第28話 龍夜叉③
途中若干鬱な展開があります。注意してください。
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鳴は一瞬自分の耳を疑った。
異世界、確かにそう聞こえたからだ。
「異世界.....?そんなものが実在とでもいうの?」
「実在の何も貴様の存在が証明しているのだが..........いいだろう、まだ時間もあるわけだし教えてやろう」
魔族のさらなる発言に困惑する鳴だったが魔族の男は講義するかのように語った。
「我はお前たちがいう”異世界”から来た存在だ。この世界の人間は実に吟遊詩人じみている。自らの頭の中で異世界など想像しているのだからな。しかもそれが中らずと雖も遠からずなところもまた滑稽だな。貴様らは異世界が存在しないとしているが、その逆もしかり誰が存在しないと証明したのだ?ただ見えていないだけでないと断定するのがお前たち人間の欠点だな。」
妖や超常現象を信じるくせにな、そう嘲笑いつつ話は続いた。
「我が元々いた世界は実に優れ素晴らしい世界だった。だが魔族《我ら》の祖先は実に愚かでもあった。優れた魔力、優れた肉体、人の倍は生きる寿命、どれも他の種族より優れた存在であったにもかかわらずその力をたった僅かな山奥の狩場を巡って同種族どうしで殺し合いするしか頭になかったのだ。」
だが!と大きく身振り手振り加えてさながら劇場の役者のように魔族は語る、まさしく魔族劇場だ。
「今から約200年前のことだ。偉大なる初代魔王様はまだ見ぬ大地が、栄光が外にあることを知った! だがそこにはどうしてもあってはならないものがあった! そう、脆弱なる人間や獣人といった多種族がそこにいたことだ! われらよりも脆弱にも拘わらず我が物顔でそこに住み着いていたのだ、さながら寄生虫のように!そこで魔王様は聖戦をした! その大地を、世界を手にするべきなのは我々魔族だ!だがあろうことに奴らは醜く抵抗した! 『自分たちの土地を守る』などふざけたことを抜かしてな! しかし所詮は脆弱な者共の集まり、我らの勝利は揺るがない........................................................................はずだった。」
最後の言葉とともに魔族の男の顔は憤怒と屈辱に満ちた顔となり羅刹のようで先の冷静な顔立ちからは全く想像できなかった。
「奴が、”龍夜叉”さえいなければ魔族の勝利はゆるがなかったのだ!!!!」
「りゅ........龍夜叉」
「そう”龍夜叉”だ!! 奴のせいで魔族《我ら》は絶滅の危機へと追いやられた!! 数多の同胞が奴によって殺された! ふざけるな! 魔族こそ至高にして絶対の種族! 奴は我らの未来への宝である子孫すら殺した! 人間や他種族のガキなんぞただの魔力塊にすぎん! だが! 至高の血を継ぐ魔族の子供たちまでも殺し、遂には当代の魔王様までも殺した! そうして魔族は落ちぶれられたのだ!!」
一見すれば魔族が悪いように言っているが要するに魔族《自分たち》よりもいいものを持っているがために攻め込んだ挙句返り討ちに合えばさも被害者ぶっているだけだ。
だが、あまりの憤怒と屈辱で握り拳が自身の握力で血に染まっている魔族の男は一段落したのか呼吸を整えると次へと移った。
「我がここにいるのは上司のツテでもいうべきか逃亡先に紹介されてここの管理をしていたというわけだ。」
「ならば雷崎家は元よりお主たちの手に落ちていたということか........」
「言い方は気に入らんがあっているな」
黒猫の答えに肩をすくめつつも応える魔族をよそに雷崎家は既に傀儡である事実を鳴は受け止めきれずにいた。
陰陽師は力なき者の為に、その志はとうに崩れてしまいただ茫然するしかない。
だが魔族の語りが鳴を更なる絶望へと叩き落とす。
「貴様、母親の行方を掴もうとしているな」
「どうしてそれを...........!?」
「記憶を覗いたのだ。わからんほうがおかしいだろ」
一族で冷遇される鳴の唯一の見方で会った鳴の母である鳴海、彼女は3年前に行方不明となっておりその消息を掴むがために鳴はこの為に死に物狂いでやってきたのだ。
「貴様の母は我の存在に気付いていた。そして貴様の正体もな。見捨てていれば自分は助かったのに奴はわざわざここに残った。貴様のためだったのに無駄に終わったがな」
「何を言って」
「これが答えだ」
そうして魔族の男の指を鳴らすと全く変化のなかった樹木の表皮が崩れ落ちた。
そこに現れたのは鳴にそっくりの女性だが腰から下は樹木と一体化しており両腕も同様にひじから先が一体化している。
眠っているようだが一切の生気を感じなくY字型に樹木と同化させられていた。
その顔を鳴は疑いもなく母のものだと確信して、同時に受け入れることはできないでいた。
「噓ッ..........母............さん..............」
「待ち焦がれた母との再会だぞ。存分に味わえ」
残酷な再会をしてしまった鳴を魔族の男は依然としていた。
命を弄ぶ所業に遂に黒猫は吠えた。
「貴様は何がしたい!ここまで弄びおって!」
「さもあのお方が殺したようにいうが猫神よ、鳴の存在が鳴海を殺したのだ」
「鳴は無関係ではあろう!」
「いや、シゲオの言う通りだぞ猫神とやら。何せ鳴はこの計画の為に造られた存在なのだからな」
魔族の発言は茂雄を除く一同に驚愕を与えた。鳴自身もその意味についてわからなかったがその答えもすぐに語られた。
「今我らがやろうとしている計画には一つ問題があった。魔力だよ。儀式の準備、贄など全ては3年前の時点で完成していた。だが発動に必要な魔力はそうはいかなかった。大地を流れる魔力を利用としたがどうも質が合わないらしい。術式の為に魔力を変質させる必要があったのだ。もっともそのことは16年前にはわかっていたのか前任者はある存在を作っていた。計画の元となったものは我がここにつく前にあったのだ。どうもこの計画は破棄されたものだったらしい。そこで私が直々に整えて、そしてその存在はある女術師の娘を魂の改造して母にも、本人にも気づかれずに胎児の段階で受けて造られた。それが貴様なのだよ雷崎鳴。




