第34話 龍夜叉⑨
大きさは4メートルくらいであったが、体を覆っている龍鱗は青色なのだが岩石の如くごつごつしている。
姿はまるで竜人ともいうべきか二足歩行なのだが、背中には大きな翼が付いておりその気になれば空も飛べるはずだろう。
四肢のの太さも人間の何十倍も太くそのすべてが引き締まっており一切の無駄がない。
頭にある角も蜷局を巻いてその屈強さを示している。
牙、顔、姿どれをとってもまさに我々が思い浮かべる龍そのものだ。
龍へと変貌した魔族は自身の姿をみて先のように優位性に酔いしれていた。
「どうだ絶望で声が出ないだろう。そうだ、そうだとも。龍夜叉はかつて龍の力をもって魔族を蹂躙した。ならば我もとその力を取り込んだのだ。猫神や他の妖を欲したのは同様に他の魔物の力を持った従順な配下を作りたかったのだが今はいい。この力をもって私は神へと至るのだぁ!」
ハッタリだ。
そう思いたい猫神だったが溢れ出る魔力とプレッシャーがその言葉に偽りがない事を否応なしに突きつける。
怪我を負った今の自分では勝てないだろう。
ならば
「到真よく聞け、我が時間を稼ぐその隙に......ッって聞いてるのか......!?」
逃がそうとする猫神だったが鼻をほじってぶっちゃけ到真の危機感のない態度に焦る様子を魔族は鼻で笑うのだった。
「無駄だよ。そいつは力の差に絶望して」
「うん驚いているよ。お前のアホさに」
「.........ほう」
更に逆撫でするような態度に一瞬顔に青筋が走ったが無知故なのだろうとして続ける。
「わかっていないようだが取り込んだのは古龍だぞ?ただの龍と違い長い年月を経た魔力、地の力、全てが比較にならないのだよ。加えて龍だけの魔術である龍魔言語も使えて」
「【お前ちょっと黙れ】」
「何言って...........................ッ!?」
自らの力量を教えてやろうとしゃっべている途中なのに到真がただしゃっべた瞬間声が出せない。
いやそんなものではない。
声という概念が抜けて完結した、言葉にすればそんな事態に襲われた。
知識としてはあるのに喋るということができない。声帯が機能を失いただ唸ることしかできなくなったのだ。
(どういうことだ!?魔力耐性もあるのだぞ!?)
理屈はわからない。
確実なのはこの男が何かしたということだけ。
(ならば真っ先につぶすだけだ!)
魔術の基本として術者が死ねばかけた術も解除される。
呪術や特殊条件の魔術は例外もあるが高度な術の場合よっぽどその条件が厳しく設定しないとそんな芸当はできない。
古龍の魔力耐性は最上級のはずだから魔術によるものであれば殺せば解決するはずだ。
そうして龍の物理的な力で潰そうとした時だった。
「【動くな】」
その瞬間にも再び身体がその言葉に従ってしまう。
何かで固定された様に体が溶接されたごとく一切動かなくなったのだ。
先の声を奪ったのは最上位の魔術と判断し、連発できないだろうと判断したが故なのだが一方の到真には消耗は一切ない。
そんな魔族に到真はただ冷酷に真相を告げる。
「確かに龍は異世界では最強格の生物だ。魔力、力、魔術全て優っているかもな。ただたかが古龍程度の力が龍夜叉の力と判断したのが最大の敗因だ。魔王なんざ古龍の遥か上の強さだし古龍程度何ぞ屠れる化け物なんざごまんといる。」
そして、と前置きして
「お前も魔術師の端くれなら知っているはずだ。かつて君臨していた神に等しい魔物、”三界獣”をな」
三界獣
その名を聞いて魔族は一つの確信を得た。
三界獣とはエルドシアに伝わる神話の魔物だ。
その魔物が動けば空は荒れ、大地は変動を起こし、海は悲鳴を上げたという。
その一方で機嫌がよくあればその魔力は意図せずにそこに住まう生命に祝福を与えその土地は何千年立っても豊かなままというまさに神に等しい存在である。
その三体の魔物は最後は戦い死んだという伝説があるが様々な痕跡から実在は証明されている存在
その魔物は森羅万象それぞれをすべた力を持っておりそれ由来神の名前を持つ。
海を統べ荒らすものを沈める”海神”オルアレアス
その剛腕を持って全てを砕き粉砕する”鬼神”アラハバキ
全ての龍の頂点であり始祖ともされる文字通り全てを支配する”龍神”
(ザル.......トレア..........!まさか........)
「そうだよ。”龍夜叉”は俺の二つ名、そして俺の半身は”龍神”ザルトレアだからだよ」




