第38話 エピローグ
こことは違う世界、俗に異世界と呼ばれる世界”エルドシア”
この世界は4つの大陸で構成されており到真がいたのは北方の大陸でありながら温暖な気候などがある一方で豊富な自然由来の魔力による特殊かつ過酷な気候の地帯も存在している。
そんな大陸、北ゼフォード大陸の現在で唯一機能する国家であるゼルドース帝国は首都のメルバルを中心に魔族との戦争の後の復興に大いに力を入れている。
しかし光があれば当然迫る影もありー
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19世紀の街並みを思わせるメルバルの街並みはゼルドース帝国の中でもトップクラスに発達している。
普段なら昼間は復興の公共事業に営む労働者や商品を売ったりする商人などが多く通り喧騒が絶えないこの街だが今日のは少し違っており街角の一角に野次馬が集まっていた。
紺色を基調とした飾り付けの少ない質素な制服の警ら隊が野次馬をどかせようとするが、それでも隙間から見えるものの凄惨さをつぶやいていた。
「ひでぇ」
「誰の仕業だよ?」
「魔族か?」
しかしそんな喧騒も一人の到着した黒髪オールバックの痩せ肉の長身の警官が一瞬とはいえ放った鋭い雰囲気によって沈められた。
「皆さん、これは帝国治安維持隊の管轄です。早急に解決致しますので仕事等に戻ってください」
先程の鋭い気配とは比べものにならないほど優しい声だがその言葉に野次馬は散っていった。
そんな警官はやはり見ても痩せているがその目は狼のように鋭く睨まれた犯罪者で逃れる者はいないだろう。事実その警官の優秀な成績、そして高い戦闘能力から実際に狼に例える者は多い。
そんな彼を迎えたのは同じく黒髪普通の男性憲兵だった。
「アスライ=フォート一等兵只今到着しました。」
「ローブ=アスル上等兵只今確認しました。」
「ローブ上等兵、詳細な説明を」
互いに敬礼ののちアスライと呼ばれるオールバックの憲兵にローブは説明を始める。
「被害者はロンゴン事務次官、帝国の財務省の事務次官を勤めていたです。彼は魔族戦線においては少将として活躍したのち3年前の防衛戦で右脚を失い、そののちに財務勤務でした。」
「ロンゴン少将とは面識があるが彼は良識のある人間でした。今回の件は実に不憫です。」
「私もです............おっと、話がそれました。彼は帝国の郊外にある住宅に住んでいました。家族もともに引っ越しており彼らについてはアリバイは取れています。」
移動しながら説明を聞いていたアスライは現場に到着すると覆いかぶさっていたブルーシートのような布を取った。
現れたのは胴を両断された少し顎の出ている40代後半くらいの男性だった。
乗っていたであろう馬車は倒れた時にできたであろう傷しかないが、引いていた馬と業者らしき男も同じく両断されていた。
既に固まっているが彼らの血によって地面は、真っ赤の大きな水たまりのようになっており勢い良く切ったのだろうか、飛び散った血の痕跡が壁まで付いていた。
アスライは付けていた手袋を別のものに付け替えて断面を確かめながら質問した。
「ロンゴン氏は馬車で帰る途中に襲撃されたとみても?」
「間違いないでしょう、実際にロンゴン氏が仕事が終わり帰るところを財務省の受付が目撃していました。業者についても財務省と契約している組合からのなので間違いないかと。遺体の魔力の痕跡から魔術を発動する前に瞬殺されたものかと」
こうした馬車の利用などはルートが決められているのである程度は襲撃のタイミングは予測できる。
しかしロンゴンはかつては軍人として活躍していた。少将クラスともなればそんじょそこらの相手に遅れを、それも一瞬でやられるだろうか?
「相手はナイフ使い、もしくは斬撃系の攻撃を得意としていますね。断面もここまできれいとなると魔術で切断したか、どちらにせよ相応の腕が立つのは間違いありません」
自分が呼ばれたのも納得だ。
分析するアスライにローブは恐る恐る話しかけた内容は衝撃のものだった。
「実はあるマークが現場にありまして........」
「あるマーク?」
「貴方がここに来る前の上司の指示で消しましたが......こちらです」
そうして転写機と呼ばれるカメラのような魔道具で取られた写真にアラヴェルは自分が呼ばれた意味を本当の意味で理解した。
そこに映っていたのは太陽の紋様を喰らう人の口が描かれていたからだ。
(太陽、それもこの形は帝国、いや連合軍の旗印。それを喰らう、すなわち俺たちへの挑戦か.........わざわざそちらから手掛かりをくれるのか)
売られた喧嘩に嘗て多くの外道を喰らってきた自分の血がうずくのを内心で抑える。
そんな時だった。
「アスライ一等兵!アスライ一等兵はおられるか!」
自分を呼ぶ声に切り替えて声の主へと向かう。
やがて声の主はアスライを見つけると一つの封筒を渡した。
そこには帝国軍の封がされておりこれを偽造なんてしたら重罪確定の代物でわざわざ届けられた。
封を切り捨て中身を誰にも見られないようにして素早く見たアスライだったがその内容はふざけていた。それでも軍人としての精神で自分の中へ押し込める。
「ローブ上等兵すまないが私は別件で動かなくてはならない。現場は任せてもらう。何か分かれば報告を頼む。あとすまないが青く短く切りそろえた髪型の眼帯女は見なかったか?」
「わかりました。自分はこのまま調べを進めます。あとその女でしたらさっきの西区へ向かいましたよ」
ローブに現場を任せて西区へ向かうアスライだったがすぐに探し人は見つかった。
パン屋の前でチンピラらしい男どもがぶっ倒れて山のようになっていたすぐそばだった。
「何しているリィ?」
さっきの優しめな姿勢を微塵にも感じない冷静な声で話しかける。
リィと呼ばれた青髪を肩口で切りそろえた、アスライよりはるかに小柄で眼帯を左目につけ、コートを羽織っていない軍服姿、顔は人形みたく
無機質じみた女は呼ばれる声とともに振り向いた。
その口にはさっきの店で買ったであろうパンが捕らわれている。
「何ってボッコッた。この人たちが私のパンを取ろうとしたから」
「殺してはいないだろうな」
「大丈夫。一日麻痺しているだけ」
リィはそういうが明らかに男たちは泡を吹いており絶対その程度で済ませてない。
しかし今そんなことで時間を無駄にするわけにもいかないので無視する。
「任務だ。俺とお前で「ヤダ」......話は最後まで聞け」
「めんどくさい。前のやつは歯応え無かった。」
「ターゲットが”龍夜叉”としてもか」
その場を去ろうとしていたリィだったがその言葉が振り返らせる。
その顔は探し求めていたものを見つけた子供だ。
「アイツ.......生きていたの?」
「そうらしい。俺たちに何も言わず去っていったくせにな」
「へぇ.......」
不敵な笑みを作ったその瞬間リィの体がパチッと音を鳴らす。長年の付き合いからわかる。これは獲物を狩るときの前兆だ。
「言っておくが異世界に行くんだ。間違ってもトラブル起こすなよ」
「なら貴方が止めればいい。無理矢理でも」
「言われなくてもそうするさ。なら準備しておけ、到真には言いたいことが山ほどある」
二人の猟獣はこうして龍の元へと動き出したのだった。
次から二章に入ります。
話がダラダラ続いていると思っているかもしれないでしょう、本当にすみません!
あとここから更新頻度格段に下がります。
既に、更新は不定期ですが 一応は土日を考えていますがすいません!
これからもよろしくお願いします!!!!




