第33話 龍夜叉⑧
「よっと」
軽快な言葉で鉄格子を飴細工のように曲げているワイシャツと学ランズボンの高校生、天理到真
その周りは服を破かれ半裸気味になっている金髪美少女の雷崎鳴
そして鉄格子から今助け出された五大家の一角の本尊である金と銀のメッシュが入ったライオンじみた姿の猫神
他にもボロボロの姿で横たわっている2名(うち一人は魔族)という本来なら有り得ない光景が杉並区の屋敷の地下で今存在していた。
「さてどこから話したら」
「「全部」」
「デスヨネー」
ただでさえ異世界とか魔族とか鳴の母の鳴海のこととかぶっ飛びすぎたことが立て続けに起きすぎて既に一匹と一人の頭の中はオバーフローなのだ。
こればかりはしょうがないと到真は咳払いして続けた。
「そこの青色ボロ雑巾の言う通り異世界は実在している。そして俺も7年前に召喚された。そして5年間異世界で戦って2年前に帰還した。以上」
「ザックリし過ぎ...........でもそれって」
「そうだよ。あのバス事故が実は魔族の召喚術式のせいによるものだ。」
事実は時として小説より奇なりなんというがこうも目撃したことで空想としては一蹴できないでいた。
鳴の頭が依然として処理落ち中で猫神は問いかけた。
「お主のことはいつかでいい。今知りたいのは奴らとの関係なのだが何か知らんか?」
そう、今ついさっきまで魔族と雷神家が共謀して何かする直前だったのだ。
到真の乱入で阻止したとはいえこんなもので全て解決したとは言いづらい。
「さあな、俺からすれば俺以外に異世界の奴らが存在していたことすら知らなかったんだ。だが少なくとも《《黒幕》》はいるはずだ」
「なら奴が言っていた”上司”とやらが怪しいな」
「”上司”?」
思い当たりがある猫神に疑問な到真に猫神は乱入前の魔族の語ったことを正確に伝えた。
「なるほど。確かにその”上司”とやらが怪しいな。あの程度の魔族が世界間をそうそう行き来できるはずがないから疑問だったがその”上司”とやらが手引きしたとなれば辻褄は合うな」
「”計画”とやらも知る必要があるな」
「多分私のことを指すと思う」
”計画”について思案していた二人に何とか隠せる所は隠してきた鳴が意見した。
その顔は先と違い目元も少し明るく涙も収まっている。
ようやく現実を受け入れられて来たようだ。
「私はどうやら”計画”のために造られたらしいの。私を媒介にするものだと思う」
「鳴、お主」
「いいの猫神様」
出自をためらいなく話した鳴に猫神は一旦止めようとするがそれも遮られた。
「全部無駄になったからね。別に到真君が悪いわけじゃないの。ただな~んにもどうでもよくなっただけだから。だから気にしなくていい」
目的は達成した。
しかし最悪として終わった。
雷崎家も今回の一件でもう終わりでもある。
鳴の精神は悪い方向で吹っ切れてしまってい自暴自棄へとなっていた。
そんな鳴を見て到真はため息をついて一言
「鳴、少し歯食いしばれ」
「えんギャ!?」
到真の拳骨が鳴の頭に落とされたのだ。
いきなりの衝撃に頭がクラクラして涙目に戻りかける。
「あのな、少し落ち着け」
「落ち着くも何も......」
「自暴自棄になるのはいつでもできるがお前の母親は何のために助けたんだ」
「でも............」
いまだぐずる鳴の胸倉を到真は少し乱暴めにつかみ
「造られたから?母親が既にいないから?そんなのただの事実だ。もう自分は生きていても意味ない?ふざけるな!てめえの母親は何の為に自ら差し出した!?生きて欲しかったからだろ!もしあのジジイ共と同類だったらわざわざ生贄になんか立候補しねえだろ!?愛情があったから!生きて欲しかったからわざわざ余生捨てててめぇを生かしたんだろ!?だってのにただの犠牲者ですませるきかお前は!?お前にとってそんなものじゃないだろ!!」
「落ち着け到真!」
到真の心の底からの荒声に猫神は静止をかける。
