第35話 龍夜叉⑩
まさかの龍夜叉が実は到真だったことに猫神は今日何度目になるかの驚愕をしていた。
ただものではないと感じてはいたが予想の斜め上を超えていたのだ。
そんな中到真は少し申し訳なさそうに振り向いて
「悪い隠すつもりはないと言えば嘘にはなるがあまり触れたくなかったんだ」
「いや、お主が悪いわけではないが少し衝撃だったからだ。して奴を完封しているのは一体何なんだ?」
猫神の言う通り魔族が龍へと変貌してから到真の言葉だけで動きと言葉を封じている光景は異世界のことを詳しくは知らない猫神にとってわけがわからない。
到真は少し考えると
「わかり易く言うと俺の半分は”龍神”ザルトレア、全ての龍の祖先なんだ。俺のいた異世界において龍は眷属のようなものだ。だから俺の言葉は龍の因子を持っていたらそれには逆らえないわけだ。」
「お主元々人ではなかったのか」
「いや人間だったよ。魔族が俺をいじくって半人半龍にしただけだ。」
「ならなぜこやつは龍神とやらを取り込まなかったのだ?」
「いじくったと言ってもこいつからしたら遥か上の奴らがやってたからこいつの実力と権限では古龍の細胞の一部を入手するのが限界だっただけだろ」
かんたんな説明を済ませると到真の目線はかつて魔族だった龍へと向けられる。
その視線は先の飄々としている雰囲気が噓だと思えるくらい冷酷に無慈悲な漆黒のものだった。
「そろそろこいつの落とし前つけるか」
死
自分の末路が想像できてしまった魔族だったが懇願しようにも声は出ずに抗おうとも身体は動かない。
今まで様々な他種族の死を見てきた。無残なものもみた。プライドが高い者たちも死が目前に迫りその大半が無様に懇願してきたは実に爽快だった。見世物としては最高だった。むしろ魔族の興となったことを名誉に思って欲しいぐらいだった。
しかしそれが今、自分へと迫っているのだ。
(嫌だ..........!)
何故自分がこんな目に合うのか。
「てめえは多くの命を自分の欲求のためだけに使い潰した」
到真が近づく。
死が迫る。
死神の足音が迫る。
(来るな..........!)
「全く無関係で、幸せに生きていいはずの人を弄んだ」
まだ死にたくない。
自分は魔族だ。
選ばれた存在だ。
神へと至るべき存在だ。
「お前にはただ殺すのでは報われない」
今まで自分を見下してきた奴らを見返せてない。
こんな所で自分が死んでいいはずがない。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてーーーーー
「今から使う魔術は魔力を多く消耗するが今お前を殺すに最適だ、喜べよ魔術で倒されるんだから」
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろーーーーーー
「【■■■■■■■■■】」
人間には言語化出来ない詠唱が唱えられた瞬間だった。
現れたのは龍もを上回る大きさの門だった。
漆黒を基調として禍々しい装飾や絵柄が彫られていた。絵柄は無数の苦悶で満ちた顔が彫られていて今もなお怨念に満ちている。装飾も黒の角や骨らしきもので装飾されていてわかるのはこの扉の先には決して安楽が無いという確信だった。
そんな地獄の門がギギギと重厚な音と共にゆっくり開く。
門の内側の闇の中から無数の黒い手が魔族だった龍を掴んだ。
必死に振りほどこうとするがどれも透過し空ぶってしまうが手の方は確実に掴んで引きずり込む。
龍魔言語による龍の特性の魔術も使えずただ虚しく引きずり込まれる。
そうして完全に引きずり込んだ門が閉じると共に存在は現世に永遠に戻ることはなかった。
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一連の光景を見届けた後に結界を解いた猫神の口から零れる。
「終わったな.........」
「全部がそうでないが少なくとも雷崎家についてはな」
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少し補足しますと、到真が最後に放った魔術はそれこと龍魔言語の魔術です。術式で力を封じていても一応は使えなくもないので使った感じですね。




