
しかし帝国史上の名君と称された二つ名は伊達ではないのか自分の死を見越して様々な手を打っていった。
敵対するであろう貴族の対処、復興の優先順位、民衆への支援策など全てが完璧であり生きているのでは?と疑いたくなるほどタイミングが良いのだ。
そうした遺産もあるのだが連合軍の中枢にもなっていた帝国魔術師団の総帥の経験も相まって復興の終わりもすぐ目の前の................はずだった。
(被害者は一刻と増えている。幸いに敵対候補の貴族派の連中にも被害はあるがこちらの味方もやられている。総力を上げて調査しているのに一向に手掛かりすらもないなんて)
もし先代皇帝が生きていたら、どうしてもそのことが頭の片隅から離れずプレーシャーも相まって曇り具合は一向に増すばかりのその時だった。
「し、失礼いたします!」
アンティークな高級扉が力強く開かれるとともに部下が血相を変えて入ってきた。
本来ならば礼儀がなっていないのだが状況が予断を許さないことを部下の顔から察したアリアスは追求せずに話に移る。
「一体どうしたのですか」
「ロンゴン元少将がやられました!」
「ッ.....!遅かったか......!」
「実はもう一件ありまして...........!」
ロンゴン少将の人柄の良さと能力を理解していたアリアスは非想と悔やみで顔が歪むが事態はそんな暇も与えてくれない。
「RULERが動いています!」
その言葉の意味を知るアリアスは驚きのあまり机を強打した。
「ありません!!RULERの任務は私に裁定権があるはずですよ⁉」
「しかし実際に異世界航々術式が運用されています!」
その術式は王族が管理しているのでそれこそあり得ない、そうでかかったアリアスだったが一つの考えが湧くとともにアリアスを冷静にさせた。
(いる.......確かに動かせる者は私以外にいる!そういうことでしたか..........!)
衝撃も一周すると冷静にさせるのか
そう思いながらアリアスは置いてあった紅茶を一口飲んで切り替わっている。
うろたえていた先の反応とは違いその顔は私情なく事態を俯瞰している指揮官としての顔だ。
「......少し取り乱しました。誰が動いていますか?どんな指示で動いていますか?」
「あっ......ハイ!”龍夜叉”の排除で”餓狼”と”雷神”が動いています!」
「あの二人ですか...........確かに”雷神”は性格には難があれども異世界ではこの上ない適任者です。加えて”餓狼”の実力は魔術師団随一です。あの二人が相手では到真でも今の状態では少し危ういでしょう」
「ならすぐに使いでも送るべきです!彼を失えば我々は」
「既に準備は整っていますよ」
冷静に事態を分析するアリアスに対して部下は動揺して慌てふためいていたがアリアスの言葉が鎮圧する。
「こんな形で使いたくありませんでしたが”冥女皇”を派遣します。異世界側の被害が心配ですが我々が出向くよりよっぽど確実です。主を傷けることもないですし。それよりも”聖剛”と”玉界”を招集してください。相手がその気ならこっちも容赦なくやらせていただきます」
冷静に、しかし容赦のないアリアスの戦力指示にに冷や汗が出てしまうがたとえ相手が何であれ徹底的に慈悲なく対処する現役時代のアリアスを知っている部下にとっては下手な戦力よりも安心できるものはない。
けど
「大丈夫なのでしょうか.........?戦力を手薄にして陛下が狙われないとも限りませんが.......」
「大丈夫ですよ。その時は少しの間復帰するだけです」
どこか楽しみそうにかつて”炎帝”として暴れていたアリアスは立てかけてあった水色の刀身の西洋剣を腰にかけて動き出したのだった。
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