それによって少し頭が冷えたのか、到真は掴んでいた手を話した。
だがその後は先の怒号からは想像できない程かすれて出たものだった。
「死んじまったら無意味なんだよ...........例え相手がどれ程思っていてもな..........」
後悔と懺悔が満ちた底からの掠り声と自身の握力で血が滲む拳から鳴にも、猫神にもその言葉が心の叫びであると同時に異世界でどれ程残酷な世界を歩んできたか薄っすら察してしまった。
「生きていいの............?」
本気の叫びにどこかすがるような叫びで鳴は問う。
「私でも生きて.........」
「いいんだよ。お前が何であれ生きていけない理由じゃないだろ」
その言葉で鳴の心の抑えが消えたのを鳴はこの時実感した。
味方だった母が消えての3年間ずっと自分を押し殺してきた鳴にとって初めて自分の全てを認めてくれた人間がいてくれた。
今この瞬間存在を認めてくれた。
そして鳴は心のそこで泣き叫んだ。その感情の間欠泉はとどまることを知らず杉並区の地下を響かせた。
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そうした間欠泉にも限界はあったのかしばらくすると尽きた。
涙と体力も出してしまったのか鳴は絶賛猫神の背中の上で爆睡していた。
猫神も今は鳴を起こさないようにそっとしている。
その様子に到真どこかほっとしたのか緊張が自分の中から抜けていくのを感じていたがどこか突っかかりがどうしても抜けなかった。
(結局”計画”とは一体何なんだ?)
猫神の話では鳴を媒介として異世界の技術と陰陽師の血肉を合わせるらしい。
(異世界の技術は魔術で間違いない。俺の特魔術、一から作った魔術が通用したんだ。間違いはない)
ならば先の意味は魔術と陰陽師の血肉を合わせると取れる。
(ヒントがあるとしたら血肉だよな。何か肉体に細工をして)
その瞬間全てが繋がると同時に衰えた自分の勘を祟った。
そして再び腹の底から叫ぶ。
「猫神ーーー!!最大強度で結界でもいいから守りを固めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ-------------------!!!!!!!!」
鬼気迫る声に反射的に周りを結界で覆った瞬間だった。
無数の光の束が穴から落ちてきたと思いきや倒れた魔族に集い覆ったのだ。
幸い間一髪で結界を張ったから到真たちは無事だが倒れていた茂雄からも同様の光が放出されて茂雄は暫くしてカラカラなミイラと同類となってしまった。
その光景に猫神ですら動揺を隠せないでいた。
「何が起こっておる..?」
「これが”計画”だろうよ」
到真が光をにらみながら答える
「あの野郎恐らく雷崎家すら、いやこの東京中の人間を生贄として魂を取り込むつもりだった。あの光は多分今上でぶっ倒れている雷崎邸にいる全ての人間の魂を魔力として取り込んでいやがる。わざわざ術式を組んだのは東京中を術の範囲にするため、術式自体は雷崎家の体内に埋め込まれていた魔刻蟲で起動させているだろうな。」
「そんなことが.....」
「確かにデタラメだ。けど俺やあいつが使っていた魔術において魂は重要な要素だ。ましてや人間一人の魂ですらエネルギーとしてはこの上なく特上らしい、それで強くなって世界でも統べる気だったかもな」
「ここまで見抜くと賞賛ものだな天理到真」
賛美と共に魔族が立ち上がったが先ほどのダメージはみるみるうちに回復している。
「だが完全正解ではない。運用するのは間違いないがこれは安定のためだ」
「安定?」
「そうだ。お前は強い、人にしてはな。だがそれでもお前たちの運命は変わらない。そこの小娘を除いた雷崎家全てのの魂だが貴様らを葬るのには問題はない。今から相手になるのは存在の格が違うかな」
その言葉を最後に光が強くなりやがて止んだと思ったら、現れたのは一匹の龍だった。




