第21話 動き出す雷崎家①
選定戦が終わった日の朝の事だった。
いつも通りの通学路でいつも通りの校門の前の道を到真が歩いていたが一つ違うものがあった。
(あれ誰...?)
校門の近くに止まっている車から女性と思しき人物が通学している学生たちを一人一人凝視していた。
尾行や監視のような感じだが明らかに素人によるもので通りがかった同じ学校の生徒も気づいているが無視を決め込んでそそくさと学校に入っていった。
到真も気づかないふりをして入ったがその車は依然としてその場にとどまり続けていた。
学校に入りロッカーを開けると小さな紙切れがあった。
もし手紙であればラブコメのテンプレの如くなっていただろうがそれにしては明らかに小さく書かれていた内容も最小限のものだった。
昼休み 図書室
誰が書いたか判らないが特に問題ないので行くことにした。
ちなみにこれを遠目で目撃したモテない男子生徒が衝撃で真っ白になっていたのは別の話。
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昼休みにもなり図書室へと向かった到真
だが待ち人と思しき人物はおらず来るまでラノベを読んで待っていた時だった。
「そのまま読むふりをしてきいて」
待ち人と思われる声がしたので指示に従いつつ正体を小声で話しかける。
「何してんだ鳴」
「ごめん、あまり周りにばれたくなかったから」
「選定戦とやらで何かあったのか?」
「正確にはその後ね」
本棚越しに背中合わせで話す二人、そこの声は小声かつ二人の真剣に本を読んでいるであろう空気から誰も聞き耳をたてる者はいない。
「由香里というクソな従姉妹がいるんだけど私が一位になったことで不正だ、ズルだうるさくてね。私の成長の秘密を探ろうとしているの。
朝のあの車にいた女性がそうよ。」
既に校門近くにいた車は通報を受けた警察の手で追い返されているがあの時感じた視線は執念深いものであり一度追い払ったぐらいでは決して諦めないことを察していた。
「到真君ならあの程度瞬殺だろうけどあの女下手したら周りに危害を加えてもおかしくないから少しばかり大人しくしようと思って今回こうしたの」
「それについては構わんがどうするんだ?選定戦がまだ勝ち確定が決まったわけじゃないんだろう」
到真にとっては由香里とやらがどんな手段に出ようと鳴に選定戦に勝利してもらいたい。
例え今回が上手くいっても次回が有効とは限らないのでなるべく強く仕上げたい。
当然そんな意図も鳴は薄々察しているのでただこの話題を切り上げたのではない。
「そのために少し貴方の髪の毛を頂けるかしら?」
「髪?」
「そう、髪」
「呪うつもりか?」
「違うわよ、鍛錬は続けど貴方と大々的に接するわけにはいかないからその為よ」
鳴の言葉に疑問が顔に出た到真だったが意味が判らないが言葉には噓はないので髪の毛一本を抜き彼女に振り向かずに渡す。
そうして髪を鳴は受け取ってある封筒を渡した。
「言われていた前金よ、二十はあるから」
そう告げて鳴は図書室を出て到真もコッソリアイテムボックスに封筒を入れて昼休みの終わりまで図書室に居残ったのだった。




