第17話 到真、陰陽師を鍛えるってよ③
鳴の倒れている地面には少しばかりひび割れが入っていたが一時的な身体の痺れで収まっていたのは彼女が術師としてある程度に体を鍛えていたおかげだろう。
そんなことを考えていると突然頬に冷たい感触が現れた。隣にいた到真がスクラップ場の近くにあった自販機で買った冷えたスポドリを鳴の頬に触れさせたからだ。
到真の手からスポドリを奪いつつ痺れた体を起こして今回の手合わせの目的である戦力確認の結果確認へと移った。
「で、どうだった私の戦力は」
「うん、確かに落ちこぼれと言われてもおかしくなかった。」
直球すぎる到真のコメントにムスッとしつつも事実なのでこらえる。そんな彼女を気にせずに到真は淡々と語った。
「確かに落ちこぼれだが同時に才能の塊でもある。」
「それ、ご機嫌取りなの?」
「違う。適正があってなかっただけだ。」
「適正?」
術以外の適正があると言われたが陰陽術以外の超常技術を知らない彼女からしたら思い浮かぶものはない。
「それって経営者とかになれってこと?」
「話は最後まで聞け。今まで鳴が使っていた陰陽術が鳴にあってなかっただけだったんだよ。武術の達人がF1カーの運転をしていたようなものだ。俺の使っている術の方に適正があるんだよ。」
「貴方一体.........」
「それは追及しない約束のはずだが?でどうする、教えはするが受けるかどうかはお前次第だ。」
実際鳴は血のにじむ努力をしたが陰陽術の方は打ち止めを感じていた。このまま固執しても当主にはなれないだろう。ならばとる道は決まっている。
「お願いします。到真君」
迷いはない。自分のためになのだから。その返事に当真は待ってましたと言わんばかりに次の爆弾発言をした。
「よし、そうと決まったら今着ている服全部脱げ」
「は?」
さっきの王道的シーンをぶち壊す発言に鳴の口調がいぶかしくなった。
しかし到真は止まらない。
「いや、普通に全裸になれといったんだが」
「何処をどうしたら全裸になることになるのよ!!」
「セクハラするわけじゃねえよ。安全に基本を覚えるためだ」
「ど・こ・を・ど・う・し・た・ら・そ・う・な・る・の!!」
「うるさいな~。強くなりたいんだろ」
「そうだけど.......ッテ、チョット!?。何脱がせようとしてん!?分かった!脱ぐ!脱ぐから!!だからその手を離して~~!!!」
脱がせようとする到真に涙目で抵抗する鳴。夕暮れの杉並区に女子高生の悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか.............。
ーーーーーーーーーー
「もうお嫁に行けない............」
必死の抵抗の末自分で今着ている服を脱いだ鳴、人払いが張ってあり民衆にばれることはないとはいえその顔は涙と不憫で見ていた。いと哀れなり。
ちなみに元凶な到真は後ろで目を閉じていた。
「終わった~?」
「終わったけど!、振り向いたらコロス!」
「いや振り向かないと次に移れないんだけど。」
「それでも!」
生まれたての姿になってもこれだけは譲れないと主張する鳴、到真も年頃の少年なので興味ないとは言わないが安全に下準備するためにもどうにか納得させたい。
「分かった、分かった。なら誓約でも結ぶか?俺が裸の件をばらしたら俺の下半身のアレが死ぬとかで」
「.....本当に?」
「ホント」
そもそも脱がせなければこんなことにはならないのだがしょうがない、しょうがないのだ。
訝しつつも鳴も同意見なので到真が言った条件で誓約を結ぶことを渋々認めた。
そうして振り向いた到真だが目の前のモデルにも引けを取らないスタイルと中々の胸に一瞬目が留まったが理性で振り切り次のステップへと移った。
「次は体のどこかでもいいから触らせてくれ、背中でもいい。」
「これで強くなれなかったり、どさくさ紛れてセクハラしたら訴えるから」
本気の注意に到真も真剣になったがそうして鳴の背中に触れて彼女の霊力を自らに通した。
「ここから変な感覚がお前を襲うがセクハラではぞ、本当にセクハラではならな」
「なら早くして」
真っ当な指摘に到真がハイ....、と返事した途端に先ほども言った感覚が鳴を襲った。
「ッッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?」
全身を襲う未知なる感覚、少しでも気が緩んでしまえば理性が飲まれそうな感覚に必死に抗う。終わりがいつになるか解らない中続いた衝撃もしばらくして終わりを迎えた。
「ハッッ............ヒィ............」
緊張が解けた鳴だがその体は薄い桜色にほてっており口も目もトロンとしておりその姿は発情してしまった雌動物だった。
「こんにゃんでぇ.........ちゅよく.........なれにゅのぉ.............」
「下地は整えたからな」
呂律が回らないながらも問いかける鳴に到真はながらも肯定しつつ服とアイテムボックスと呼ばれる空間に入れてあった新品のタオルを鳴に渡した。
「そしたらさっき俺に撃った要領であの鉄屑に雷撃を撃ってみてくれ」
着替えてしばらくして余韻も落ち着いた鳴に指示を出す到真に若干疑いの目を向けつつ先の詠唱を唱えて【雷撃槍】を発動させる。
すると、今までは鉄の山の一部しか貫けなかった雷撃が鉄の山を穿ちその奥にあったものまで穿ったのだった。
あまりの威力向上に対して戦々恐々する鳴に対して到真はやはりどこか納得している。
どういうことかと問いかける鳴に返答はシンプルだった。
「あくまで霊力の流れを効率化しただけだ。今まではあの術で十の威力を出すのに100の霊力を使っていたようなものだったが、魔力回路と呼ばれるいわば効率のいい魔力の流れる道を整えたことでしっかり100の霊力に対応した威力が出せるようになっただけだ。」
あくまで効率が良くなっただけだがな、そう言い添える到真だったが鳴はここまでの成長に心ここにあらずの状態であったのだった。




