第30話 龍夜叉⑤
遡ること数分前
ドガッ!と拳で殴った音が雷崎邸に共に響くとともに青年と思しき男がうめき声と共に腹をうずめて倒れた。
倒れた男の周りには数多に及ぶ人物が同様に倒れて意識を失っておりその中には選定戦で勝者だった蕾や精鋭部隊の”雷豪”のメンバーである磁々、武の姿もあり雷崎家の総力に等しい戦力が倒れていた。
ただ唯一立っているこの事態の張本人でもある白髪の少年は天理到真なのだが一切息を切らしていない。
その上服にも目立った傷もないことがこの少年の実力を際立たせている。
「存外時間がかかったな」
こう言っているが到真にとっても雷崎邸の中心の大広間で起こった一戦は不本意なものだった。
使い魔の情報と雷崎家からの襲撃に加えて荒らさせた自宅の痕跡から雷崎家と魔族が関わっていると確信した到真は異世界で培った技術を駆使して潜入したのだった。
帰り道で襲撃してきた雷崎ククリとその手下と思しき者どもは瞬殺したが、手下の方は既に廃人人形と化していたので、指揮者であるククリを尋問しようとしようとした途端に予め仕掛けられたと思しき呪印がククリを呪殺したので、方向性を変えて一人一人無力化して呪印解除していったが、その道中で”雷豪”の一人と思しき人物も無力化したが、その瞬間に影響力のある人物たちも揃った何やら祝儀礼らしきものをやっていた大広間に飛ばされて戦闘へと発展した。
圧倒的な実力差に逃げ出そうとした者もいたが皆仲良く柱に縛り付けられて気絶している。
「何か知っていると思ったんだが目ぼしいのはなかったな。あのスーツが言っていた”計画”とやらが関係ありそうだが聞けそうにないからな~」
スーツの男、到真は知らないが武が仲間と思しきものと小声で話していた”計画”とやらがありそうだが本人は気絶してしまっている。
(本音を言えば部外者の俺がここまででしゃばるべきではないんだろうけど.............)
ふと脳裏に浮かぶは選定戦後の鳴の様子だった。
あの時の鳴の態度から考えて首を突っ込むべきではない。
だが
(あのような態度は俺自身もよく知っているからかねぇ)
自分を犠牲にしてでも周りを危険にさらしたくないが故の突き放す態度。
異世界でも大切なものを多く失ってこれ以上失いたくないと心を殺して、敵を殺して、その果てに残ったのは血塗られた過去と異名であった到真からすればどうしてもこの件を割り切ることが出来なかった。
偽善と呼ぶ人もいるだろう。
自己満足と評するだろう。
だが何のために刃を振るった。
何のために敵を殺した。
何のために外道な手段にも手を出した。
何のためにすがりついた理想を心から完全に捨て切れなかった。
「”暁の勇者”..........だよな」
異世界の童話でだが昔の人々を苦しめていた魔神に抗い過酷な戦いの果てに世界を救った英雄。
偶然知っただけだが憧れて走ってきた道のりはどうしても今も到真の心のどこかでくすぶっている。
もし原点回帰していいなら
もし夢見ていいなら
もし目指していいのなら
もし歩んでいいのなら
今なすべきことは一つしかない。
「先ずは悲劇のヒロインを助けますか」
そうして改めて転がっている死屍累々共を改めて無力化したのちに探索した到真だったが手がかり無しに進展があるわけでもなく結局元の位置へと戻っておりーーーーー
「ドコにあるんじゃぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁ!」
ドガガガガ!(床を地団駄踏む音)
ピシッ(ひびらしきものが走った音)
「え?」(困惑)
ズガァァァァッァァァァッァァァァーーーーーーーン!!!!!(到真がいたところが陥没)
ーーーーーーーーーそして今に至る。